36話 修羅場
「じゃあね、拓哉」
何事もなかったかのように、手を振りながら後ろを向く。そして、走って帰ってしまった。
俺は、時が止まり、マネキンチャレンジをしているように数秒固まる。多分、いまマネキンチャレンジの世界大会があったら余裕で一位だろう。
俺は、空を眺める。本当に好きって、本当にって何? それに、キスも。
もー俺は頭を抱えながら、重い足を動かす。
あれから、一週間が経ち、俺は今ココアを飲みながらライトノベルを読んでいる。
凜先輩から連絡は来てるが、内容が、内容だ。
毎日連絡が来ていて、好き。と毎日送られてくる。
その連絡が来るたび、俺は電話をするのがルーティンとなっていた。何故か。
学校で話すときどんな顔をすればいいんだよ。俺はライトノベルを読んでいるはずなのに、凜先輩のことばかり考えていた。
はあ、と溜息を吐く。本を閉じ。外を出ることにした。
玄関を開け、外に出る。そして、玄関の前に座っている志保がいた。俺は、そっと玄関を閉じる。
妹よ、遊びに行くぞ!!!
ノック音が鳴る。
俺は、恐る恐る玄関を開ける。
「やっほー来ちゃった」
明るく言う志保に俺は優しく言う。
「ど、どうも」
「なんか、凜先輩の扱いと私の扱い違くない?」
ほっぺに人差し指を当てる。そして首を横に傾ける?
あのーなんで知ってるの?怖いよ。
「いや、そんなことないぞ」
「そうなの、じゃあ、キスしてよ」
目をつぶり唇を尖らす。なんでそれも知ってるんだよ。後、俺がキスしてないし。
てか、本当に俺はキスをされたのか、改めて考えると照れてしまう。
「まさか、凜先輩を思い出してるの?」
鋭い目つきで俺を睨む。
「いや違うぞ、ただ、いきなりキスって恥ずかしいよ」
「ふーん」
目を細くする。
「じゃあ、遊びに行こうね」
そう、言い俺の腕を引っ張る。俺はいわれるがまま志保について行った。
そして、着いた場所は凜先輩と行った、カフェだった。まさか、全部知っているのか。
俺は、ゆっくりと志保の方を向く。
俺は何も言っていなのに、志保は言う。
「全部知ってるよ」
そうか、知ってるのか、ならよかった、ってなるのかよ。こえーよ、マジで。
俺たちは店に入る。窓側の席に座り、俺の目の前に志保が座る。
「なんで、そんなに笑顔なんだよ?」
「だって、このカフェで一緒に飲むのは私が初めてでしょ?」
そんなのが、価値あるのかよ。
「確かに、凜先輩とは飲めなかったし」
「私の前で他の女の話をするんだ」
「いえ、していません」
「そう?ならよかったよ」
満面な笑みを浮かべる。
俺たちは飲むものを決めて、呼び鈴を鳴らす。
ふと、横を見る。
「注文の匂いがした」
もちろん、顔の距離は近く、2分ほど見つめられる。
そう、優香がアルバイトをしていた。いや、ここでアルバイトって絶対に忙しいぞ?
それより、大丈夫なのかよ。優香は静かなタイプだ、それがカフェでバイトって大変じゃないか?俺は余計な心配をする。
「ち、近いよ」
「ごめん」
そう言い、けど、まだ見つめられる。
「注文いいかな?」
「どうぞ」
「この、人気なコーヒーを2つお願いしてもいいかな?」
「かしこまりました」
また、距離が近くなる。
数分後、優香は戻って行った。
そして、俺の足が踏まれる。
「誰?」
少し、怒っているように見える。いや、絶対に怒っている。
「前の会議の時にいた、優香って人だよ」
「へー。なんで親しいの?」
「いや、俺もわからないんだ、いつも距離が近くて」
「ふーん、そうなんだ」
完全に怒っている。志保は、愛が重いのはわかっている、だから、これ以上トラブルが増えるのは危険すぎる。ここで、環奈とかに会ったら大変なことになるぞ。
数分後、優香がコーヒーを持ってくる。
「お待たせしました」
また、距離が近い。
「え?拓哉っちじゃん」
その時、今一番会いたくない人ランキング一位の環奈の声がした。いつの間に環奈が俺たちから少し離れた席に座っていた。
俺は、ゆっくりと、志保の方を向く。どこからみてもわかるように怒っている。
絶対に怒っている志保と、ずっと、顔が近い優香と、体を揺らしながら手を振っている環奈。
あのーここから入れる保険ってありますか?そうですか。ないんですね。




