19話 音楽は人を浄化する
金曜日の朝。
俺の教室は空気が変わっていた。俺の机に張り紙が貼ってあった。
『クズ』
正義感のつもりだろう。
俺は誰が噂を広めているのかを知っている。
犯人は俺をおびき寄せてる。確実にヒントを与えている。
どうして君なんだよ。
こうなることは知っていた。だから早百合にも言ってある。大丈夫俺はやれる。
まずは演奏会に向けて練習するだけだ。
成瀬が俺の隣に座る。
「本当にあいつなのか」
「多分な、けど今は確かめない」
「でも、大丈夫なのかよこの状況」
「大丈夫、慣れてる」
晴れない表情をしていた。
「じゃあ、例の約束頼んだぞ」
「ああ」
成瀬は自分の席に戻った。
「拓哉!!」
志保がドアの前から俺の名前を呼ぶ。
俺は志保の方に行く。
「志保どうした?」
「噂聞いたよ大丈夫?」
「ああ、なんとも」
「本当に?私がいつでも助けるからね」
「ありがとう、ところでさ」
「志保って何年生だっけ?」
「えええ、覚えてないの?」
「一年生、だ、よ」
やっと気づいたの?と満面の笑みをしていた。
「じゃ、私行くから。ピアノ頑張ってね」
ピアノね。
「おう、来週の金曜日にな」
「楽しみにしとくよ」
今度は嘘の顔を作って笑っていた。
授業は全く集中ができなかった。いつの間にか放課後になっていた。
俺にはやるべきことがある。まずは、ピアノだな。
俺は部室に向かった。
部室に入ると琴音と早百合がいた。
「大丈夫??」
すぐに心配をしてくれた。
「ああ、大丈夫だ」
早百合には俺と教室で話すのは控えようと相談していた。琴音は違うクラスなので言う必要が無かった。
「協力ありがとな」
「ええ、でもなんで噂になるのが分かっていたの?」
「まだ、教えることができないんだ」
「そうなのね」
「ごめん」
「あなたが謝ることじゃないよ、噂を広めた人が悪いんだよ」
「そうだな」
「ピアノどうするか?俺でもいいの」
俺は琴音に聞く。
「うん、私は拓哉のこと信じてるよ、だって私拓哉のことが好きだもん」
悪魔ですよ。人を殺せるレベルで反則だよその発言。
「私もよ」
「張り合わないで」
これ以上は冗談と思えなくなってしまいそうだった。危ない。
「俺家でピアノの練習してくるから」
「家でやるの?」
「ああ、演奏会でソロもあるんだろ?練習しなきゃ」
演奏会は対戦みたいなもんだ。
4人が演奏会に参加する。2グループに分かれる。
そして、ソロ、連弾、と2回ピアノを弾く。
志保は、今はソロが厳しい状況だ、だから俺が弾くことにした。
「ありがとね」
お礼を言われる。大したことじゃない。俺は琴音に楽しくピアノを弾い欲しい。これは理想ではない、願望だ。
「頑張ろうぜ」
「うん」
そして俺は家に向かった。
俺たちはピアノの練習をこれでもかというほどした。
そして、木曜日、演奏会当日。
木曜日の6時間目の授業は演奏会で体育館だった。
俺と、琴音は緊張をしていた。
「大丈夫、連弾をあれほど練習したんだから」
「そうだよね」
「ちなみに、ソロは任せろ。マジで一番上手いよ」
「期待してるよ、天才ピアニストからソロを奪ったんだから」
「そうだな、泣くなよ」
開会式が始まった。
生徒会長の凜が挨拶をする。
「いよいよ始まりました。演奏会」
うおおおおーと盛り上がる生徒たち。
そして少し震えている琴音。
俺は、琴音の手を握る。
「な、なによ」
「今だけ」
「それなら、許す」
「では、演奏者はピアノの前に」
俺たちはピアノの前に立つ。
すると、俺のことを見てびっくりしていた。まあ、無理もない。
相手は、あの美男子と女子だった。
「連弾の準備をお願いします」
俺たちは二人で座るには狭すぎる椅子に座る。琴音を見ると緊張をしている様子が見える。
「この、演奏会終わったら遊びに行かないか?」
「いいね」
自然の会話をする。この速い鼓動を隠すために。
俺たちの連弾で弾く曲は、散るさくら、という曲だ。 悲しい曲なのに悲しくなく新しい何かを見つけた曲だ。
俺達はピアノを弾く。
2つの音はやがて1つの音になる。
俺達がピアノを弾くんじゃなくてピアノが俺達を弾いていた。
そして、音が高くなる。まるで、桜が散るみたいに、けど、悲しくなく新しい桜の木を見つける。
一気に音が低くなる。心を表すような音。
4分間の演奏は終わっていた。全生徒は俺達しか見ていなかった。最初は騒いでいた男子や女子は静かになっていた。
盛大な拍手が響く。
「頑張ったな」
「うん、私たち天才かも」
「そうかもな」
俺たちは喜んだ。二人の頑張りを褒め合った。
けど、余韻に浸る暇はなかった。
5分後。
俺は深呼吸をする。大丈夫だ、この一週間頑張ってきた。俺は努力の天才。俺は琴音のためにピアノを弾く。心からピアノを楽しめるように、また、みんなの前で弾けるように。
「ソロの時間がやってきました。両者準備を」
俺はピアノの前に立つ。
もちろん批判の声が多かった。
琴音だせよ、あいつって、うわあいつやん、琴音もやっぱ騙されてるな、変われよ下手くそ
など、の批判の声が多かった。
みんなにバレないように隠れて横に座っている琴音。
大丈夫だよと口パクで言う。
俺は椅子に座る。
花を弾く。俺の今の思いは琴音には幸せであって欲しい。ずっとピアノを楽しんで欲しい。みんなの前で弾けるようになって欲しい。
思いが音に重なる。音が変化する。ゆっくりのリズムが速くなる。音を追いかける。
思いが音に重なり続ける。
まるで、琴音をモチーフにしているような音になっていた。綺麗な音がやがて不協和音に、けど、いつしか不協和音も綺麗な音になっていた。
横を向くと、琴音は泣いていた。手で押さえてるのにそれでも溢れてくようだった。美しい花が雨に打たれてるように。
そして、俺の横で泣いてる琴音と、俺のことを今でも殺したいような、目で見ている志保と目が合う。




