14話 天才になるには努力の天才になるしかない
俺は、今ピアノ教室にいる、何でピアノ教室にいるかって?人を救うためだ。
あの時聴いたピアノの音はどこか悲しい音色だった。
「では、今日はこちらの悲劇を弾いてみましょう」
先生が優しく教えてくれる。
この曲は聞き覚えがあった。あの日聴いた曲だった。
「先生、この曲はどんな曲なんですか?」
「この曲は、ピアノが弾けなくなった人が作曲した曲よ」
ピアノが弾けなくなった人が作曲した。
それは、どれほど辛いことなんだろう。
自分の好きなことができなくなってしまう。
いつも、当たり前のようにやっていることがある日を境にできなくなる。
想像しただけで悲しくなる。
あの日会った彼女はこの曲を弾いていた。もしかしたら、嫌な考えを浮かぶが頭を横に振りピアノに集中する。
「す、すごい」
「え?」
「あなた、才能あるよ」
どうやら、俺はピアノの才能があるみたいだ。
小さい頃やっていたが、飽きたのでやめた。
というか、プレッシャーが凄かった。期待がいつしかしストレスになっていた。
「また、来てね」
そう言われて、ピアノ教室を出た。
時刻は20時になっていた。
20時か、もしかしたらと思い学校に向かった。
あの時にいた保険の先生の車はなく完全に誰も居ない状況だった。
けど、窓が開いていた。その窓から侵入し音楽室に向かう。
音が聴こえてきた。あの曲だ。
この曲を作曲した人を調べた。
中世時代に音楽家と活動していたが、ある日を境に自分のピアノの音が聴こえなくなったらしい、普通の音は聞こえるのにピアノの音だけが聴こえない。
そしてその人は音楽を辞めたと言われている。
音楽室の前で立ち止まる。
俺は、彼女になんて言えばいいんだ。
俺の言葉は無責任すぎる。知りもしないのに勝手に言われるのは苦痛でしかない。
けど、彼女は今葛藤している。もしかしたらピアノなんか辞めたいのかもしれない。
俺は、ドアを開ける。
そこには、悲しそうに弾く彼女がいた。
もう弾きたくないよ、と思っているような。
「よ」
驚いていた。
「また来たの?」
どこか嫌味が含まれていた。
「その曲って悲しい曲だよな、ピアノが弾けなくなった人が作曲した曲」
「私はそう思わないな」
「それは、どうして」
「悲しいより、美しいと思う」
「美しい?」
「あなたには理解できないよ」
「そうか」
「ピアノって楽しいか?」
「分からない」
「でも、やらなきゃ私の長所が無くなるの、無個性になる」
それほど、ピアノが大切なのか?それだけが長所なわけない、分かっているはずだろ。
「なあ、ピアノ辞めたいか?」
悲劇を弾いていた。だから、ピアノを辞めたいのかと思っていた。
「は?なにその質問、私がピアノを弾けなくなったと思ってるの?」
「そうじゃない、君は、そのピアノが嫌いになってる」
彼女は、ピアノを弾くことでしか自分を保てていない。それは、苦しい。
「何その無責任の発言」
「じゃあ、なんであの時弾いていた?今日も、俺が来なくても来ても弾いていたはずだ。誰かに助けを求めている」
「助けなんかいらない、誰も理解できない、だって、私は天才ピアニスト」
「違う、嘘をつくな、本当はピアノなんかやめたいと思っている」
「私は、天才だからピアノをやってる、あなたと違って才能がある」
「天才だからなんだよ、才能があるから嫌でもピアノをやるのかよ」
「そうよ、才能があって、天才だからピアノを弾くの。天才じゃなかったら誰も私を見てくれない。天才ピアニストじゃなきゃ誰も私に興味が無い」
「俺は、違う、才能があるから、天才だからって忖度をしない、俺に相談をしろ。
絶対に助ける。今はピアノが楽しくないかもしれない、けど、いつか、心からピアノを楽しめるようにする」
俺の所に楽譜が飛んでくる。
彼女は音楽室を出た。
どこか悲しそうな顔で。
なんで2回しか話したことないのに、相談しろとか、キモイこと言えるだよ俺。
何してるんだよ。本当に馬鹿だ。彼女の気持ちも分からないのに無責任のことを言った。
最低だ。自分が嫌いになる。
けど、確かに助けを求めていた。
音楽は人を救う効果がある。ただ、作曲家たちはストレスもある。楽しいだけじゃない。
ピアノもそうだ。天才ピアニスト。生まれながらの天才になっているけど、実際は違う、天才は努力ができてから天才になる。
しかし、その努力は口で語ることができない。
周りからの期待。賞賛の嵐。失敗すると批判の嵐。
あの子最近ダメね。などの聞いてもいないのに勝手に言う人。
勝手に評価をする。お願いもしてないのに。
俺はそれが嫌だった。俺は誰のためにピアノをやってるんだろう。
親のため?友達のため?好きな人のため?
答えが見つからなかった。
きっと彼女もそうだ、天才ピアニストという名誉はあまりにも重すぎる。
100%のパフォーマンスをしなくちゃいけない。
パフォーマンスがでなきゃ、批判をされる。
そんなのって、理不尽じゃないか。
天才だって、人間だ。
俺は考えていた。彼女の計り知れないストレスを。
その時足音がした。
彼女だった。
「やっぱり、助けて」
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