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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第一部:小春と時雨の関係の始まり
14/62

第14話冴子と静の気持ち

 どうも最近は学校から早く帰って、時雨に会いたくて仕方がない。


 前だったら、学校に行ったら解放されていいと思っていたけど、今では今日はどんなお菓子を作ってくれるかなとか、何を話そうかなとかばっかり考えてしまう。


 お母さんも昔はよく氷雨さんと世話してくれていたけど、今は昔に仕事を減らしていた分沢山描いているし、氷雨さんもわたしが自由に過ごせる年齢にもなりつつあるので、そこまで過干渉にはしないで済むしって事で、お母さんの手伝いを増やしているから、少し寂しかったのもあったんだよね。


 だから、時雨がいてくれて凄く助かる。


 お姉ちゃんはいつも優しいけど、帰って来るのを待ってるのも多少辛かったし、まふちゃん達と遊んでばかりもいられないし、本を読んでいるだけでは、その話も出来ないし、ちょっと子供らしい苦しみも抱えていたんだ。


 だから時雨がああやって最初は掻き回してくれて、それでも優しく見守ってもくれて、話相手にも段々色々な内容でなってくれるので、それが心地良くなっていってるわたしがいる。


 吸血行為も許してあげられるくらいに、わたしもぐだぐだと言われるかもしれなくても寛容にはなっているんだな。


 で、わたしは一応テストの点はギリギリ危ない領域を回避出来たけど、冴ちゃんが担任の中道静なかみちしずか先生に見て貰うと言うので、わたしも少しだけ見て貰う事にした。


 だって心がふわふわしていて、この頃勉強に手がつかなかったんだもん。こればっかりは時雨のせいにしていいよね。


 だからそう言う意味で、時雨に頼るのも癪なので、ここは便乗させて貰って先生の指導を仰ごうと言う訳。


 何やら冴ちゃんは最近、色々勉強にも張り切っているらしく、それは変に難しい言い回しをもっと言いたいが為だそうだけど、それで普通の小学四年生がしない様な所までやろうとしているみたい。


 英語の勉強も始まっているから、いつそう言う横文字で中二病的なセリフが飛び出すかと構えていたのだけど、今の所そんな気配はなさそうだ。


 それよりも古語を使う事もあって、あはれなるぬいぐるみだとか、我の千里眼はやんごとなき力である、なんか言い出す場合もあって、わたし達には意味を理解するのが追いつかない時もある。


 後で静先生に聞いてみると、この場合は高貴だって意味じゃなくて、並々ならぬって言う意味で、やんごとなきを使っているとか。


 そんなん知るか。中学生になったら嫌でも古文は習うんだし、今からそんな話はして欲しくないんだよ、実際の所。


 まふちゃんは最近お菓子作りを勉強しているらしくて、今日は先に帰ったのだけど、やはりまふちゃんのようにいつもしっかり成績を維持しておかないと、好きに読書も出来ないよね。


 って言うか、読書好きはそうそう高い点を獲得する訳ではないのだ。読解力が高ければそれは補えるだろうとお思いだろうが、基礎学力を疎かにしているわたしでは中々苦労は絶えないのだなぁ。


 ただリーディングテストみたいなのが出来ない訳ではないから、そう言う能力がないのではないと確認出来て、そこは自分でホッとしている。


 あれがわからない人がいるって言うのが、微妙に驚きでもあるし、そう言う衝撃が報告からわかっているのが、今の社会の現状らしいので、読解力を鍛えるのは凄く大事なんだなと痛感してもいるけど。


 そうそう朝は何やらスマホで、辞書を調べて色々また言い回しを考えていた冴ちゃん。


 そしたら、静先生が教室に入って来て、放課後返す事を保障して没収してしまった。のだけど、ここで冴ちゃんが言った言葉が静先生の琴線に触れたみたいだ。何と言ったか。こうだ。


「ああ~、我のペンタングルちゃんを奪わないでくれー、静先生。後生だー」


 とな。スマホにこの子は名前を付けてるよ。しかも何かここに来て横文字だ。少し嬉しい様な、横文字に背を向けていたのを貫いて欲しかった様な。しかし静先生はクスクスと笑って、


「まあ、冴子ちゃんは名前を付けて可愛がってるのね。後でお話聞かせて貰いたいわ。でも学校ではあまり大っぴらに使っちゃ駄目よ。それにもう朝の会が始まるんだから。ね」


 と言う流れ。


 そして今、何やら勉強しながら、その話に二人は花咲かせている。わたしだけが落ちこぼれとして一人寂しく勉強しているみたいで、少し釈然としない。


 まぁ、冴ちゃんは成績が悪くなる事もないみたいだから、自主的な勉強なので、その意識の高さは偉いとは思うんだけど。


 いや、まぁそれが自分の趣味の充実の為って理由ではあるのは、少し笑えるよね。


「じゃあ、家にはパソコンとかないかな。冴子ちゃん、そんなのにも名前とか付けてない?」


「うむ、先生。我の母君父君と共有の機械があるが、我はその個体に与えた固有名称はしっかり考案したぞ。両親も破顔して認証してくれているので、何も支障はないのだ」


「ふうん。良かったね、理解のある親御さんで。で、名前は?」


「ダーク・メイガスちゃんだ。凄く趣があって素敵滅法大炸裂だろう!」


 また冴ちゃんはわからない語彙で喋る。しかしそれを普通に受け入れている静先生。何か、この二人は通じ合っていて、二人の世界が構築されている気がする。


 まぁ、静先生は冴ちゃんが制服じゃない小学校だからってヒラヒラの黒いゴスロリ的なな服を着て来ているのを、職員の間でも擁護してくれていて、馬鹿にするクラスメイトなんかを怒ってくれたりもしているので、相当浮きがちな冴ちゃんを気にかけてくれているのだろう。


 それはわたし達に、時々冴ちゃんが困る事はないかなとか聞いて来たりもするので、結構思い入れがあるのかもしれない。


 ・・・・・・ああ、あほくさ。


 わたしばっかり何でこんなアウェーで、嫌々勉強しないといけないんだろうか。それならまふちゃんと下校してた方がマシだったな。


 それで恥を忍んで、時雨に家庭教師をして貰えば良かった。うん、今からでもそうしよう。


 静先生も優しく教えてくれるけど、時雨に教わる方がわたしもなんか張り切って出来る気がして来たし。


 第一、時雨は出来た時に大げさなほど褒めてくれる。もしかしたらご褒美とかも貰えるかも?


「あの、わたしもう帰って家でやるね。先生と話もあるだろうし、わたしだけ進んだ勉強の邪魔するのも悪いし」


「? そうか? ああ、小春はあの召使いがいるものな。あの人なら、適切に小春の習熟度を上昇させてくれる事請け合いだ。我々は勉学を疎かにする訳にはいかんから、ゆめゆめ趣味ばかりに高じて本分を忘るるべからず、だ!」


 何だか諭されてしまった。うん、わかってるよ。


 もっと色々な本読めるようになる為に、わたしはちゃんと国語の勉強はよりちゃんとやろうとは思ってるし。それは冴ちゃんが格好いい言葉の為に、色々な勉強に勤しむような具合だ。


 しかしそんな事より、早く家に帰って時雨の顔が見たいのだ。


 だから返事もそこそこに下駄箱に向かい、靴を履き替えて、校舎を素早く出る。その前に先日入手した写真を取り出して眺めながら、しばし見惚れる時間少々。スマホに入れてるだけじゃなくて、現像しておいたのだ。


 流石にその写真にキスしたりまでは躊躇いがあってしていないけど、時々眺めているとポーッと出来るのだ。


 ふふふ、麻薬などなくても人はトリップも出来るし高揚出来るのだ。これはでも何だか変な扉を開いてしまったかに思えて、まだ誰にも言っていないし、こっそり一人だけで楽しんでいる事なのだけど。


 時雨に知られたら、これは何と言われるかと思うと、ちょっと本当に秘密にしておかないとと考えている。




 冴子ちゃんの事は、担任になった時から、クラスで浮いていて心配だった。


 それを上手く雪空さん達がフォローしてくれてたので、多分少し付き合う子が少ないくらいで済んでいるのは良かったと思う。


 でもそうだとすると、先生である私は何もしてあげられないのがもどかしい。まさか、他の子に遊んであげてねなんて言っても駄目だし、冴子ちゃんが独特な世界を築いているんだから。


 でも冴子ちゃんって見ていると、見惚れてしまうくらい肌も綺麗で子供らしい肉付きの良さで、ずっと見てしまいそうになるわ。


 授業中も気づいたら追いかけそうになってて、時々危ない時もあるもん。贔屓してるつもりはないけど、冴子ちゃんはどうしても良くしてあげたく思っちゃう。だってやっぱり他の子よりも可愛いもの。


 その服装だって冴子ちゃんが着るから、凄く様になっているんだと思うし、言葉遣いだって他の先生は生意気だって言う人もいるけど、私は親しみを感じて生徒と距離が近いみたいで好きなのよね。


 背伸びしてる所が子供らしくて可愛い、なんて言ったら冴子ちゃんに怒られるかしら。でもその為にちゃんと居残りまでして勉強するなんて、志が高くて好感度も上がるってものよ。


「雪空さん、帰っちゃったわね・・・・・・」


「うむ。あいつは心配ない。勉強だって教示してくれる相手がきちんといるからな。それより我は先生と二人で勉強出来るのが嬉しいぞ」


 なんて嬉しい言葉を言ってくれるのかしら。でもそんな事言われたら、静先生は勘違いしちゃいますよ、冴子ちゃん。


 でもそれくらい信頼されてるって事なのかしら。ドリルの問題を解いている冴子ちゃんを見ながら、私は変な事を聞いてしまう。


「そう言えば、冴子ちゃんは持ち物に名前を付けたりしてるのよね。そうだわ、私のスマホにも何か名付けしてくれないかしら」


 じ、と私を見上げて冴子ちゃんは思案する。うわー、そんなに見つめられたら、ドキドキしちゃう。私そう言う緊張に弱いから駄目よ。


「先生は、安楽椅子探偵と足で稼ぐ刑事や探偵、どちらが好みだろうか。そして理詰めなのはどちらだと思う」


「え? どうだろう、安楽椅子探偵ってホームズみたいなのよね。そうね。二時間ドラマとかの見せ方よりは、ホームズとかの方がミステリっぽい雰囲気とか格好良さは出てるんじゃないかしら。それにそうやって見ないで解決する方が、理論はしっかり考えてるのかなぁ。あ、でもホームズは割と操作もしっかりしてて、ワトスン任せばかりでもないか。なあに、冴子ちゃんはミステリが好きなの?」


 突然の質問に私は戸惑いながら、そんな素朴な質問をする冴子ちゃんに笑みが漏れてしまう。


 そんな軽い事を聞かれるくらい仲良くなれてると思うと、私も冴子ちゃんと関わって来た甲斐があったなぁ。


「そうか・・・・・・。いや、王道の風格を先生は愛好するのだな。我も現場を検分していないのに、話を聴取しただけで立ち所に解決に導く探偵は刺激的に思う。我の好みと先生は一緒だな。図形で言うなら相似形と言えるかも」


 ええ? そんな事言ってくれるの。凄く感激しそう。冴子ちゃんと似てるだなんて。


 でもそれはどう言う文脈で発した言葉なのかしら。私のさっきの話はどこに?


「だから我の気に入ってる名前を付けてみよう。フェノメナル・キャットと言うのはどうだろう。猫が好きだといいのだが。それも化け猫の類でも。これは先生と我の感性が近似値を示している予感がするから、こんな名前にしてみたのだが・・・・・・」


「それ可愛いわ。何て素敵なネーミングなんでしょう。猫は飼うのは怖いけど、見てたら癒やされるし、猫カフェとかも実は行った事あるのよね。だから冴子ちゃんがそう言うの付けてくれて嬉しい。そう呼ぶ事にするわ。このフェノメナル・キャットちゃんを大事にしなくっちゃ」


 そう笑顔で応じると、冴子ちゃんはしばしモジモジして、またも私の顔をジッと見つめて来る。


 うう、これは中々慣れないなぁ。恥ずかしいのを克服するのは、教師になってから大分出来たとは思うけど、やっぱり注目されるのは苦手なのよね。


 で、好意的な感情を抱いている相手にそんなに凝視されると参ってしまいそう。そんな私にはお構いなく、冴子ちゃんは言葉を発する。


「その、先生さ。我とアドレス交換せん? もっと先生と繋がりたい。色々相談も乗って貰いたいし。だって我、他人の相談には乗っても、中々自分から心情吐露とか苦手だし・・・・・・」


「まあ。そうね、公私混同だって教頭先生なんかは怒るかもしれないけど、私は構わないわよ。何でも聞いてね、冴子ちゃん。私で力になれる事があれば、何だって力になってあげたいもの。じゃあ冴子ちゃんのペンタングルちゃんだっけ、それと私のフェノメナル・キャットちゃんで交換しましょ」


 そう言って、中断している勉強もそこそこに、私達は場所も弁えずにアドレスを交換し合った。


 こんな個人的なやり取りを生徒とする教師っていけない大人だろうか。でも好きな子とこんなに繋がれるなんて、学生時代でもそうなかったし、こんなにアプローチされる喜びも感じるとは思ってなかったから、凄く今充実してるなぁ私。


 内心はもうヒャッホーな気分ですよ、ええ。


「ありがとう先生」


 ああー、どうしてこうも冴子ちゃんって素直なのかしら。


 私悶えそうで、普通の顔を取り繕うの大変。時折見せる普通の女の子らしい語りがまたたまらないわ。


「しかし我の方が先だが、小春と言い、最近大人と懇ろになっている人間が多いな。出雲も小春にべったりなのに、あのカリスマ女史とは懇意なようだし。いやそれにしても、周りに良くしてくれる大人がいるのは貴重だ。我も先生ともっと親しくなりたい・・・・・・」


 ぶつぶつ言っている冴子ちゃん。


 聞こえてるけど、雪空さんの話も混じっているからあまり聞かない方がいいのかな。


 でも大人を信頼してくれるのはありがたいわね。それももうちょっと大きくなると、反抗期になって反発したりするのかしら。


 私で良ければ、冴子ちゃんにはずっと傍で支えてあげたいくらいなんだけど。


 そう言う話もそこそこに、冴子ちゃんは真面目にまた勉強に取り組んでいく。


 自分の好きな事から、色んな勉強に興味が移るのはとてもいい事だから、素直に私は感心しちゃう。


 私の学生時代を思い出せば、そんなに熱心にやった記憶ってないから、冴子ちゃんは凄いなぁって思っちゃう。


 でもそうこうしていると、もう下校時間になってしまい、私達の夢の時間は別れを告げてしまう。


 だから冴子ちゃんにはいつでもまた見てあげるねと言い、勉強会の約束をしておいて、帰路につく。


 こんなに時間を割いても嫌じゃないのは、やっぱり冴子ちゃんだからなのかなぁ。


 私は冴子ちゃんとアドレス交換した事で満たされて、そのまま気分が高揚したまま、帰っていい事があった時用のちょっといい紅茶でも飲もうと思うのだった。


 それこそヒャッホーと思っているのだから。




 今日も静先生はわたしに付き合ってくれて嬉しいな。


 家に帰って、シャツに着替えるとどうしてもだらーんとしてしまうのだけど、先生の事を考えると不思議とシャキッとする気がする。


 そう。変なキャラでいるのも楽じゃない。勿論、わたしはそれを好きでやっている訳だけど、流石に家の中でまでは演技はしないのだ。


 とりあえず学校の宿題はすぐに学校で終わらせちゃったので、家ではちょっとゆっくりする名目もあって、SFとかを読む。


 地球人が滅亡して、違う世界の人達の仲間入り、そして進化、なんてかなり素敵な内容だと思う。


 悪魔の姿した宇宙人の悲哀なんかもあって、それはそれはアンチ宗教の形ではあるようだけど、ロマンと哀愁をバチバチに感じるので、わたしはこう言う変な作品が好きだ。


 一般的評価では、殊更変な作品などと言われてはいないんだけど。


 今度静先生と本の話もしたいなと思う。


 小春は自分の世界を築いていて、それで何だか難しい内容の物とか、わたし達が読まない様なのばかり読むから、真冬もちょっとどう接すればいいか困惑してる節もある。


 もっと大人になればそれらも触れるのかもしれないけど、まだまだわたしみたいな未熟な子供には無理だ。


 いや、小春は自分にも難しいとか言ってるけど、案外本質を突いた読み方が出来ているんじゃないかな。


 子供、侮り難しって感じで、大人顔負けの感想文とか出してるのをコンクールなんかではよく見るしな。


 しかしそれでもわたし達の中では一番小春が成績は平凡なのだな。


 それは勉強を面倒くさがっていると言うより、もう本中毒気味だから、少しでも時間のある時は読書に宛てたいとか、そんな欲望の表れだろうと推察する。


 恐らく漢字の読みとかは、わたしよりも小春の方が凄く色々読めるんじゃないか。


 ああだから静先生となら至福の一時が絶対に過ごせる。


 静先生は優しいし、わたしの話を熱心に聞いてくれる上に、わたしにわからない話題を無理に振って来る事もない。


 子供と思われてるのは仕方ないけど、それでも子供扱いも悪い印象ばかりではないのだ。


 それに小春のメイドさんには悪いけど、わたしには静先生の方が素敵な大人に見える。


 ほんわかしてる所は親しみが持てるし、長い黒髪を纏めている姿も容姿にピッタリで凄く綺麗に見えるんだな。髪留めも可愛い。


 それに大人は皆髪を染めるんじゃないかと疑っている節がわたしにはあるけど、敢えて静先生はその美麗な黒髪をそのままにしているのがポイント高い。


 静先生の笑う姿を見たいし、わたしも静先生を見て笑いたい。


 小春達とは子供の世界で付き合いが発生して、凄く良くしてくれて楽しいのだけど、静先生と話していたら早く大人になりたくなって、横に並んで静先生ともっと話したくなる。


 でもそれだとわたしみたいな痛い子供のままだと、静先生には迷惑なのかな。先生がゴスロリ服の愛好家と仲良くしてたら、周りの人、特に担当している生徒の保護者はどう思うだろう。


 そもそも、わたしとこんな密会みたいな事してるのがわかったら、他の子や親はどう言うかな。


 わたしも静先生を見習って、髪を伸ばしているんだけど、中々それが邪魔に思えたりする事もあって、どうも慣れない。


 でももっと綺麗にもなりたいし、静先生にも近づきたいから、頑張りたいんだ。勿論、わたしのアイデンティティになっている格好を止める気は更々ないけどね。


 それもでも中学になって、制服着なくちゃいけなくなったらどうしよう。何かワンポイントの物で強調しようか。それとも外に出て行く時に着ていく方がいい?


 ああ、先の事考えたってしょうがない。周りをもっとよく見て、今を楽しまなきゃ。その時になったらまた違う方法を思いつくかもしれないし、気分も違うでしょ。


 そんな思考過程を経ていたら、静先生に何か言いたくなってしまう。だからメッセージを送る事にした。文面を暫く考えて送る。こうだ。


「静先生、大変恐悦至極、平時から感謝の気持ちが高ぶるばかりだ。我は静先生の眉目秀麗で可憐さも備えていながら、その大人な判断力と包容力に、いつも癒やされているぞ。そして安らぎを感じている。我は更に精進して、静先生に見合う立派な大人になりたいものだ。また勉強の面倒を見てくれたら、光栄に存じます」


 ちょっと長いかな。と思ってたら、割と早く返事が来た。


 何だか慌てた文章が綴られているけど、褒められ慣れていないのか、凄く照れているようなのだ。フェノメナル・キャットちゃんを前に赤面してあわあわしている姿が目に浮かぶ。


 わたしもペンタングルちゃんをジッと見つめて、今度読書会とか本の勧め合いっこもしたい、小春みたいなのは勘弁だ、とかそんな感じで送ると、それにも了承の旨や冴子ちゃんの気に入りそうなのって何か想像もつかないなーと、ぼんやりしたいつものノンビリさんの静先生がそこにいて、やはりわたしは安心するのだった。


 そうだ。もうちょっとしたら、プールも始まる季節が迫って来る。そうしたら、また静先生の水着姿を拝めるんだ。


 ただあれを他人の目には極力触れさせずに、自分のだけにしておきたい願望もわたしにはある。


 年々加齢していく中で、特に男子には見せたくない気持ちが強い。別に静先生はグラマラスって訳じゃないのにだ。


 縁による結ばれた我々の運命を交錯させるべく、共に何処かで水と戯れようではないか、そして我に泳ぎを教示してはくれまいか、とか言ってみようか。


 いや、それなら小春達も呼ばないと不自然かな。


 わたしが静先生を好き過ぎるのが今でも伝わってるかもしれないけど、それ以上に恥ずかしい様な接続がされてしまうかもしれない・・・・・・。


 それはまだ嫌だ。


 告白するなら、もっとしっかり準備が整ってからにしたいし、今はまだ相手にしてくれないだろうから、静先生に釣り合う大人になるのを待たなくてはいけない。


 まったく、忍ぶ想いも楽じゃない。


 小春達みたいにストレートに想いを表現出来ればどれだけ軽くなれるか。いや小春は若干ツンデレ気味か。


 でもまぁ、わたしはそう言う星に生まれているのかもしれないし、自分がまだまだ未熟なのもわかっているし、静先生には相応しい人に隣にいて欲しいから、精進あるのみなのだ。


 ディシプリン!




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