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第11話 イケメンとサッカー


 相棒自転車のイケメン号に乗り込んでペダルを漕ぐ。



>で、なんで自転車なんだよ。バス通学だろ


「お前はわかっていないな。なぜ自転車で十分なのに金をかけてバスで行かねばならないのだ」


>つっても学校まで13kmはあるんだから当然だろ!


「それが判っているから、自転車なのだ。朝から晩までダイエットに決まっている。ちなみにだが、俺が促して妹のサキや母上殿もダイエットを始めている。俺に触発されたのだろう。毎朝、めげずに中学校まで走って、グラウンドで全力ダッシュ、そして腹筋、背筋、腕立て伏せもしている。初日は25mを1往復するだけで限界だったが、体力がついて限界が伸びてな。毎朝5時半に起きて家族みんなで減量しているのだ」


>な!? なんで、そんなこと!


「不思議か? だが、デブから痩せることにメリットはあれどデメリットはない。俺の持つ知識をフル活用してみんなで力を合わせてダイエットだ。己への戒めと、家族同士、ダイエットの監視を行うためにな」



 立ち漕ぎでギッコギッコとペダルを漕いで坂道を上る。


 乳酸で足がうまく動かないが、それすら根性で無理やり押さえつける。


 すでに全身が汗だくだ。

 もちろん、当然のことながら着替えは準備している。学校についてから着替えるのだ。

 更衣室とかトイレとか、まあ、どこでもいい。



 授業開始の時間はすでにサクラから聞いているし、時間割も問題ない。


 今日は体育の授業があるから、体操服ももちろん準備している。



>なんで、そこまでするんだよ


「お前から依頼されたからな………。痩せたい、とな。それに俺は全力で応えるだけだ。一応、お前にリア充生活をプレゼントしてやると誓ったし、貴様が放り出さない限り、尽力する」



                   ☆



「イケメンが学校に到着したぞ」



 もう汗でべとべとだ。

 俺の半径5mには人間と豚のハイブリッドされた匂いが充満していることだろう。

 そう、その匂いで満たされている。


「ふむ、結構早く学校についたからか、人は少ないな」

『今は7時だねー。0限目の開始が7時30分からだから、そろそろ人が来る時間だよ。着替えるなら急いだほうがいいね』

「そうだな。じゃあトイレで着替えるとするか」



 よいしょよいしょと階段を上って、1年生の教室は3階なので、そこのトイレで個室に入り、汗を拭いて、肌着をビニール袋に入れる。


 ちなみに、この肉体はすぐに汗をかくから、着替えは最低5着ほど準備している。


 ビニールに入った豚汁入りの肌着をバッグの奥底に封印し、着替えている間にいい感じの時間になったので教室へと足を踏み入れた



「おはよう!」



 教室に入るなり声を上げて挨拶。

 長い間学校を休んでいたから、一応声を出して自分の存在を周囲にアピールせねばならん。


「あん?」



 教室にはすでに多数の生徒が居た。物珍しそうにこちらを見つめる。

 ごくまれにガラの悪い生徒がこちらをにらみつけてくる。


 はっはっは、かわいいものよ。イケメンたる俺にそんな睨みは効かぬわ!


「豚が学校に来てんじゃねーよ」

「クセーんだよ、死ね」

「これはこれは、辛辣な言葉をありがとう。これからも仲良くしてくれ」


 ふむ、登校初日からこれか。


 ブレザーの肩口に刺繍されている名前で本人の情報が判るのはいいな。


 茶髪のイケメンが坂本くんと、赤髪のフツメン有馬くんだな。名前が判明したら嫌だと言われても名前で呼んでやろう。


 今までのノブタカなら、委縮して小さくなったりしたのだろうか。目を丸くして俺をじっと見る坂本。


「おいどうしたイケメン。このイケメンの顔にニキビでもついていたか?」


 そして、『自分がイケメンであると信じて疑わないデブ』である俺は、自信に満ち満ちた表情で胸に手を添えて聞いてみる。


 俺の心の中でノブタカが『おい何してんだよ!』と声を荒げてくるが、努めて無視する。


「は? イケメン? 豚が人間の言葉喋ってんじゃねーよ。キモイんだよ」


 一瞬目を丸くしたものの、まさかそんなふうに返されるとは思わなかったのか、イケメン坂本君だけではなく、教室に居た生徒全員が俺を凝視する


「っふ、俺はなにも間違ったことは言っていないさ。俺は開き直った。誰がお前たち人間と同じ土俵に入るものか」


 ふんと鼻を鳴らして坂本を睨みつける


「ぁあ!?」


 にらみを返す坂本。

 だが、俺に口で勝つなら、あと15年たってイケメンにさらなる磨きをかけてからにするべきだったな。


「くっくっく、さっき、俺のことを豚と言ったな」

「はっ! だから何だってんだ」


 俺を見下して鼻で笑う

 周囲のクラスメートも『豚だろ、何言ってんだこいつ』と俺に注目しているのがわかる


「その通り! 事実、俺は豚だ!」


 ええーっ! と、まさかの認める発言に、どこからともなく驚愕の声が聞こえる



「だが、ただの豚ではない。俺は『豚界の超絶イケメン・ノブタカ』だ」


 バン! と腹を叩いて腹を強調する

 そんな俺を、あんぐりした顔で見つめるクラスの連中

 『なんでやねん』『なんでそこに終着するんや!』というクラス連中の心の声が手に取るようにわかる!

 なぜなら、俺がイケメンだからだっ!!


「そして、豚界の超絶イケメンである俺は、お前たち人間に、ひいてはイケメンに宣戦布告をする」


 ビシッ! と坂本くんを指さして宣言する


「豚の俺が、人間を征服してやるよ。だから………暖かく俺のダイエットを見守っててください」



 ビシッと最敬礼をして頭を下げる。

 今までのネガティブな強気発言からの低姿勢。


 ギャップをうまく使って、視線を集めてから宣言する。


「国見くんダイエットするんだ、頑張ってね!」

「応援するぞー、国見」

「ま、国見の体型からだと無理だろうけどなー」



 ちらほらと応援の言葉をいただきました。

 くくく、無理、か。


 こいつらは知らないのだ。


 『イケメンに不可能は無い』ということわざを


 そこで、イケメンはさらに語り掛けて、みんなの輪の中に一気に入りこむ


「クラスメートの人間諸君。俺を国見などと呼ばないでくれ」


「「「 は?? 」」」


 また何を言い出すんだこいつ、という視線を貰う。


「さっきも言ったが、俺………ノブタカくんは人間ではないのです。だから、愛称を込めて、今度から俺のことは『ブタくん』と………そう呼んでくれ」



 その瞬間、クラスの連中が吹き出した

 掴みはOKだな。初日からいじめられるようなことにはなるまい。



 クラスの中心となる人物は、『発言権を持つ者』か? いいや、違う。『発言をする者』だ。


 静かに教室で本を読む人も居るだろう。

 おそらく、ノブタカは机に突っ伏して寝るかラノベを読むかの2択だ。

 だが、それだけではいけない。『発言をする者』にならねば、人生は底辺のままだ。


 そこを、俺が改革する


 クラス内の発言権を、俺が奪うつもりでガンガン発言していく。

 恥ずかしがっていたら始まらない。



 さあ、楽しい授業の始まりだ!!




                 ☆



「イケメンが体育に参加するぞ」



 体育服に着替えてグラウンドへ



「今日の体育は、男子はサッカーだ。怪我の無いようにしろよ」


 体育教師がボールを手に取って生徒の一人、イケメン茶髪の坂本に渡してくる。


 ヤツが体育委員なのかもしれない。


 準備運動を済ませて、チーム分けを行うのだが



「ブタくんをめぐって、チームが争っている………! やめて! ブタくんのために争わないで!」


 そう、あろうことか、どっちのチームに俺が入るか、それで男子生徒たちが争っているのだ!



「ざけんな、てめえがいらねえから押し付け合いになってんだろうが!」

「ほう、では本人の意思を尊重してもらおう。坂本、俺はキミと同じチームがいい」

「いらねっつってんだろ!」

「問答無用。先生! チーム分けが終了しました!!」

「てめえ!!」



 俺はチーム分けが終わったことを先生に知らせると、先生は「じゃあ俺は人数の少ないそっちのチームに入るからな」と、敵チームとなって参戦し始めた


 今にも胸倉をつかみそうな坂本。だが、先生が視ている手前、そんなことはできないようだ



「チッ!」


 舌打ちをして俺を睨みつける坂本。



 これは、パスと称してシュートを俺の顔面にプレゼントしてくれそうな雰囲気だな


「あ、フォワードは俺が入る」

「てめえが決めんな! チームリーダーは俺だ! てめえはキーパーでもやってやがれ!」


 キーパーなんかやったら恰好の的じゃんか。やるわけねえよ。


「おーい、早く配置についてくれー!」


 おっと、こちらがごちゃごちゃやっているうちに試合開始のホイッスルが近い様だ。

 体育教師が急かしてくる。


「キーパーしてもいいが、今の俺はダイエット中だ。キーパーが不在になることを心せよ」

「………チッ! あーもー!! 浩太! キーパーやれ! フォワードは俺とこの豚だ!!」


 どうしても俺が折れないことを悟った坂本は、時間もないと判断して赤髪のフツメンにキーパーするように指示を出し、フォワードに俺を入れてくれた


 今までならこんなデブは卑屈でイエスマンだったろうからさぞかし楽だったろう。


 でも、ここにいるのは自分の意思を曲げない、はっきりと物事を言う超絶イケメンである豚だ。


 さぞやりにくかろう。

 だが、イケメンは自分の意見をそうそう曲げん!



             ☆



 コッチのボールでゲームスタート。


 ふははは、初めから飛ばしていくぜ!


 坂本がチョンと蹴ったボールを坂本に蹴り返し、俺は全力疾走でゴール前に向かってダッシュする


 当然、オフサイドを取られないようにしながらだ。


 だが、豚が全力で走ったところで、鈍足には変わりない。

 俺から受け取ったボールを蹴りながら坂本は次々に人を抜いて行く

 俺と坂本がゴール前にたどり着いたのはほぼ同時。

 むしろ俺が少し遅いくらいだろう


 ここ一週間、必死で体力をつけてよかった。


 全力疾走にも身体がついてきてくれる!


 それにしても、ふむ。やはり坂本は運動能力が高いな。

 イケメンになり得る才能を持っている。


 だが、他人を見下すその性格は見過ごせん。


 坂本は一人で突っ走った弊害か、すぐに敵に囲まれてしまったようだ。

 俺は坂本のすぐそばに駆け寄り、声をかける



「後ろだ」

「うるせえ!!」



 それでも、デブに頼るのは癪なのか、一喝して黙らせた


 無茶をして突っ込むのは、ほとんどがサッカー未経験者だからで、本人がサッカー部のエースだからなのだろう。


 俺だって、別にサッカー部に所属していたことはないし、ルールだって詳しくは知らない。


 だが、頼るべきところは頼る。それがイケメンになるコツだ



「くそっ!」


 無茶な体勢でシュートを、放つが、キーパーのパンチングによって弾かれてしまう


 そこに、テンテンと転がってきたサッカーボールが、俺の足元へ。もちろん、イケメンによる先読みである


 快進撃を続ける坂本を止めるために大人数を坂本へと向けていたらしく、俺のポジションは、ゴールまでガラ空きだ。


「ピザデブシュートを食らえ!!」


 ジャンプパンチングで倒れているキーパーの上を、山なりでふんわりとすすみ、ゴールを決めた



「ふぅーーっ! へいへーい! 坂本ばっかに気を取られんなよ!コッチにはピザがいる事を忘れてもらっちゃ困るぜー!」


 驚愕した表情で俺を見つめる生徒たち

 まさかピザがゴールを決めるとは思いもよらない結果だろう


 俺は両手の人差し指を立てて前に突き出し、一回転。



「坂本、ナーイスアシスト」


 坂本の背中をポンと撫でて嫌みを言うと、プルプルと震えて今にも射殺さんばかりに睨みつけてくる


「さーあ切り替えだ! 俺はボールに全力で走りに行くぞ! 俺の尻拭いはみんなに任せた!」


 それを軽く受け流す。スルースキルもイケメンには必要な技能だぜ



「もし、このピザデブである俺がハットトリックを決めたらァ、俺のチームみんなにジュースをおごってやらぁ!」


 俺が声を張り上げて自分のチームに宣言すると、チームメイトがわっと歓声を上げた!


「ブタくん! ハットトリックをきめられなかったらどうするんだー!?」


 おっと、敵キーパーの奴がそんなことを聞いてきた


「特に何もしない! だが、この試合で俺のチームが負けるようなことがあれば、相手チーム全員に、ジュースを奢ってやる!! 痛いのは俺のサイフだけだ! 全力でかかっていくぞ!!」


 俺の宣言に相手チームのやる気も跳ね上がる


 先生が額を押さえているが、コレがイケメンによる、人間のノせ方だ




「ただし! 俺がハットトリックを決めた挙句に俺が試合で負けてみろ! 俺と同じチームの奴はピザデブ以下だ! ピザデブ相手の試合でぼろ負けする敵チームだって同じだぁ! 俺がずっと蔑んでやる。手を抜いたら………わかってるだろうな。豚以下の劣等種族予備軍らァ!!」



 天井に指を高くつきあげて校庭どころか、校舎にまで届くであろう声量で馬鹿を叫ぶ!



「ざけんなブタァ! 人間様にたてついてんじゃねえぞおらぁ!!」

「おうやってこいや! このピザは全力で点を取りに行くぞァ!」



 ピザデブに蔑まれる未来は望んでいるはずがない


『フレー! フレー! ブ・タ・くん♡ フレー! フレー! シ・ノ・ブ!』


 一般イケメンには見えないサクラも、陰ながらチアの格好をして応援してくれている。


 相手も、味方も、全力を出し切る試合が今………始まる………!!






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