違和感
「そういえば、メイロ」
ホロ新聞をめくりながらテラムは言う、ホロ新聞には故郷に帰ろうという広告が書いてあった。
「この前俺の故郷には行ったじゃないか」
「そうだねー」
フールフォン、略してフルホを逆さまになりながら見るメイロは答える。
「よくあんな無機質なところで生きてきたよねテラム」
「俺の魔法のこと考えるとある意味正解だった場所ではあるけどな」
ホロ新聞をたたんで。
「それより、お前の故郷に次行かないか」
「いいよ、何もないけどね」
メイロはフルホを置いてAIアシスタントに聞く。
「ねぇ、エリアL、FA-91-A番地までの経路は?」
「まずは近隣のテレポートステーションに⋯」
「あー、旅情ある感じがいいなぁ。
歩き少なめでゆったり移動できる」
「それでしたら、毎時1本出ているリニアモーターカーの直行便がおすすめです。
エリアL北東駅でおりましたら、音声案内に従って道を進むとたどり着きます」
「だってさ、いこうよ」
「そうだな」
音もなく走るリニアモーターカー、流れるセンターシティの景色。
「駅弁もらった?」
「フレークセットをもらった」
「私はコレステロール爆弾」
「また叱られるぞ」
「普段は緑色の食事しかしてないんだもん、こういう時ぐらい贅沢したい」
そう言ってメイロは今日の自分の健康チェックをすると。
「1日の摂取カロリーの推奨量を超えました」
「ほらな」
「げ」
「まもなく、エリアL北東駅」
「降りるよ、歩きで戻るのは勘弁な距離だからね」
「EF番地⋯次かな」
「エリアLの端っこなんだな」
「番地でなんとなく察せれるでしょ」
「まあ」
何もない住宅街を進む、メイロの元住居がやってくる。
「ここ」
「そうか」
「⋯」
メイロは違和感を覚えていた。
数週間ぶりの故郷。
見慣れていたはずの街並み。
なのに、歩いても歩いても胸の奥が静かなままだった。
「部屋に上がろうよ」
自分の部屋、テラムの家に住み着く前と変わらない。
雑多なものが並び、散らかる。
多くの写真、小道具、ゴミ。
「あれ私、こんなところに行ったっけ」
写真の一つを拾い上げて言う。
「メイロ?」
「ああいや、なんでもないよ」
「母校は⋯古餡学校か」
「うん⋯」
「どうしたんだ、歯切れの悪い」
卒業アルバムをめくるメイロ。
全員、知らない人だ。
挟まってた通学路の写真、あまりに新鮮な景色。
置きっぱなしにしてたフォトスタンドを回す、海辺、山頂、展望台、こんなところで写真を撮ったっけ。
「変なこと言っていい?」
「メイロがまともなこと言うことのほうが少ないだろ?」
「あのね?
なんか、何の感情もわかないの。
懐かしいとか、ノスタルジーとか」
メイロはアルバムの一幕、定期旅行の1枚。
月面で転ぶメイロの写真があった。
「月の景色を思い出せないの」
「⋯ということは?」
「なんか自覚なかったんだけど、私記憶喪失になってたみたい」
テラムはしばらく考え込む。
冗談を言ってるわけじゃなさそうだ。
「⋯まずは受診だ。定期診断じゃ心の内まではわからない」
「そうだね」
最寄りの病棟に向かう、そこで精神的な診断を繰り返し受けて⋯
「診断結果ですが、残念ながらあなたは記憶喪失の症状があります。
強いトラウマか、事故か、病気かで記憶が欠落しています。
脳構造に欠落は見られないため、今は思い出せないだけで思い出すことは可能と考えられます」
医療ボットは続ける。
「また医療的に記憶を消した履歴がありません。
そのためその記憶は精神健康的に思い出しても問題ない記憶と思われます」
「そうですか⋯」
「記憶を思い出すため脳を活性化させる薬品があります。
服用しますか?」
メイロは考える、失われた自分の過去を探求。
なんて面白そう。
「薬以外で思い出すことってできるんですか?」
医療ボットは淡々と続ける。
「古代から続く方法ですが、記憶にかかわる場所を巡りながら神経物質を活性化させることで思い出す可能性もあります。
やや確実性に欠けます」
「いいんです、そのほうが面白そうだから」
テラムのところに戻ってきたメイロ。
「⋯というわけで、私の過去を思い出す旅に付き合ってもらうから」
「また旅行か、別に暇だからいいけどな」




