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ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ  作者: 京衛武百十
新世界の章
110/115

何も悔いはない

「マスター。フルメンテナンスの準備が整いました」


そう言ってリビングに入ってきたのはリルフィーナだった。私のフルメンテナンスの用意をしてくれてたんだ。


「よし、じゃあ、始めようか」


博士に導かれて、私は、メンテナンスルームへと入った。とは言っても、最低限の機器しか置かれていないから、それほど高度なメンテナンスが受けられるようには見えないだろうな。だけど博士の手によるその<最低限の機器>が、私の知るどんな最新の設備よりも高度なんだ。


ただし、それを一般向けに販売するとなれば、資源惑星が一個買えるほどの値段になるそうだけど。


加えて、博士自身の技術が常軌を逸してるレベルだから、その気になれば市販の部品を一切使わずにメイトギアを作り上げてしまうことだってできるだろう。


しかも博士にとっては、人体もロボットも大きな差はないらしい。生命すら<メカニズム>でしかないそうだ。だから多くの人間が感じているような『命は何ものよりも大切』という感覚がない。人間として生まれた本来の自分自身すら<取り換えの利く部品>程度にしか認識していないそうだった。それが故に、<CSL感染に関する実験>に利用してしまえたんだ。


普通の人間からしたら本当に<狂人>だと思う。


なのに私は、そんな博士のことを信頼している。


ううん。人間の言葉を借りるなら、私自身が<リヴィアターネ人という人間>だとするなら、私は確かに博士を『愛してる』んだと思う。


『この人になら、何をされたってかまわない』


って思えるくらいに。


メンテナンスだと偽って私を解体して、<資料>にされたっていい。


そんな風にさえ思う。


これを自覚したのはこうして再会してからだけど、たぶん、博士の下を去った時にはそうだったんだろうな。


それがあったからこそ、


『博士の最後の地であるこの惑星を見て回りたい』


なんて考えたんだろうし。それくらいじゃなきゃ、人間の体を持ったリリア・ツヴァイを連れてそんな無茶なことはしなかった筈だし。


『なんだか、いろんなことが納得いっちゃったな……』


これまでの私の非合理的な振る舞いも全てそれで説明がついてしまう気がする。


「それじゃ、取り掛かるよ。電源を切るから、次に目が覚めた時には終わってるからね」


ニヤリと笑う見慣れた表情に、私は、


「はい。お願いします」


と静かに答え、その直後に、私の意識はプツンと途絶えたのだった。


『もうこれで終わっても、何も悔いはない』


そんなことを思いながら。



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