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「……うまい」

「ほんと?よかった。食べられるだけ食べても大丈夫だよ」

「ありがとう」


そういいながら、目の前の彼は本当に美味しそうに私の作ったお弁当をぱくぱくと口の中へと運んでいく。その光景は見ていてとても嬉しいものだ。


「あ、千霞ちゃんも夕ちゃんも、遠慮なく食べてもいいよ」


そういって、私は作ってきていたおにぎりにかぷっとかぶりつく。

ほのぼのとしながら、お昼は終わっていった。



**



午後の授業も全て終わり、みんなが帰り準備をする中、私も同じように鞄に荷物を詰める。以前あったことを踏まえて、できるだけ教室には残らないようにして図書室に行くようにしている。


「姫乃」

「?」


ルクスくんに突然呼ばれて私は彼の方を向く。


「一緒に帰ろう」

「…………えっ」

「?帰ろう」

「……いえ、千霞ちゃん達と帰る約束してるので」

「俺と帰ると伝えればいいだろう」

「いえ、私は千霞ちゃん達と帰りたいので」

「そんなはずはない」

「なんで!?」

「お昼の一件で距離が近づいた。だから俺と一緒にいたいと思うはず」

「でた、よく分からないポジティブ思考……」

「ちゃんと守る」

「そういう意味じゃなくて……いえ、関係なくはないですけど……」

「一緒に帰ろう」

「……帰りません」


しばらく、こんな攻防が続いた。


「……結城さん」


突然名前を呼ばれて、わたしは天の助けとばかりにそちらを向く。


「先生が呼んでましたよ」

「えっ、わかりました。ありがとうございます」


見たことのない女の子が教えてくれたことを理由に、私はルクスくんから離れることに成功する。まあ、荷物は置いていっても問題ないと思う。先生に呼ばれてるなら職員室だろうし。

そして私は、私を呼びに来てくれた女の子に呼ばれてその子の後をついていった。

しばらく何も考えずに歩いていたが、はっとした。

……ここ、職員室に向かうための廊下とは方向が違う。うわー、またやらかしたの?私……。

ちょっと、絶望してもいいと思う。


「あのー……どこに向かってます?」

「…………」


えー……、無言ですか……。

もう明らかにここ使ってません、って感じの教室達がずらずらと並んでるんだけど。私はここで何をされるんだ。


「あのー……?」


扉の前に立たされた。

これは結構やばい気がする。あくまで気がするだけだけど。

けど、私の背後に立たなくてもいいと思うの。

と思っていると、思いっきり背中を押されて空き教室に一つに押し込まれた。


「……っ、いったぁ……」


踏ん張りなんてきくはずもなく、見事に転んだ私は剥き出しになっている足の所々を擦りむいた。地味に痛いんだよね、摩擦でできた擦り傷って……。

あーもー、最悪だ、と考えながらむくっと体を起こす時に、私は自分以外の誰かが後ろ扉をピシャン!と閉める音を聞いた。


「……え」


振り向くと、扉はぴっちりとしまっている。


「あらー……」


もうそれしか言えない。

取りあえず、立ち上がって扉の鍵がかけられていないかどうかを確認しよう。話はそれからだ。学校内なんだから、待っていれば誰かがここら辺を通るだろうとも思う。

が。


「……結城、姫乃さんですね?」


誰かいたんかーい。

もー、リンチ決定じゃないですかーい。

できれば痛いのは嫌だなぁ……。怪我とかすればお母さんも心配してしまうし。


「……あれ?違う人?まじで?」

「……?」


なんか、危機感が薄くなった。なんだろう。私の後ろにいる人は危険ではない気がする。


「すみません、あってます。私が結城姫乃です」


そう言って、私は声がした方をくるっと振り向く。


「…………わぁ」


めっちゃ綺麗な人です。

まっすぐに伸びた長いストレートの黒髪は、腰ほどもある。しかも全く癖が見当たらない。羨ましい。瞳も髪と同じく漆黒である。

なんか、暗がりで見ると日本人形みたい。でも怖いっていう感情よりも、綺麗とか可愛いとか、なんかそんな表現されそうな感じ。

しかし、こんな人が私になんのようなのだろうか。


「あ、当たってたわ。ねえ、結城さん。ルクス様とはどんな関係なの?」

「……私から見て、でもいいのでしょうか?」

「ええ、もちろん」

「ストーカーです」

「……え?」

「ストーカーです」

「……あの?」

「ストーカーなんです。私からしたら彼は」

「結城さん……」

「気に障ったなら謝りますけど、言葉は撤回しません」

「結城さん、そんなにもルクス様に思われておいでなのね!!」

「……え?」

「これはやはり、私たちがあなたを守らなければいけないわね!もう大丈夫です。私たちはあなたの味方ですから!低俗な真似をする輩がいれば排除いたしましょう!」


嬉々として言わないでください、怖い。まじでやりそうで。勘弁してください。


「親衛隊の中にも過激なことを考える方々はいます。そういう方から自身の身を護るのは結構難しいでしょう?」

「えっ……。えぇ、まぁ……」


たしかに、誰が味方で誰が敵なのかということがわからないから、それを考えるととても難しい。


「そこで、私たちの出番です!私たちのグループの誰かが必ずあなたのそばにいれば、低俗な考えをしてあなたに近づこうとする輩はきっと大幅に減るでしょう」


まって。私すでに話についていけてないから、お願いだから待って。


「……あなたは、私の味方なんですか?」

「もちろんです!あの何に対してもやる気のないルクス様を、あなたはあんなにも行動的にしてくださいったのですから!」

「行動原理が私っていうのも、なんか嫌ですけど」

「まあ、そこの考え方は人それぞれです。それでも、あなたは人を動かす何かを持っていたということです」

「ないも待ってないですから。彼が変な妄想を私に押し付けてるだけですから」

「このさい、そんなことはもうどうでもいいのです。重要なのはルクス様が生き生きしているということ!ああ、あんな素晴らしいルクス様を見られる日が来るなんて……」


どうしよう。だいぶ前からすでに話についていけていなかったのに、今はさらに話についていけない。


「あの、私に友達を待ってるんです」

「存じ上げておりますわ!坪井さんと草薙さんですよね!」

「……はい」


なんで知ってるのとか思っちゃダメだよ、私!


「お恥ずかしながら……4月にルクス様と接触されてから陰ながら見守らせていただきました……」


語尾にハートマークがつくんじゃないかと思うほど照れながら言われたこと言葉に、私はきっと突っ込んでもいいと思うのだが、それはそれで面倒くさいことになりそうで結局何も言わないことにした。

面倒ごとは正直、ルクスくんだけで手一杯だ。

しかし、4月から見ていた、というのはそこそこ怖い。ストーカーとして突き出せばきっと私が勝つ。勝てるに違いない。気づかない私もどうかしているけど。


「さあ、結城さん。霧崎さんの取り巻きズに負けてはなりませんよ!」

「……えっ」

「あんな姑息な手しか使えない奴らは、きっと死んだら地獄に落ちるのです!ですから、今は耐え忍ぶ時なのです!それは、辛く苦しい日々かもしれません……。ですが!そんな辛く苦しい日々の先に、幸福が待っているのです!!」

「…………は、い」

「ですから、ともに手を取り合って立ち向かおうではありませんか!あなたの悲しみ全てを緩和できるなどとおおそれたことは考えておりません!しかし、多少のことなら、私たちでも力になれます!」

「……えっと……」


どうすればいいんだろう。どうすればここから逃げられるんだろう。

なんでこんなことになってるんだろう。

なんでこんな変なことに巻き込まれてるんだろう。

ついていったらいけないやつだったのかもしれない。とにかく、危害が加えられることはなさそうだけど、それでも、面倒臭いことには変わりない。なんら変わりない。

とにかく、これ以上私の“普通”を壊されるのは嫌だ。


「私は、大丈夫です」

「えっ?」

「大丈夫です。たとえいじめのようなものにあったとしても、それが“普通”と認識すればどうとでもなりますから」

「……何を……」

「最低な人間ですよね。私の味方になってくれるって言ってくれているのに、私はそれを拒否してるんですから」

「いえ、そんなことは思っておりませんが……」

「でも――私は、私の持っている“普通”がなくなる方が怖いんです……」

「結城さん……」

「だから、私のことは気にしないでください」

「…….」


無言になってしまった。当たり前だと思う。だって、私は人の善意を拒絶しているんだから。こんなことを繰り返していたら、私はいつか本当の意味で孤独になると思う。けれど、怖いのだ。

――毎日が輝いているなんて、私には想像できない。

私の頭上に広がる青い空は、その色でそこにいるのが当たり前で、地上を照らす太陽が昇って沈む現象も当たり前。

時々それに雲がかかって、空が泣いたとしても、冷たい氷の礫を降らせたとしても、光を走らせていたとしても、それが“当たり前”なのだ。

晴れていても、曇っていても、雨が降っていても、雪が降っていても、それが――それこそが、“普通”なのだ。

だからこそ、その秩序を壊されてしまえば、私はどうすればいいのかがわからないのだ。


「結城さん」

「……はい」

「あなたの考えはわかりました。ですが、私があなたを守るということに対して、あなたに拒否されるいわれはありません」

「……え?」

「だって、あなたのその言葉を借りるならば、わたしがあなたを守りたいと思うことが“普通”ですから」

「なっ……!?」

「たしかに、親衛隊の中ではだいぶ荒れて、派閥も分かれています。しかし、それはこの親衛隊をまとめる人がしっかりとしていれば守られてしかるべき秩序です。それなのに、今はそれが実現されず、さらには、ただルクス様とお話ししているだけのあなたをターゲットにし、姑息なことをしようとしている輩が輩出している。こんなこと、同じ親衛隊に所属しているものとしては見逃せませんから」

「……」

「それでも、どうしてもあなたが私に守られることが嫌だというのなら、私と友人になってください」

「……?」


なぜ?

言葉に出せなかったけれど、それは本当に思うことだった。もう、陰から私を守るということを勝手にすればいいだけなのに、どうしてこの人はこんなにもまっすぐに私を見ているのだろうか。


「私はあなたの友人として、あなたのそばであなたを守りますから!」


……もう、どうとでもなればいいと思ってしまう。こんなにもまっすぐな目と、こんなにもまっすぐな気持ちでぶつかられたら、私にはどうすることもできない。


「……好きにしてください」

「だめです」

「え?」

「あなたの許可がなければ、私はあなたの友人を名乗れません。ですから、きちんと私に自己紹介して、きちんと私に自己紹介されてください」

「えー……」

「ほら、面倒くらがらないで。後がつかえてますので」

「……?後が、つかえてる?」

「ええ、あなたの友人を名乗りたいものは、何も私だけではありません。私の仲間も、あなたと友人関係を結びたいと思っていますから」

「……それは、どのくらいの人数なんですか?」

「親衛隊の私の派閥ですから、ざっと100人ほどは……」

「代表であるあなたとしますから、他は省略してくださいっ!!」


5月。

私は知らぬうちに友達100人ができました。

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