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SNSに思いをぶつけたら奇想天外な人生を歩むことになりました  作者:


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5/16

始まりはSNSから 4

 グリーンに教わった通りにニコニコしながらゴム製品加工の仕事をこなすハット。実際にはゴムが焼ける匂いが充満した中での作業だから、顔をしかめて我慢しながら仕事をするべき場面なのですが。


「おい! P09―16497! こっちに来い!」


 突如刑務官の叫ぶ声が仕事場に響いた。ちなみにこの記号番号のPはpolitics=政治を意味し政治犯に付けられる記号、続く二桁の数字は出身した地域(昔で言うところの都道府県)、五桁の数字はその地域で何番目の政治犯なのかを表しています。


 ハットとあまり年齢の変わらない、背中に大きくP09―16497と書かれた囚人着を着た彼は呼ばれた刑務官の前へ歩いて行くと、別の二人の刑務官に両脇を抱えられて仕事場から連れ出された。その後彼の姿をこの刑務所内で見ることはなかった。


「あいつ普段から洗浄党の幹部は皆死ねとか言っていたから、警備システムにキャッチされたんだぜ」


「いつも睨みつけるような眼をしていたしな」


 ハットの耳にはそんなひそひそ話が入ってきた。


 ――グリーンが言っていたのはこのことなんだ。とにかくここでは作り笑顔が必須なんだ。


 しかし四六時中作り笑顔ばかりしていたら心がおかしくなりそうだから、警備システムはどこにどのように設置され、檻の中のように死角になる場所はあるのかなと考えていた。




「作業中に刑務官に連行された人がいたんだ」


 昼食休憩の時間、横に並んで座っているブルにハットが話し掛けた。


「システムに引っ掛かるようなことをしたの」


「普段から洗浄党に対して批判的なことを口走ったっり、目つきも悪かったらしいよ」


「笑顔でこんな話をしていたら大丈夫なの? それとも会話の内容も検知されるのかな」


「会話の内容で検知されたら何も話せないよね」


「ちょっと試してみるよ」


 ブルは口の中を噛み痛そうな表情をしながら刑務所長の悪口を並べてみた。するとすぐに刑務官がやってきて、


「おい、P22―19045、システムがお前の不満そうな表情を検知した。事情を聞かせてもらおうか!」


 刑務官の大声に食堂にいる多くの収監者たちがこちらを見た。


「すいません、口の中を噛んでしまって……」


 ブルは下唇をめくるように刑務官に見せ、出血していることを確認した刑務官は、


「気を付けろよ!」


 そう言い残しブルたちが座るテーブルから少し遠ざかった。


「ブル、痛そうだけど大丈夫?」


「このくらいは平気さ。ハット、システムは表情だけを監視しているのがわかっただろ。おそらくだけど会話は近くにいる刑務官が聞いて判断しているんじゃないのかな」


「だとすると、とにかく笑顔でいれば、まずい話をしていても刑務官に聞かれなければ大丈夫なんだね」


「そういうことだ、君のようにニコニコしていれば安心だ」




 ハットの仕事場からは午後にも一人が連行されていった。今日一日で二人も連行され、二度とその人たちと会うことができなくなる。これが洗浄党が作り上げた経費を抑えることができる刑務所の実態だ。


 もちろん犯罪を犯して収容されているのだからそもそもで言えば収監者に非があるのだけど、SNSに少し不満をつぶやくだけでその人の人生の約半分を奪う今のやり方が正しいとも思えない。そして少しでも不満げな顔をするだけで処刑するやり方は全く正しいと思える部分がない。




 ハットとブルは夕飯の時にも横並びで座ったのですが、ブルの金属加工の職場でも午後は三人も連行されたという話していると、


「君たちは最近放り込まれたのかい?」


 ハットとブルの前に座る少し年上の収監者が、会話を聞いたのか声を掛けてきた。


「君たちは全部で一〇〇人くらいが同時に収監されただろ、ここでは新たに収監された人数だけ、元からいる収監者を処刑するんだよ」


 ハットとブルはその話に声も出せずに目を大きく見開いた。


「怖い話だけど笑顔を作って! ガルドラ刑務所とはそういう所なんだよ。収容定数の八割以下に収監者を調整することで、経費をカット出来ましたと洗浄党の手柄のように世間に報告できるからね」


 話し掛けてきたのはウーム・ペトロという元第4ランク国家公務員で、教師をしていたという。洗浄党の本当の姿を生徒たちに教えたことで三年前に収監された二七歳です。


「僕はジェット・ブルート、ブルと呼んでください。今、一九歳です」


「僕はミッドハット・ホール、一七歳の高校生です。SNSにいろいろと書き込んでしまって……。ハットと呼んでください。両親は教師をしているのですが、僕が収監されてどうなっているのか……」


「P17のホール……、まさか103の26地区の学校に勤めていませんよね?」


「はい、そうですが……」


「アレン・ホール先生とエルナ・ホール先生のお子さんですか?」


「父と母をご存じなのですか?」


「ええ、私はお父様の考え方や思想に共感し、それで授業で洗浄党のことを生徒に聞かせたのですが、帰宅した生徒たちが私の発言を保護者に訴えてそれで捕まったのです」


 ハットの父アレンは洗浄党に対する不満を日ごろから持っていて、ハットの彼女シュゼットが家に来た夜にはハットも父から話を聞いていた。その話を聞いたばかりにハットはSNSに書き込み逮捕された。


「二人には共通点があるのですね。でも逮捕されたのはハットのお父さんのせいではなく、そういう事を言わしめた洗浄党が悪いんですよ。だからハットもペトロ先生もハットのお父さんに憎しみを持たないようにだけ……」


「もう私は先生じゃないですからペトと呼んでください。それとアレン先生を憎んでなんていないですよ。本当の事を教えてくださったのですから」


「ブル、僕も父のことを憎んでなんていないよ。悪いのはすべて洗浄党なのだから」


 洗浄党に対する不満を話していても、三人とも笑顔だから警備システムは反応しない。表面さえ取り繕っていたらそれで良いという、いかにも洗浄党らしいシステムになっています。


「ペト、あの……、なぜここの食事はこんなに美味しいのですか?」


「元料理人の収監者がコックとして働いているからだよ」


 収監者に食堂の運営まで任せておけば経費は格段に抑えられる。数字を少なく見せて洗浄党は改革と歳出カットに頑張っているという演出。こんな部分にも洗浄党の策略が見え隠れしているのです。

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