始まりはSNSから 2
「君たちは国家反逆罪を犯し政治犯としてここに収容されることになった。調子に乗ってSNSに書き綴っただけだと思っている者もいるだろうが、ここオルダヤでは国は絶対であり、その国を貶める発言など許されるはずがないのだ」
刑務所長のメリー・イグリーの挨拶が続く。
ここはガルドラ島をすべて刑務所としたもので、周囲はすべて海で船でも数時間も掛かったし、潮流が相当早くてサメの住処と言われている海域にある島だから脱獄はほぼ不可能。ただしその所在地は極秘で地図にも描かれていない。このような刑務所なので極悪犯が収容されるイメージがあるが、この国には刑務所はここ一カ所しかない。
殺人、強盗、強姦等はすべて処刑されるので、この刑務所に極悪犯が収容されることはない。また過失という概念もないから、交通事故で人命を奪った場合でも極刑を免れることはまずない。極悪犯はこの国から滅ぼして安全な国作りと、刑務所に掛かる費用を極力抑えるという洗浄党の政策が支持された結果です。
刑務所長の長い話が終わると収監者は手錠や足かせが外され所定の房に入れられます。
独居房ではなく定員一〇名程度の雑居房になっていて、ハットが入れられた房には七名の先輩たちが入っています。
「随分若いな、何歳だ?」
いわゆる牢名主なのか、ハットが入れられた雑居房で最も年長者らしい人に声を掛けられた。
「ハットと言います、歳は一七歳です」
「まだ高校生だな。俺はグリーンという老いぼれさ。ところで何をやったんだ?」
「SNSに書き込んだら捕まってしまって……」
「国や洗浄党の悪口だな、すると国家反逆罪に該当するから禁固四〇年くらいだろうな」
「四五年です」
「ここを出るころには六二か、ほぼ人生終わっているじゃないか。まあ、労働に励んで一生懸命に金を貯めて、少しでも早く出られるように頑張ることだな」
とにかくすべてにおいて平等という考えが行きわたっていて、犯罪についても年齢やその背景などは一切考慮されず、同じ犯罪を犯せば同じ刑罰が待っている。裁判官という人間が判決を下す場合には思想や信条によって同じ犯罪でも随分刑罰に差が開くが、この国ではAIによって判決が下されるので刑罰も平等。
刑務所に入れられてからも平等が貫かれ、もちろん体力の違いなどは考慮されるが、何歳であろうと労働が課せられる。そして労働に対しては対価が支払われ、この対価によって刑務所内での衣食住を賄わなければならない。サボれば食事にあり付けず風呂もシャワーも使えないのです。
ちなみに牢名主のグリーンはスーパーで万引きしたところを現行犯で捕まり、犯罪防止システムでグリーンの過去の行動をすべて確認したところ複数の店舗での万引きが次々に判明したため、常習窃盗罪として禁固六〇年が言い渡されたそうです。
収監されている先輩たちがどのような罪状で服役しているのかを順にハットに話します。ある者は道路など公的な場所にたばこの吸い殻やごみを複数回捨てて、屋外喫煙罪と常習不法投棄罪で禁固三〇年、またある者は複数回のあおり運転を行い自動車運転殺人未遂罪で禁固八〇年、ある者は自転車で信号無視して道路を横断をしようとし、自動車に急ブレーキを掛けさせたとして車両危険運転罪として禁固二五年などで服役しているそうです。
「ここでは模範囚なんて制度はないが、労働で得た対価を賄賂として刑務所長に上納すれば、刑務所長命令で刑期が短縮されるんだ」
牢名主のグリーンは禁固六〇年が二七年にまで短くなっていて、あと数年で出所できるそうです。
清廉潔白でクリーンな政治と、民衆全員に機会の平等を与えるとともに徹底的なコストカットを国に課す洗浄党ですが、裏では賄賂や不正が蔓延っていると言います。裏ではないな、表沙汰になっても強引にもみ消してリークした者が追い詰められる世界、それがオルダヤの今の姿だし洗浄党の真の姿です。
先輩たちに挨拶してから房を出て夕食を食べに食堂へやってきたハット。収監されたばかりの者は刑務所内だけで流通するお金を一切持っていないので、食事や入浴、身の回りの品を購入できるチケットを一週間分支給されています。母が作った食事ほどは美味しくないだろうと思いながら、ファミレス並みの品揃えの中からハンバーグセットを注文した。
一度に数百人が食事を取れる、まるでフードコートのような食堂ですがかなり混雑していて、食堂の隅のほうにかろうじて空いていた席を見つけ、隣に座っていた人に挨拶をしてから座った。
「君も今日放り込まれたのか?」
「はい、SNSに少し書き込んだら禁固四五年で……」
「と言うことは、今日から四〇年間はずっと一緒にいることになりそうだな。俺はジェット・ブルート、ブルと呼んでくれ、一九歳の大学生だった。党幹部の悪口を書いたら俺は四〇年だってさ」
「僕はミッドハット・ホール、一七歳の高校生です。みんなハットと呼んでいます。僕も洗浄党や党幹部のことを書いたら……」
「じゃあ俺もハットと呼ぶよ。しかし、ここの飯は美味いな、街中の少しは名の通ったレストランと遜色ないな」
ブルがそう言うのでハットもハンバーグをナイフで少し切って口に入れると、確かに美味しい。もちろん母の食事が一番美味しいけど、刑務所の中でこんなに美味しいご飯が食べられるとは思っておらず驚いた。
同じ犯罪で収容され年齢も近いことからハットとブルはすぐに打ち解けました。刑務所という閉鎖空間だけど比較的自由に動くことができ気軽に話もできるので、神経がピリピリするほどナーバスにならなくて済むようです。
ただし至る所にAIと連携された最新の警備システムが完備されており、少しでも不審な動きをして警備システムに引っかかれば刑務官に連行されます。




