始まりはSNSから 1
逮捕、即日裁判、そして収監されたのが土曜日、その二日前の木曜日に時間は遡る。
オルダヤという国に住む一七歳の高校生のミッドハット・ホール(通称 ハット)は、交際しているシュゼット・グラハムを家に招いていた。ハットの一八歳の誕生日を前にして両親に彼女を紹介するためです。
なぜ木曜日を選んだのか。オルダヤでは週休三日が定着していて、企業や役所、そして学校などは金曜日から日曜日までがお休み。木曜日の夜ならば翌日はみんなお休みだから都合が良いのです。ちなみにオルダヤでは祝日というものがなく三連休以上はありませんし、夏休みや冬休みという概念もありません。
ハットの母の手料理をいただきながら和やかに時間が過ぎていきます。シュゼットもハットの両親が気さくで話しやすいのか、にこやかな笑顔を作って会話を楽しんでいました。
「ところで、シュゼットの自宅はどのあたりなんだい?」
ハットの父がシュゼットに自宅の場所をたずねました。
「はい、私の自宅は一〇三、五三、二九、二一三です」
「五三ということは、ご両親はどこか民間会社にお勤めされているのか、お店を経営されているのかな?」
「はい、両親は電子機器の販売や修理のお店をしています。企業として認められるように両親は働いています」
オルダヤでは住所はずいぶん昔に、コード番号表示に改められています。国中の住所をコード番号に置き換えることで、管理が簡素化でき費用節減になるというのが理由です。
ハットやシュゼットの自宅は都道府県に相当する部分は一七、市と区に相当する部分が一〇三、それ以下の番号は街区を現していて、ハットの自宅は二六です。五三の地区には第八ランクに区分される、一般企業で働く管理職以外の人と個人経営のお店を営んでいる方が住んでおり、二六の地区には第四ランクの下級国家公務員が住んでいて、ハットの両親は教壇に立っています。
父や母もシュゼットを気に入ってくれたようで、食事をしながら四人で会話を楽しみ、数時間を過ごすことができた。
「シュゼット、息子のハットをよろしく頼むよ。それと、いつでも遊びに来てくれ、歓迎するよ」
「お父さん、お母さん、本当に楽しい時間でした。ありがとうございました」
帰り際にそんなあいさつを交わし、夜遅いこともありハットはシュゼットを家の前まで送り届けた。しかしさっきまでの笑顔はシュゼットから消え、黙ったまま家の前に着いた。
「ハット、私の父も母も死に物狂いで働いているから、きっと企業として認められて第七ランクに上がれるから……。ハット、ごめんね、下級家庭で……」
それだけを言い残すと、まるで逃げるようにシュゼットは家に駆け込んだ。
シュゼットがなぜ謝ってきたのかがわからないハットは、家に帰ると父と母にシュゼットの様子を話した。すると父がハットに言い聞かせる口調で話した。
「シュゼットのお宅は第八ランクなんだ。この国ではランクが三以上離れている場合は結婚も同棲も認められないんだよ」
言われている意味が理解できないハット。
「婚姻届けを送信すればそれで結婚はできるんだよね、同棲だったら勝手に住んじゃえばいいんだし」
「いいや、この国では自由に結婚も同棲もできないんだ。ランクによって住める地域の制限があるから、たとえ同棲でもすぐに摘発されてしまうんだよ」
「そうよ、ハット。三ランク以上離れたカップルが婚姻届けを送信すると、身分隠匿や身分偽証で捕まるのよ。学校では教えていないけど、常識として覚えておいてね」
ハットは父と母からシュゼットとの結婚はおろか、同棲もできないという現実を突き付けられた。
そして父が眉間にしわを寄せて話し始めた。
「なあ、ハット。学校では教師も口には出せないが、この国を支配する国家洗浄党が悪いんだよ」
「洗浄党? でも洗浄党の方針に狂喜乱舞する人たちのほうが多いんじゃないの?」
「みんな本質を見抜けず、何だか良いことを言っているような錯覚を覚えて支持しているのか、支持しているふりをしないと周りから変な目で見られるから仕方がなく……、そんな人たちばかりなんだよ」
国家洗浄党(nation cleansing party)
本当は国家浄化党と名乗りたかったが、国民を浄化したいという本質を隠したいがために洗浄党と名乗っている。元は一地方の小さな政党だったが一気にのし上がって全国区となり、今ではオルダヤのすべてを牛耳っている。
なぜ国民すべてをランク付けするという、格差国家を構築しても支持者が一定数はいるのか。税金は所得税のみ、年金は廃止しこれまでに納めた保険料は全額返還、定年などでリタイア後は国がチケット制による最低限の生活保障、少年法の廃止と犯罪の厳罰化、外国人にも自国民と同じ権利や義務を認める反面、自国民以上に厳しい罰があるなど、表向きは国民にとって自由で住みやすい国を構築したからだ。
その後も父に洗浄党と祖国オルダヤのことを細かく聞いたハット。
「父さん、どうして学校では洗浄党のことや、これまでの歴史を教えないの?」
「教えたくとも教えられないんだよ。少しでも洗浄党にとって不都合なことを生徒に教えれば、それだけで政治犯として収監されるんだ。これまでにどれだけたくさんの先生方が教壇から去って行ったことか……」
部屋に戻りベッドに横になったが、寝付けないハット。スマホを片手にSNSに思いの丈をぶつけた。
〝今のような格差社会は絶対に容認できない〟
〝人を勝手にランク付けし、住む場所や結婚を制限するのはおかしい〟
〝洗浄党が支配する今の世の中は本当に歪で絶対におかしい〟
このようなことを次々に書き込み、引用リポストやリプライに対しても次々にやや過激な返信を行い、やがて洗浄党幹部への非難まで書き込んでいった。
〝洗浄党のメンバーはみんな二面性があり信用できない〟
〝屁理屈で筋の通らないことを合法化している〟
〝洗浄党の議員たちは不正を働いて、多額の税金や保険料などを誤魔化すくせに、一般人が少しでも申告を忘れたら、それだけで処刑ってどういうこと? 議員たちも同じように処刑されるべきだ〟
〝そもそも公務そっちのけでテレビに出まくり、タレントたちによいしょされながら、おかしな法案を正当化するコメントだけを垂れ流し、国民を洗脳していくやり方が正しいわけがない〟
〝テレビも国の許認可が無ければ放送できないけど、だからと言って国にとって都合の良い放送ばかり流していたらマスコミの意味がない〟
そして二日後の朝に、洗浄党と党幹部への批判的言動は国家反逆に該当するとして逮捕、警察署へ連行され取り調べを受けた。証拠はSNSに投稿したスクリーンショット。すべて認めたことでその日のうちに検察へ送られ、そこでもすべて認めたから裁判所へ送られ、即日裁判で結審し禁固刑が確定、すぐにガルドラ刑務所へ送られた。
ハットの父と母は、息子の刑が確定した瞬間に国家公務員の職を解かれ、犯罪者の家族として第一〇ランクに降格のうえ、強制移住させられた。




