始まりはSNSから 10
「報告します、昨夜脱獄したのは三名でP03―37854ことウーム・ペトロ、P22―19045ことジェット・ブルート、P17―18725ことミッドハット・ホール。ガルドラ島の沖合でボートを撃沈、海域を探しましたが遺体は発見されませんでした」
報告する刑務官に向かって刑務所長は、
「脱獄は無かったことにする。三人は警備システムで異常を感知したために処刑したとして報告書を作成しろ」
「はい、わかりました。次に、重大な服務規程違反があったとしてその場で処刑された刑務所長代理アダム・シンズとその部下七人の刑務官ですが、こちらはそのまま報告書に記載すればよろしいですか」
「彼たちについては少し盛って書いておけ」
「わかりました、それで刑務官の七名の補充等の手続きを踏めばよろしいでしょうか」
「その件だがシンドリの後釜の所長代理には君を抜擢するよ、所長代理の君の最初の仕事として欠員補充を頼むよ」
「ありがとうございます」
「あとは、シンドリ派だった刑務官たちに対して、解雇か処刑かを選ばせろ。解雇を選べば元のランクの生活に戻すし、それが嫌ならば処刑すると伝えろ。その欠員補充の手配も頼んだぞ」
「はい、わかりました」
昨夜起きた事件に関する報告が刑務所長より全館一斉放送であり、放送が終わるまで作業所は閉鎖された。
ハットたち三人はSNSで国家をディスったために刑務所に収監されたわけだが、それ以降も反省するどころか国家に対するネガティブな発言を控えはしなかった。さらに刑務所長代理だったアダム・シンズたちと共謀し、ガルドラ刑務所を乗っ取ったうえに国家を転覆させる計画を立てていた。
警備システムがハットたち三人の言動から昨夜当刑務所を乗っ取るための行動を起こす気配を感知したので、連行したうえで取り調べを行うと、そのすべてを認めたために即日処刑を実行した。
また刑務所長代理だったアダム・シンズとその部下の刑務官七名も同罪で処刑、その他のアダム・シンズの部下の刑務官には退職を勧告した。
このような内容だった。
「ハットのやつ、だからシンドリには近付くなと警告したのに」
ハットがいた雑居房の牢名主グリーンが呟いた。
ただしこの説明に納得していない収監者がいた。
「おかしいぞ! あの三人はシンと共謀していたのは確かだが脱獄を企てていたんだ。アルミのボートやウェットスーツを作っていたんだぞ! そのことは刑務官に報告したじゃないか!」
ヒーは刑務所長の説明放送を聞き終わるとすぐに反応し、大声で喚き始めたのです。
「あの刑務官だ、俺はあの刑務官に数日前に報告したぞ!」
ヒーに指を差された刑務官は慌てるどころか、こういうことになるとわかっていたようで冷静に対処した。
「V34―01022、お前が俺に何を報告したというのだ? 俺はそんな報告は受けてはいないぞ!」
「全部話したじゃないか! 上に報告するとも言っていただろ!」
「そんなこと俺は話してもいないし、そもそもお前と話をしたことがこれまでに一度でもあったか?」
同じ日和見派ではあるが刑務官のほうが何枚も上手だし、そもそも刑務所内での権力の有無の違いがある。この刑務官が合図すると数人の刑務官がヒーを取り囲み、両脇を抱えられて引きずるようにして連行されていった。もちろん引きずられながらも文句を言い続けるヒーだが、友達もいなかった彼に同情の目を向ける向きもない。
そしてもう二度とヒーを見ることはなかった。
ガルドラ刑務所は刑務所長メリー・イグリーの手中に収まった。もう国家や洗浄党に対する不満をこの刑務所内で話す収監者も刑務官もいなくなった。しかし、刑務所長は洗浄党などどうでもよく、あくまで国家に忠誠を尽くしているだけだ。それも現在のオルダヤという国に対してではなく、将来変わるであろうと彼女自身が想像する未来のオルダヤに対してだ。
彼女は洗浄党が支配している今のオルダヤも、そして洗浄党が支配する前の元のオルダヤも支持はしていない。
彼女はいったい何を目指しているのか、その解がわかる人間は少ないだろう。




