異世界ヤクザ
俺はふと、
元いた世界のことを思い出していた。
俺はドスでやられたわけだが……。
仕事はうまく回っているのか?
まぁほとんど自動化で回しているから、
アホな部下でもなんとかしそうな気がするが。
潰してたら、組長に申し訳ない気がする。
まぁ別のしのぎが生まれてるだろうし、
というか、俺なんで刺されたんだろう……。
アホンダラが粛清されたことで、王国の権力構造はずいぶん変わった。
とりあえず俺は仕事がやりやすくなったようで、その点は評価しようかと思う。
ただ最近は酒も飲まなくなったので、祝杯をあげる気分でもない。
(こんこんこん)
執務室にノックの音がする。
「エリーザです。アカンベ様が来られました」
とエリーザの声がする。
アカンベ?
誰だっけ。
「わかった。客間に通しておいてくれ」
と俺は言った。
「かしこまりました」
とエリーザは言った。
俺は途中だった執務を終わらせ、客間に向かう。
「ひさしぶりだな」
とアカンベという男は言った。
「失礼だが、どちらさん」
と俺は尋ねた。
「同業者、奴隷商のアカンベだよ」
とアカンベという男は怒った。
あぁ、ずいぶん痩せてわからなかった。
「ずいぶんスマートになって、ダイエットしたのか。
うん、そっちのほうがいいぞ。
男前だ」
と俺は褒めた。
「うるさい。やつれたんだ」
とアカンベはふてくされる。
「やつれた? 病気でもしたのか」
と俺は尋ねた。
「いろいろあったんだよ」
とアカンベは吐き捨てるように言った。
「人生いろいろというからな。それで今日はどうした」
と俺は肩を叩く。
「この国は商売しにくくなったからな。他の国でも行こうと思ってる」
とアカンベは言った。
「最後にあいさつに来てくれたのか。それはありがとう。なにか餞別を持たせてやらないとな」
と俺は考えた。
「いらねぇよ」
とアカンベは言った。
「ずいぶん遠慮がちな奴だな」
と俺は首をかしげる。
「そんな仲でもないだろ」
とアカンベは言った。
「あぁそうだな」
と俺は言った。
「俺は一言言いに来たんだ。お前は奴隷や使用人に甘い。そんなんじゃ、食ってけねぇぞ。
あんな何者でもない奴。
使い捨てにすればいいんだ」
とアカンベは吐き捨てるように言った。
「あぁたしかに、奴隷も使用人も、何者でもないかもしれないな。
しかしな。勘違いするな。事実、奴隷も使用人も世界を動かしている。
価値のない仕事などないんだよ。
考えてみろ。給仕がいなければ、調理人がいなければ、農家がいなければ、配達人がいなければ、どうやって飯を食うんだ」
と俺は尋ねた。
「しかしな。俺は奴隷も使用人も所有している」
とアカンベは言った。
「アカンベ、勘違いするな。奴隷も使用人もお前のモノではなく、この世界のもの。神のものだ。
お前の金も、財産も、すべては世界のものであり、神のもの。
それを証拠に、お前が死ねば、すべてお前のもとから去る。
お前が破産しても、すべてお前のもとから去る。
ただ一時的に、便宜上、お前のものになっているような幻想があるだけだ」
と俺は遠くを見た。
「うるせぃ。そんな甘ちゃんがいつまで生きられるか、他の国で見ていてやる」
とアカンベは俺を睨みつける。
「なんだ。お前俺が好きなのか?」
と俺は笑った。
「大嫌いだよ。この偽善者め」
とアカンベは言った。
「ははははは。偽善者か。まさかヤクザ者の俺が偽善者呼ばわりされる日が来るとは」
と俺は笑った。
「なに笑ってやがる。頭がおかしくなったのか?」
とアカンベは言った。
「頭がおかしくなった。それは間違ってる。なったんじゃない。元々だ」
と俺は笑った。
「本当におかしな奴だ。偽善者なんて言われたら、普通キレるだろ」
とアカンベは語尾を荒げる。
「まぁそうだろうな。ただ俺はずっと悪側の人間でな。正義を実行した記憶がねぇんだ。それは今もだが」
と俺は言った。
「じゃあな」
とアカンベはそう言って去っていった。
俺は少し後悔した。
餞別にあの奴隷の服をやれば良かったと。
……
俺は庭に出る。
庭には使用人たちと奴隷たちが仲良く仕事をしていた。
使用人たちと奴隷たちの服装は違うが、
皆同じ服を着て、個性はない。
使用人も奴隷も、同じ食事。
まぁ俺もモエ達も同じ食事だ。
初めは、
奴隷も使用人たちも、
俺やモエ達が同じ食事を摂っているのを見て、
驚いた。
セバスなどは、
「やめてください」
と懇願した。
しかし、
それは無視をした。
俺は奴隷や使用人を愛しているわけではない。
ただ彼らの健康に気を使っているだけだ。
そしたら、
結果的に俺と同じものを食わせるという結論に至った。
同じ釜の飯を食うというが、
ここでは同じ釜のパンという感じだろう。
騎士団の団長は、
「大将が一兵卒と同じ食事を摂るのは、士気が上がるから、まことにけっこう」
とか褒めていたが、
そんな士気とかのためじゃない。
俺の利益を守るためだ。
まぁだから偽善者でも、いい将軍でもない。
ただの異世界に来たヤクザなんだよ。
……
「旦那ーーー旦那ーーーたいへんです。バルスの奴がーーー」
モヒカン頭が走ってくる。
あぁロックか。
また面倒ごとがやってきた顔だな。
今度はなんだ。
バルス?
俺は眉間にシワを寄せる。
どうやら、ヤクザには休息なんかねぇみたいだ。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
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