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しのぎ

「組長……、

あくどいしのぎはもうやめませんか?」


俺が若頭に就任した時、俺は組長にこう言った。


盃の匂いが残る組長室で、俺は腹を括った。


もちろん、

殴られる覚悟を持ってだ。

組長の拳は重い。

組長のごつごつした拳を見ると、今でも血の味を思い出す。


組長は、

俺の目をじっと見て、

こう言った。

「いばらの道だぞ」


「極道とは、道を極めるという事だと教えられました。

あくどいしのぎは、

利益にはなりますが、そんなもの道を極めた漢のやることじゃねぇ。

俺はそう思います」

と俺は啖呵をきった。


「いばらの道だぞ」

と組長は言った。


「なに……、

いばらの道であれば、皮手袋をして、いばらをハサミで切りましょう」

と俺は言った。


「ふっ。面白れぇ事いうなぁ。

わかった。

好きにしな。

俺は何も言わねぇ。

しのぎが全てを語ってくれる」

と組長は言った。


「ありがとうございます」

と俺は頭を下げた。


……

あれから、

5年が経った。


俺が手がけたビジネスは10。

うち上手くいったのが3、

失敗したのが7だった。


失敗したビジネスはすぐに損切りし、

上手くいったビジネスに注力した。


そして今では、

組のしのぎの3割を稼ぎ出すまでに成長した。


今俺は、組長と幹部の芹沢との3人でテーブルを囲んでいる。


(こん)


だだっぴろい和室の中に、

鹿威しの音が聞こえる。


テーブルの上には、

1本4万円の白ワインと、多量のたこ焼きがあった。


「まぁ遠慮するな。食え」

と組長は言った。


「では、いただきます」

と俺は言い、テーブルのたこ焼きに手を伸ばす。


(はふ。はふ)


「いただきます」

と芹沢も、テーブルのたこ焼きに手を伸ばす。


「まだまだ追加で焼きますんで、言ってくださいね」

庭のほうから、組の若いもんが声をかける。


「おぅ。こんどはチーズ入りのを頼む。あと10個に1個、ワサビ入りを入れろ」

と組長は言った。


「うっす」

若いもんが頭を下げる。


「組長。ワサビのロシアンルーレット好きですね」

と俺は言った。


「あれ……、お前が言いだした奴だよな。組でロシアンルーレットしてたら、

さすがに不味いから、たこ焼きにしろって」

と芹沢は言った。


「さすがにね。

ちゃかで遊ぶのは、いまのご時世コンプラ的に問題あるでしょ」

と俺は言った。


「いやいや。コンプラじゃねぇだろ。ガチでヤバいわ」

と組長は大声で笑った。


「ははは。

さすがツッコミ上手いっすね。

しかし芹沢の兄貴のとこの若いもんのたこ焼き、ずいぶん美味くなりましたね」

と俺は言った。


「おうよ。特別な白い粉使ってるからな」

と芹沢は言った。


「おいおい。あんまり大きな声でいうなよ」

と組長は言った。


「なんですか?その白い粉って」

と俺は言った。


「中毒性があるんだわ」

と芹沢は言った。


「おいおい。誤解を招くような言葉は慎め」

と組長は笑った。


「兄貴……、なんすか?まさか……」

と俺は言った。


「そうまさかの……」

と芹沢は言った。


「山芋粉だよな」

と組長は言った。


「やっぱり……、ふわっとして美味いと思った」

と俺は言った。


「だろ。あれ単価高いんだけど、ちょっと入れるとバツグンに美味くなるんだよ」

と芹沢は言った。


「普通に山芋だと、時期によって価格が安定しないからな。その点粉末だと割と安定する」

と組長は言った。


「しかし、固めるの難しいでしょ」

と俺は言った。


「それは、粉の量と腕だ」

と芹沢は言った。


「ずいぶん開発に時間かかってたもんな」

と組長は言った。


「あの時は、試食つきあっていただいて、ありがとうございました」

と芹沢は頭を深く下げた。


「さぁ、食え」

と組長は笑う。


思えば、この頃が一番、良い時代だったかもしれない。


……


あの会食から1か月後。


芹沢の兄貴は、

行方をくらませた。


組の金を持って、

消えた。


俺たちは、必死になって、

芹沢の兄貴を探した。


そして半年後、

東京湾に一つの死体が浮かんだ。


俺たちの捜索はそれで終了した。


芹沢の兄貴が、組を裏切ったのか。

それとも、誰かに利用されていたのかはわからない。


ただ組の金が半分以上消えた。


そして、

組長の顔から笑顔も消えた。


……

芹沢の兄貴が消えてから、

組の中で台頭しだした男がいた。

白金だ。

妙なやつだった。

名前も素性もはっきりとはわからない。

白金という名前すら、本当かどうかはわからない。


ただ……、

非合法のしのぎについて、

やたら強い。


そんな男だった。


組長は、白金とよく会食をするようになっていた。

気に入っていたのだろうか。

よくわからなかった。


……


俺は、

生活のほぼ全てを自動化していた。


ビジネスの判断以外の事に、

脳のメモリーを割くのが嫌だった。


服装はテーラーに同じ黒のスーツを3着作らせ、

シャツも同じ型のシャツを7枚作らせた。

パンツも靴下もTシャツも、

すべて同じメーカーで同じ形で同じサイズ。

完全に制服化していた。


会食以外の食事は、

すべて同じメニュー。

プロテインとサプリメントで栄養を調整していた。


運動も毎日同じメニューを定時に行った。


日用品は定期購入。

照明も自動点灯、エアコンも24時間同じ温度。


すべてが自動で行われた。


仕事の現場も、

業務の95%を上長の判断ナシで行えるように調整した。


快適ではあるが、

自分がただのパーツに感じて、楽しくはなかった。

そして合理化を進めれば進めるほど、会話は少なくなった。

財布は分厚くなる。

しかし、

会話は薄くなる。

俺は会話の薄さと財布の厚みは反比例するのでは、

という謎の結論に達していた。


……


そして、

5月30日。


すべては終わった。

30年という歳月は、

一瞬にして、

消えた。


俺はつねに覚悟をしていた。

『死』という瞬間を……、


俺はヤクザの世界に入る前から知っていた。


世界は理不尽で不平等だ。


しかし、平等なことが二つだけある。

生まれる。

そして、

死ぬ。

という事だ。


目の前には、

真っ赤に染まった、

包丁が転がっている。


一目で安物だとわかる包丁だ。

どうりで刺された瞬間が痛いはずだ。


どうせなら、

一流の職人に研がれた最高級の包丁で刺されたかった。


俺……、年収3000万はあるんだぞ。

そう言いたかった。


で、死んだら……どうなるんだ?

終わりなのか、

それとも……。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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