40:気持ちの確認~リリアン~
ジェフが背中を押す?
そこで馬車の扉がノックされた。
スコット皇太子がすぐ対応する。
マリー達がエントランスにやってきたのだ。
一度馬車から降り、ジェフと会ってどうだったのか、その様子を軽く聞き、その後は再び馬車に戻った。マリーとは後日お茶をする約束もでき、そこでまた話もできる。
私はマリーとこれからも仲良くなりたいと思ったし、何よりあの件を聞きたいと思っていた。
あの件。
それは……。
――「私は……自分の心を偽らずに生きて行くと決めました。この塔に幽閉されたことがいいきっかけだったと思います」
このマリーの言葉だ。
間違いなく、マリーは好きな人がいる。その意中の人とその後どうなったのか。それを次に会うお茶会の時には絶対聞きたい!そう思っていたのだ。
「リリアン、何だか嬉しそうだね」
馬車にスコット皇太子と私が乗り込むと。
すぐに馬車は動き出した。
「はい! 先程マリーさまとのお茶会の約束もできたので」
「なるほど。女子はやはり女子同士で、お茶をしながらおしゃべりをするのが好きなのだね」
しみじみそう言われ、「そうですね!」と即答する。
即答したものの、その後は沈黙ができた。
するとスコット皇太子は先程の話の続きを始めた。
つまりは。
――「今となって理解できた。ジェフはわたしとマリーをとっとと婚約破棄させたかった。それなのにわたしが渋っていた。だから、背中を押そうとしたのだろう」
これの続きだ。
「わたしは皇族の一人だ。だからそんなことをする気持ちは……なかった……とは言い切れない。そうしたい気持ちは……わたしだって男だ。ないとは言わない。でも少なくとも……」
しばらく同じような言葉を繰り返したスコット皇太子は。
「ジェフはあの卒業舞踏会で、リリアン、君と結ばれるといいとわたしにアドバイスした。そういう理由で会場の部屋を押さえている者も多いと。その場合に備え、翌朝着るドレスも用意しておいたからと言っていた……。あんなにそそるドレス……いや、あんなに体のラインが出るドレスだとは思わなかった。だから驚いたよ」
なるほど、なるほど。
つまりはいつまで経ってもスコット皇太子がマリーとの婚約破棄を決意しないから、先にあたしとの間に既成事実を作っちゃえばいいとジェフは考えた訳か。で、自身は傷心のマリーを慰め、新たなマリーの婚約者として名乗りをあげるつもりだった。
そこにあの庭園事件が起きて……。
それにしても。
あのドレスをジェフが選んだということは。
スコット皇太子並みに真面目に見えたが、ジェフはむっつりすけべかもしれない。
「ところでリリアン」
スコット皇太子があたしの手をぎゅっと握った。
「昨晩の件もある。リリアンは……わたしのことが好き……という理解であっているよね? もう婚約もしているし、今さらこんなことを聞いてしまうのは、自分でもどうかと思うが。……わたしは……まだ人として至らないところがあるかもしれない。でもリリアンと共に生きていくために、その至らないところを至るようにしていきたいと思っている。今よりもっと成長したいと思っているんだ」
真面目で不器用なスコット皇太子の碧い瞳と目が合った。
憎めないんだよね、ホント。
だからあたしの今の気持ちを、そのまま伝えることにした。
「……正直なところ。昨晩は……私もその、卒業舞踏会という華やいだ場の雰囲気に流された部分もあるかもしれません。そして好きかどうかについても……まだ明確にはなっていません。婚約した、ということは、婚約期間を経ての結婚ですよね? その間にスコット皇太子のことをもっと知りたいと思います。だって婚約しましたが、私達、まだお互いのこと深く分かり合えていないですよね?」
スコット皇太子が嫌いかというと、嫌いではない。
でも好きかはまた別問題。見極めたいと思っている。
これこそが、嘘偽りのないあたしの気持ち。
「それがリリアンの正直な気持ちなんだね。聞くことができてよかったよ。……マリーのこともあるから、無理強いはさせたくない。リリアンが言う通り、婚約したところで、わたし達はすぐには結婚できない。……特にリリアンはこれから皇太子妃教育もあるから」
あ……。
そ、それ……、そう、だよ、ね……。
え、乙女ゲームの世界にきたから、ガッコの勉強免除されてラッキーと思っていたけど。
そうか、そうだよね。
皇帝の妻になるんだもん。
勉強、必要だよね……。
落ち込むあたしの頭を、スコット皇太子が優しく撫でた。
「大丈夫。リリアンのこと応援するから。それで……結婚までの間。わたしのことをじっくり見て、本当に好きかどうか判断していいよ。もし、違うと思ったら。遠慮せず、言って欲しい。わたしが皇族であるからと気を遣わずに」
「……それで、いいんですか? 最悪、お断りしてもいいんですか?」
するとスコット皇太子は、とんでもなく悲しそうな顔をしてしまう。まるで捨てられた子犬のようで、その姿は……胸にグッとくる。
「リリアン、そんなに嬉しそうな顔をするなんて……」
「! ご、ごめんなさい」
平謝りのあたしにスコット皇太子は「いいんだよ、それで」と悲しそうに微笑む。いやあ、そんな、本当はいいはずないのに、無理して笑わないでと、切なくなってしまう。
「やっぱり好きになれませんでした。そんな風に言われたら、本当に悲しいけれど……。でも仕方ない。わたしに何か足りないところがあったと思うから。そこは男らしく、潔く身を引くよ」
ホント、スコット皇太子は真面目で不器用だった。























































