25:実は悪魔である可能性~マリー~
スコット皇太子に私とリリアンのことを報告していたのは誰なのか。
特に探るつもりはなかったが、今の会話の流れの中で尋ねるのは、不自然なことではないと思えた。だから聞いてみることにしたのだが……。
スコット皇太子の顔には苦悩が浮かんでいる。
だが。
肩の力を抜いたスコット皇太子は、悲しそうな顔で私を見た。
「……ジェフだよ」
「えっ……」
「わたしは……マリー、君のことが好きで、君の心を振り向かせたいと思い、ジェフを……学校にさえ、潜入させていた。事務員としてね。そして……君のことを護衛という名の元、監視をさせていた。そしてどんな些細な情報でもいい、報告しくてれと頼んでいた」
スコット皇太子が、ストーカーまがいの行為をジェフにさせていたということにも驚きだが。それ以上に、ジェフがリリアンに嫌がらせを私がしていると報告していたことに、衝撃を受けていた。
ジェフは……私に好意があると言っていたのに、なんでそんな嘘を……。いや、嘘ではなく勘違い?
「君を断罪してもなお、なんというか、君の様子が気になり、ジェフに任せていた。このノートル塔への君の幽閉についても。ノートル塔の管理責任者と同等の権限を与え、ジェフに任せていたんだ。それなのにこんな粗末な部屋と服を与えるなんて……。正直、驚いたよ。ジェフは……こんな宮殿から遠い場所にわたしが来るとは思わなかったのだろうな。だからこそ、マリー、君をこんな部屋に幽閉したのだと思う」
……!
この話を聞いたことで、確信することになる。
ジェフは……あの善人にしか見えないジェフが、実は悪魔である可能性を。
リリアンと私の不仲は勘違いではない。ジェフが意図的にでっちあげた。そして嘘の報告を、スコット皇太子に対してしていたのだ。さらにはこの部屋も、スコット皇太子の指示に反し、私にあてがっていた。
どうして、と思う。
好意を寄せているというあの言葉は嘘だったのか。
あまりにも残酷な裏切りに胸が痛んだ。
ガン、ガン、ガン、と激しく鉄の扉を叩く音がする。スコット皇太子はすぐにフード被り、扉に背を向けた。
「わたしが来ていると知られないようにしてくれ。もしジェフであれば」
……!
スコット皇太子はジェフに知らせずにここに来たのね。
頷いたところで、重い鉄の扉が開いた。
「マリーさま、大変なことになりました」
部屋に入ってきたのはジェフだった。その姿を見た瞬間、心臓がドキッとしてしまう。もはや天使の皮を被った悪魔にしか見えない。
「どうされましたか、ジェフ様」
なんとか冷静な声で応じると。
「……そこにいる者は?」
「コネリー家から面会に来ました。スコット皇太子様の面会許可書を持参していたので、通していただくことができたようです」
私の言葉を聞いたジェフは、片眉をくいっとあげたが、すぐに元の表情に戻ると。
「そのコネリー家の使いの方は廊下に出ていただいても?」
「そこまで極秘の話なのですか? 面会時間は限られています。それにこの使いはスコット皇太子様の許可書を持っているのですから。このままここにいてはダメですか?」
正論にはなっていないが、咄嗟に他の案が思いつかない。苦し紛れそう言うと。ジェフは「いずれ公になり、隠し切れないことですから」と独り言のように呟き、改めて私を見た。
「実はリリアンさまが行方不明になりました」
「え!?」
こちらに背を向けているスコット皇太子の体もビクッと反応している。
「行方不明……とは、お屋敷に戻るまでの馬車で何か起きたのですか?」
「違います、マリーさま。このノートル塔内です」
……? どうしてこの塔で行方不明になるの……?
頭が疑問符でいっぱいの私に、ジェフは丁寧に説明してくれた。
「このノートル塔に幽閉される者の中には、政治犯や貴族が多くいました。過去、そう言った人物がこの塔の中で行方不明になることは、よくあったと言われています。この塔は、地下がありますが、その地下はとても深く、迷路のようになっているのです。そう言った場所に、ライバルの政治家や貴族が看守に金を渡し、幽閉されている政治犯や貴族を連れて行き、置き去りにするのです」
……! そんなことがこの塔で行われていたの!?
思わずブルっと震えてしまう。
「地下の深くで消息を絶った者の行方は知れず。この塔の地下には数万人の人骨が放置されているという噂もあるぐらいです。そして地下につながる扉はあちこちにあり、基本的に現在は施錠してあります。でも稀に鍵がついていない扉もあると言われているのです。リリアンさまのことを、自分はノートル皇帝の塔へ案内していました。普段、立ち入りが禁じられている場所ですが、マリーさまとの面会で、リリアンさまはとても友好的でしたから。特別にノートル皇帝の塔からの絶景をお見せしようとしたのですが……」
そこでジェフは顔を曇らせる。
さらに深いため息をつき、口を開く。
「リリアンさまは考え事をしながら、自分の後ろをついて歩いていました。何度か振り返り、後ろをついてきていることを確認していたのですが……。気づくとリリアンさまの姿がなく。今、懸命の捜索を続けています。ただ、先程話した通り、ここの地下深くは迷路のようになっていますので……。その、リリアンさまはせっかくマリーさまのことを……。とても残念です」














