19:誰が……?~マリー~
部屋に入ってきたリリアンは、私を見て固まっている。
それは……そうだろう。この姿なのだから。
あまりのみすぼらしさに呆れているのかもしれない。
でもそれは仕方ない。例え見た目がみすぼらしいとしても。自分の中で育んできたものは、貶められることはない。コネリー夫妻は私のことを大切に育ててくれた。男爵令嬢として常に品格を忘れず、凛としていることを。
だからきちんと挨拶をした。
例え、素晴らしいドレスを着ていなくても。
私の挨拶を見たリリアンは……驚いていた。でもそれは「ドレスも着ていないあなたが、何、優雅に挨拶をしているの?」という衝撃によるものではなかった。私の挨拶に応じた後のリリアンは、私のために立派な椅子を用意するよう、ジェフに頼んだ。それだけではない。お茶まで運んでくるよう伝えたのだ。
リリアンからお茶まで運ぶよう伝えられたジェフは……分かりやすく、狼狽していた。でもリリアンは腰に手を当て、当然という態度だ。
その様子を見て、思わず微笑んでしまった。
すべての用意が整うと、リリアンと向き合い、椅子に座った。久々の上質な紅茶の香りに、心が和む。リリアンは紅茶を一口飲むと、私を訪問した理由が二つあると言った。
二つ。
私が無実であると証言してくれる――そのために来たのかと思ったら……。
卒業舞踏会の場で、断罪されたのに何も言い返さなかったのはなぜか聞きたかったと言われた。無言でいたからこそ、様々な嫌がらせ、庭園の件、その全てを認めたも同然と皆に思われたのではないか。なぜ沈黙を貫いたのかその理由を知りたいというのだ。
その言葉を聞いた瞬間。
そこを気にしてくれていたのかと、思わず感心していた。同時に、断罪という言葉をリリアンが使うことで「あ、乙女ゲームっぽいな」と前世の自分が思っている。
あの時、無言でいたのは、庭園での記憶がなかったから。だから弁明できなかった。それ以外の過去の嫌がらせうんぬんについてまで、その時は正直、頭が回っていない。
自分は……冷静沈着なタイプだと思っていたし、周囲からもそう見られていた気がする。でも実際はなんてことない。突然の断罪に動揺する、18歳の男爵令嬢に過ぎなかった。
思わずいろいろな思いが胸に沸きあがるが、弁明しなかったその理由。隠す必要もないだろう。正直に話そうと思ったので、答えることを伝えると、リリアンは少し拍子抜けしている。だがすぐもう一つの理由についても明かした。
そう、私の無実を証明したいという件だ。庭園での出来事を、何が起きていたのか話すと。
それについては今朝、デレクから聞いている。だから一瞬、反応が遅れてしまった。しかもなんだか薄い反応になってしまった気がする。焦ったが、私より大いに反応したジェフにリリアンの関心が向かってくれたことにホッとした。
ジェフの方をジロリと見たリリアンが視線を私に戻したので、私は「無実を証明してくださるのですね!」と椅子から立ち上がり、懸命に驚きをアピールする。その様子にリリアンは満足そうになり、そしてこう告げた。
「もちろん無実であると証明します。それに……」
そこでリリアンは何か言いかけたが、飲み込み、「まずは弁明しなかった理由を教えてください」と聞かれた。何を話そうとしていたのか。それは気になるが、ひとまず私があの卒業舞踏会の場で無言だった理由を話した。
つまり、気づけばリリアンが倒れていた。手に私は血のついた石を持っている。周囲に誰もいなく、状況から判断すると私がリリアンを殴った可能性もゼロではないと思った。でも記憶がないと言っても信じてもらえないだろう。だから何も言えなかった。そして過去の様々な件については……。自分としては嫌がらせのつもりはないが、リリアンがどう感じているか分からないため、違うと否定しきれなかった。ということもあるが、正直なところ、あの場ではそこまで頭が回らなかったと打ち明けた。
これを聞いたリリアンは……。
「そうだったのですね。過去の様々な件。今、マリーさまがお話くださったこと、私も同じように感じていました。ですから、間違いありません。マリーさまは私に嫌がらせをしていません。出会い頭にぶつかったのも偶然です。紅茶がかかってしまったのはただの事故。スープの件はハエがいたのですから。むしろ私が感謝する件ですから」
そうか。リリアンもそう思っていてくれたのね。
そのことに感動するのと同時に。
私は悪役令嬢でリリアンはヒロインであるのだが。
なんというか、敵ではない、信じても大丈夫なのではと思えた。
過去のあれこれはすべて誤解であると、お互いの認識が一致している。だが……。
「そうなると、誰がスコット皇太子さまに告げ口……というか、勘違いだったのかもしれませんが、偽の報告をしたのでしょうか? まあ、スコット皇太子さま自身が目撃していた可能性はゼロではありませんが……」
リリアンのこの言葉に、私も考え込むことになる。リリアンと私の間に起きたことを、身近で見ていた人物がスコット皇太子に、勘違いであれ、嫌がらせをしているようだと報告したとなると……。
「マリーさま、学校の生徒かもしれませんね! 一人ではなく、複数。廊下であれ、食堂であれ、生徒はどこにでもいるでしょ。それで偶然見かけて、スコット皇太子にチクったとか!」
瞳を輝かせて自身の推理を口にするリリアンに、何か違和感を覚える。リリアンは……伯爵令嬢で、ヒロインだ。それなのに今の話し方は……。なんというのか、乙女ゲーム『夢見るドールは恋を知る』の、西洋中世風の世界観から逸脱しているように感じる。
私の怪訝そうな顔に、気づいたのだろうか。リリアンがハッとして、まさにお茶を濁したいのか。紅茶をがぶがぶと飲んだ。でもその姿はさらに伯爵令嬢っぽくなかった。














