17:希望~マリー~
デレクが出て行くのと同時にスープにちぎったパンをしずめ、柔らかくし、可能な限り急いで食べるようにする。
孤立無援と思ったが、デレクが来てくれた。コネリー夫妻も私を助けたいと考えてくれているのだ。不味かろうが、固かろうが、関係ない。この食事でどれだけ栄養をとることができるかは分からない。でも空腹では体がもたないことは確か。とにかく食べ、ここから出られる時に備えよう。
そうやって気持ちを鼓舞して、なんとか朝食を食べきった。グラスの水を飲み干したところでさっきのメイドが戻って来て、朝食がのったトレイを下げてくれた。
胃袋を休めながら、リリアンのことを考える。
デレクから聞いた話には、本当に驚いた。まさかリリアンが私の無罪を証明しようと考えているなんて。突然現れたデレクに対し、リリアンが口から出まかせで言ったとは思えない。
目の前に剣を突き付けられている。そんな状況で口走るなら「皇太子さまに頼んで、幽閉を解くように頼みます! マリーさまがお可愛そうだからと言って。私は恨んでいない、許すと言います!」ぐらいがせいぜいだろう。
過去の出来事も踏まえ、庭園での状況を冷静に語ることができたということは……。
思いつきではなく、ちゃんと考えていたことだと思う。その考えをいつからしていたのかは分からないが……。
それを踏まえると、少なくとも今回の断罪と幽閉に、リリアンは直接絡んでいるわけではないと思える。スコット皇太子は……正義感が強い。リリアンが置かれている状況を鑑み、ましてや殺人未遂などという恐ろしい状況になったので、断罪と幽閉を決めたのだろう。
もしかするとリリアンは、私から嫌がらせは受けていないと、過去にもスコット皇太子に言ってくれていた? でも彼は耳を貸さなかった……?
それは……ないだろう。スコット皇太子の人柄を考えても。しかも愛するリリアンの言葉になら耳を傾ける。となると、その時点ではリリアンはスコット皇太子に何も言っていない可能性が高い。いや、言うも何も、リリアンと私の間には何もなかった。ハプニング以外は。
だから……。
リリアンは何もしなかった。でも今回私が公の場で断罪され、ようやく状況を把握した。もしかしたらスコット皇太子にも、デレクと会うことがなくても、私は無実であると話すつもりでいてくれた……とか?
これは……少しリリアンを神聖視し過ぎだろうか。
いずれであれ、リリアンが証言してくれるなら、ここから出られる。そうしたら私は帝都を離れてもいい。どこか田舎で彼と二人、心穏やかに生きていければ……。
コネリー夫妻と離れるのは辛いが、決してゆとりがあるわけではない。私がいれば家計の負担は増すだろう。彼と結ばれ、たまにコネリー夫妻に会うことができればそれで十分だ。私は刺繍が得意だから、田舎であっても、裁縫の仕事ぐらい見つけることでもできるかもしれない。
そんなことを考えていると、重い鉄の扉が突然ノックされる。
だがそのノックは実に控え目な感じで……。
もしかしたらジェフなのかもしれない。
予想通り、ジェフが部屋に入ってきた。
昨日の件を聞かれると思ったが、ジェフが告げたのは予想外の言葉だった。
「マリーさま、おはようございます。実は……リリアンさまが面会に来ています」
「えっ!?」
これにはもう驚きだ。
リリアンを信じるしかないと思い、彼女を神聖視さえしかけていたが。
それでも心のどこかで本当に信じてもいいのか。
そんな気持ちがあったのも事実だった。
でも。
わざわざここまで尋ねてくれるなんて……。
ノートル塔は帝都の中心地からは遠い。馬車で1時間近くかかったはずだ。
それを事前に約束をとりつけることなくやってきたのだ。
間違いない。
リリアンは……私を助けようとしてくれている。
「リリアンさまとお会いになりますか?」
ジェフが遠慮がちに尋ねたが、私は「会います」と即答していた。すると「分かりました」と返事をしたジェフはすぐに重い扉を開けさせ、「マリーさまはリリアンさまの面会を受ける。すぐに手筈を整えろ」と命じた。
「リリアンさまと面会するにあたり、二つの条件があります」
「何でしょうか」
先程に続き、即答する私をジェフは不思議そうな顔で見ている。でも……その気持ちは理解できた。この塔へ幽閉される原因を作った張本人が乗り込んでくるのだ。なぜ嬉々として会う気満々なのかと思われても……仕方がない。
「まず、マリーさまがその……何か危険なものを隠し持っていないかの確認です。つまりは身体検査。……身に着けているものはすべて脱いでいただき、女性の騎士に確認させていただくことになりますが……。よろしいですか?」
……!
驚いたが、それは……仕方ない。なぜなら面会するのは、殺人未遂の容疑者と被害者なのだ。この塔へ幽閉された時点で、ワンピースに着替えただけで済んだのは……一応私が男爵令嬢であり、ジェフが配慮してくれたからかもしれない。
それに裸になることは……。この世界ではメイドの手で入浴も当たり前だ。コネリー家はそこまで余裕がなく、そうではなかったが。もし皇太子妃になっていれば、裸など当たり前のようにメイドに見せていただろう。
だから大丈夫。気にしないで受け入れよう。
「はい。分かりました」
私の返事にジェフは何とも言えない表情になる。その心中は……分かるような分からないような。だが私情を押し殺し、話を続ける。
「面会中は私が同席させていただきます。これは安全面の配慮です。いくら武器がなくても、密室で二人きりにするわけにはいかないですから」
これは……少し悩むところだ。リリアンとは何か込み入った話をするかもしれない。その時、そばにスコット皇太子の信頼厚いジェフがいるのは……。でも仕方ない。ジェフが言っていることは提案ではなく、決定事項を私に告げているだけなのだから。ここで私が「それは困ります」と答えれば、この面会は成立しないだろう。
だからこの問いにも「分かりました」と答えた。
「ではすぐに女性の騎士を連れてきますので、準備をお願いします」
ジェフはそう言うと部屋を出て行った。
そして彼の言葉通り、すぐに女性の騎士が部屋にやってきた。既に服も下着も脱いでいたので、検査はあっという間に終わる。すぐに身支度を整えた。
準備はできたのでベッドに腰を下ろした瞬間。
重い鉄の扉がノックされた。























































