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(5-5)

こんばんは。

無事生還。

諸事情で、更新は、今後 夜20:00に変更します。


今夜もよろしくお付き合いのほどを。

小夜は頷いて言った。

「俺もそう思った。ダイケンに雇われたっつってたもんな。甲賀者ならダイケンから派遣されたっていうだろうし」

樫沢が蒼瀬の背をさすりながら聞いた。

「なんで?」

「ダイケン製薬の起源は甲賀の薬屋だ。あいつら甲賀者だぜ」

「まじすか…… じゃ、伊賀は?」

「オリオン工業。あいつら、伊賀の里に伝わる、生きた金属の研究に命かけてっからな」

「甲賀と伊賀って、仲悪いんでしょ? なんで、兵隊の貸し借りするんです?」

「ああ、それ嘘。昔から共同作戦とかやってたもん。甲賀は集団戦が得意で、伊賀は個々の戦闘能力が高い。魔の殲滅っていう目的は共通してたから、場面で臨機応変に助け合ってたらしいぜ。元々忍者は冥府の追っ手を退けるために創られたんだ…… あれ?」

小夜は、話を中断して、玄関の方に目を向けた。ガラガラという聞きなれた引き戸を開ける音に、怪訝な顔をしていた雪は、血相を変えてダイニングを飛び出した。

小夜があわてて追いすがる。

「おい、雪!」

蒼瀬と樫沢も、何事かと立ち上がった。

「わりゃ、メギツネェェ!」

廊下に走り出た小夜が見たのは、雪が、斎賀に支えられて玄関に現れた紅坂に襲い掛かろうとする瞬間だった。紅坂は、のど元に突きつけられた鉤爪には目もくれず、呼吸を荒げたまま、雪の視線を受け止めた。

「どのツラ下げて戻ってきよった! 先生、あんたもなんのつもりや。この女のせいで美香は……」

斎賀は静かに言った。

「病院で意識が戻ったとたん、看護士相手にも、服を脱がんと言い張ってな。隠し武器の類を見られるのが嫌なのかと思ったが、どうやらそうではないらしい」

紅坂は珍しく怒りを露にして、吐き捨てた。

「ビスチェの下を見られるくらいなら、死んだ方がマシ」

雪がせせら笑うように言った。

「なんえ、人に見せられへんようなもんでも、ついとるんかいな。人面瘡とか」

その言葉の効果は絶大だった。

目を見開いた紅坂は、手負いとは思えぬ速度で、片手を背中に回した。

が、その姿勢のまま固まっている。

マルが慌てた風もなく、ガバメントにかけた紅坂の手を押さえ込んでいた。

「やめておけ」

マルが静かに言うと同時に、小夜はつかつかと嘲笑する雪に近づいた。

「おーおー、図星かいな、ええ顔どすえ? そんなくらいじゃうちはぜんぜん驚き……」

ゴン、と凄い音がした。

頭を押さえて蹲る雪を尻目に、小夜は頭を下げた。

「妹が失礼した。勘弁してくれ」

紅坂は、あっけに取られて小夜を見つめていたが、肩を落として目を逸らし、銃から手を離した。

頭を上げた小夜は、しかし、眦を吊り上げた。

「けどな、俺も気持ちは雪とおんなじだ。あんたをぶっ殺してやりたい」

小夜の後ろにいた樫沢が、遠慮がちに声をかけた。

「紅坂、大丈夫なのか?」

紅坂は焦点の合わない視線を彷徨わせながら言った。

立っているのも辛そうだ。

「座らせて。話すのがやっと」

樫沢は何も言わずに、小夜と、しゃがみ込んでいる雪を拝み、二人の間に体を割り込ませた。マルの反対側から紅坂を支える。

樫沢はマルに向けて頷くと、小夜が開けてくれた道をダイニングに向かって歩き出した。


「…… 以上。何か質問は?」

話し終えた紅坂は、ソファの背もたれにぐったりと頭を乗せた。

紅坂の周りを囲んでいる小夜、雪、樫沢、マルは言葉を失っていた。

蒼瀬は話の途中で、気分が悪い、とトイレに籠もったままだ。

紅坂の話の内容とは、こうだ。

伊賀の奥地に犬神ヶ原と呼ばれる聖地がある。

かつて、五行天狗衆と冥界からの追っ手が大戦争を行った場所で、その際、防波堤として、冥界の門が造られた。

伊賀忍軍が創設されたのは、現世側のゲートキーパーとしてであり、冥界側の門番は、ケルベロス。大戦争以降、その門は開けられることなく何百年を過ごしたが、二ヶ月ほど前、何故か伊賀の上忍が、それを侵そうとした。

それが犬丸で、以降消息を絶っていたが、つい先頃、大阪の電気街に、姿を現したという情報があった。

紅坂は、今年の四月から、ある任務の辞令を受けていた。

それは、蒼瀬瑞穂という少年を魔から護衛する事。

そのため、蒼瀬と同じ学校に入学させられたのだ。

そして、先日受けた別の任務が、五行天狗衆と協力し、犬丸を狩ること。

その理由を紅坂は知らない。

当然だ。説明などされるわけがない。

一介の兵士が知る必要は無いのだから。

「あんた…… コード000じゃなかったのか」

小夜がコード004―― 紅坂に言った。

小夜は、倉庫でケルベロスと話していた時の違和感の正体を理解した。

金属の除去に成功し、一般人の体になった者が、小夜達の身体能力を超えられるわけがないのだ。

紅坂は、小夜達が、島を去った直後に運び込まれたらしい。紅坂が、六歳の頃だ。

金属の浸蝕は微量で、オリオン工業製の封魔の輪を付けているものの、発作の心配は殆ど無いという。従って、三姉妹のように、変化する能力はない。

しかし、金属に侵された原因が分からないのは、小夜達と同じだった。

基本的に生きた金属の親和は、自我の形成が未熟な赤子や、精神的に不安定な者に対してのみ可能だ。

だが、例外もあり、融合を望む人間が、修行を積むことで、親和が可能になることもあると言う。

この辺りも、一般で言う、霊の憑依に酷似している。

斎賀が静かに口を開いた。

「確かに、君が助っ人に入ると言っても小夜達は突っぱねたろうな」

「必要ねえよ。ケルベロスを斃したろうが?」

小夜は紅坂に、憮然とした面持ちで吐き捨て、言ってからしまった、と臍を噛んだ。

捨て身で止めを刺したのは、紅坂だ。

「確かに、あなたたちは強い。けれど―― 犬丸はもっと強い」

紅坂は小夜の言葉を訂正しなかったが、但し書きを付け加え、その言葉は小夜達にメガトンクラスの衝撃を与えた。

「多分、私が四人いても勝てない」

さすがの雪も息を飲む。

頭が痛むのか、紅坂は顔を顰めながら、なおも人ごとのように続けた。

「あなたたちの実力を知ると同時に、私の強さを知ってもらう必要があると、私は考えた。納得の上で四人が力を合わせない限りは、万が一にも勝ち目はない。こんな結果に、なってしまったけれど」

「人ごとみたいにいいな!」

「あの犬丸っての、なんでケルベロスなんかになっちまったんだろうな?」

「…… 分からない。犬丸がケルベロスと同化していると知ったのは、日本橋で貴方たちと会った日。犬丸は、伊賀忍の総師範。ケルベロスに後れを取るなんて信じられない」

「総師範!? 伊賀最強ってことか…… それって、身内の恥だろ、言って良いのかよ」

「だから、ケルベロス化している間に倒したかった。他言は無用に願う。ケルベロスと同化した犬丸が、貴方たちを狙うのはわかっていた。金属の憑依者が三人もいるのだから」

小夜は、背筋が粟立つのを感じながら、聞いた。

「ケルベロス相手なら、俺たちは十分闘えた。犬丸も、なんとかなるんじゃねえか? 大分傷を負ってるはずだし」

紅坂は頷いていった。

「ケルベロス化したときの方が弱いのは間違いない。別にケルベロスが弱いんじゃなくて、犬丸が強すぎるだけ。相当、深手を負ってるのは確か。そこに勝機を見出すしかない」

「…… 犬丸を斃せば、陰の金属が手に入んのかえ?」

「殺せば煙になる。犬丸を捕獲するのは無理。だからそれは、諦めた方がいい」

「犬丸に、何か弱点はないのか?」

「ない」

「話し合いで解決しようぜ」

紅坂と樫沢が同時に答えた。

「四角いの、ふざけんのも……」

「あのな、雪さん」

樫沢が遮った。諭すような口調が逆に不気味だ。

「あの人が、俺らぐらいの頃の話だ。

ケンさんが繁華街に足を踏み入れるだろ? 

そこを後にする頃には、壊れた人形みたいに手足をへし折られたヤクザやら、ギャングやらが転がってたらしい。

おれもあの人が喧嘩すんのを見たことがある」

樫沢は頭を振った。

恐ろしい思い出を振り払うかの様に。

「まったく躊躇がない。相手が死のうとどうなろうと、結果は頭にねえんだ。

雪さん達も、桁外れに強いけど、ケンさん程徹底できると思えねえ。

ケンさんは仲間にしたら最高で、敵にまわせば最悪な男だ。でも、悪人じゃねえ。話し合うべきだ」

「そうだな」

小夜は頷いた。

「小夜、本気かえ!?」

「俺は美香が、助かる確率の高い方を選ぶ」

雪は黙り込んだ。

そのとき、樫沢の携帯が鳴った。

「あ、すまん、すぐ切る……」

「私も、ちょっと蒼瀬君の様子を見てくる。心配だ」

斎賀は立ち上がって言うと、ダイニングを出た。

ポケットから取り出した薄い携帯の液晶に、いらついた視線を走らせた樫沢は、瞠目して凍り付いた。あわてて耳に当てる。

「も、もしもし。ケンさん!? あんた……」

空気に緊張が走り、小夜の全身を稲妻が貫いた。

「え、はい、紅坂なら、ここです…… いえ、病院で暴れて帰ってきたんです…… 気に入らないとかで…… あ、はい。実はそうです。すみません。理由はわからんですが。それより、ケンさん、今、どこですか…… え?」

惚けたように虚空を見つめていた樫沢は、ゆっくりと小夜の方を振り向き、言った。

「…… 鳥居の前にいるって」


斎賀は、トイレ横の階段に座り込んでいる蒼瀬を見つけた。

古びた板敷きの廊下が小さなきしみ声をあげる。

斎賀の近づく気配にも、蒼瀬はずっと俯いたままだ。

斎賀は、無言で立ちつくし、蒼瀬の丸まった背中を見つめ続けた。

ダイニングの方から、小夜達の緊迫した声が聞こえる。


「ねえ」


ややあって、蒼瀬がぽつりと口を開いた。


斎賀は無言。


「ねえ、マル。体を陰に戻すにはどうすればいいの?」


斎賀が静かに言った。


「感染体に、戻るおつもりですか…… 若」



「紅坂じゃないって聞いて、やっとわかった。


僕がコード000だったんだね」


いよいよクライマックス!


感想おまちしてます


( ^ω^)・・・

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