燃石を求めて
燃石を求めて
「これで雑貨屋三軒目がダメだったかぁ……」
王都は広い。とても広い。正確な数はわからないが、少なくとも王都在住は十万は人がいるのだという。その他を加えればその倍になるとか地球の歴史的な観点で見れば中世文明ほどで一つの都市にこれだけ人が集まるのは異常だ。もちろん国土の広さで人口そのものは多いのだろうけどここまで移動するのもかなりの時間と労力、そしてお金が必要だ。地球で言うならばアジアの南東辺りからヨーロッパの東辺りまで徒歩と馬車で移動と言った方が良いだろう。地球では不可能だろうがこの世界には魔法があるから長距離の移動も可能だったのでは?というのを考えているが……
まあつまり何が言いたいのかと言うと、
「道も多けりゃ店も多い。いくつ商店街あるんだよ……」
「しょうがないですよ。ここは王都、国の中心ですから。でも規模としては同じくらいの港湾都市はここまで商店街は多くありませんでしたけど」
シャリアも少し疲れたように話す。そりゃあもう昼過ぎもいいところだ。さっき屋台で軽く串焼きを食ったが、思ったよりも不味かったのも元気が無い一因だ。
「燃石って結構簡単に売ってるんじゃなかったのか?」
「逆に結構簡単に手に入るからこそ売り切れてるような……だって便利ですし」
俺たちが王都の中の店をあちこち回って探しているのは燃石という鉱石。実際、鉱石と言うよりは石炭に近いのだけどただ熱くなって薪に引火させるためだけに使われる石だ。そもそも俺が何故それを探しているのかというと、銃の薬莢に取り付ける雷管のためだ。この燃石、実はそのままではただ赤い石で熱を起こすには強い衝撃が必要なのだ。どうやら一般家庭で使う時には粉末状にして火打石のように使っているらしいのだけど俺が探しているのは燃石の塊だ。と言うよりもそもそも燃石の粉末すら未だに見つかっていないのだけど。
燃石は塊だと落としただけで強い爆発を起こす。しかし細かく加工すれば落としたくらいでは爆発せず、ハンマーでぶっ叩くくらいしないと爆発は起きない。俺はそれを利用して雷管に加工しようとしているのだ。既に薬莢などのパーツや弾丸制作用の器具などは特注で工房の彼らに作ってもらっているので俺は中身探しというわけだ。
「あ、試しにあそこの薬師用具のお店に行ってみませんか?もしかしたらあるかも」
「いやー、火薬同然みたいなものを薬屋で売るか?」
「でも他のも買えますよ?前に欲しがってましたよね、薬師用の天秤。売ってるかも知れませんよ?」
そうだった。天秤も買わなくちゃいけなかった。
新しい弾丸を作るにあたって、火薬の量を細かく調節しなければいけないのだ。というか今までと同じなのだけど。今までは小さなカップに火薬を詰めて紙製薬莢を作っていた。だが、新たに作る以上その基準は使えないので火薬量を図るための天秤が必要なのだ。
「ここをちょっと見てみましょうよ。天秤があるかも知れませんね」
俺が探している天秤は一グラム……一グラ事に細かく調整できるタイプのものだ。細かく調整出来ないと思わぬ事故を起こすことになるから気をつけないといけない。
店の中は少しだけツンとする匂いがしている。薬草などの匂いだろうか。それに棚がいくつも所狭しと並んでいて移動がしずらい。
「天秤はどこだ……あ、あった」
いくつか棚を見て回ると、下の方に天秤をいくつか見つけた。
薬師用の天秤だ。大きめのサイズで十グラまで測れるやつだな。
「これは違うな……もっと細かく測れるやつは」
また少し棚を探すと少し小さめのを見つける。
「これは……最大五グラまで。これで決まりだな」
俺はその天秤と近くに売っている分銅のセットを纏めて購入する。金貨二枚した。
「あれ?シャリアは何を買ったんだ?」
店から出るとシャリアが待っていたのだが、彼女もなにか買ったようだ。
「えっと小瓶ですね。ルルちゃんから頼まれてたんです。魔法陣用のインクを詰める瓶とかそういうのを買ってきて欲しいって」
なるほどね……さて、また燃石探しの再開だな。
「あ、今聞いたんですけど、燃石ならそこの雑貨屋ならまだ在庫があるかもって」
シャリアの指さす先には黄色い屋根の雑貨屋があった。そこはまだ訪れていない。
「よし、それじゃあそこに行ってみるか」
ほんの数十メール歩いたところにある雑貨屋はあまり繁盛して無さそうだが……
「こんちわー、誰かいませんかー?」
ドアを開けても誰かいるようには見えないのだが……あ、燃石見っけ。ほんとに在庫があったよ。それも結構たっぷりと。
「あーはいはい、本日はなに用で?」
奥から出てきたのは人の良さそうなおじさんだ。
「えっと、燃石をいくつか買いたいんですけど」
俺は足元の燃石の入った箱を指さす。
「あー燃石ね。最近全然入荷されないんだよね。どうやら近くに魔物が住み着いたとかで採掘が出来ないらしいんだ」
「魔物?」
「うん。長尾熊テールベアーっていう熊の魔物だね。凶暴だし討伐しても旨みがない魔物だから不人気なんだよね。でも皮は良質だから高く売れるんだけど知ってる人が少ないんだ」
「へぇー、そうなんですか」
「うん。尻尾に生えてる毛が特殊でね。とても固い毛なんだけど熱を加えると柔らかくなって手袋とかにして編めるし、手袋にした後にまた熱を加えると今度は固く元に戻るんだよ。柔軟性はそのままにね」
「手間はかかるんですね……あ、燃石って結局いくらですか?」
「ああ、そうだったね。最近値上がりしてるからね……どれぐらい欲しい?」
どれぐらいか……結構細かくして使うけど燃石自体が十セール程度と小さいのだ。失敗することも考えると、そうだな。
「三十個ほどだな」
「了解だ。それならそうだな……金貨一枚と大銀貨八枚だな」
「え?今までいくつか店見てきたけどもっと高かったぞ?」
「大量に買ってくれたお礼だよ。でもこんなに何に使うんだい?」
俺は金貨二枚を渡しながら答える。
「弓矢に付けるんだよ。威力が上がりそうだろ?」
「なるほどねぇ、なんとも贅沢な使い方だ。そんなに固い魔物なのかい?」
おじさんが大銀貨二枚を俺に返しながら聞いてくる。
「まあそんなとこだな。おじさん、ありがとな」
「うん。気をつけるんだよ。あと、燃石は水の中でしか加工しちゃダメだからね」
「わかったよ。気をつける」
「ありがとうございました」
俺とシャリアは親切なおじさんに礼を言って外に出た。
「まだ日が高いな」
「そうですね。あ、そうです。三人でお揃いの外套でも作りませんか?二人が持ってたやつ私も着てみたくて」
ルルと同じようなこと言ってるな。でもこの外套も新しくするのも良いかもしれないな。まだ着れるがいつ破けるかわからないしな。
「そうだな。じゃあ次は服飾屋か?」
「ですね。ところでヤマトさん。外套の材料に龍の翼膜って使っちゃダメですか?」
シャリアが期待の眼差しで聞いてくる。
「ん?いや全然構わないぞ。というかむしろそっちの方が丈夫そうだしな」
「やった!って、すみません……」
シャリアのかわいい一面が見れてほっこりする俺であった。
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