第5章 ― 3
洸sideです
洸と夏希は大人たちに囲まれた状態で連れていかれた。
歩いている途中、夏希の手が洸の指先に当たったので強く握り締めた。チラリと横で夏希を盗み見すると、夏希は真っ直ぐに大人たちを見上げていた。
(強いな、こいつ)
最初は弱々しく見えていたのに、りゅうこに会った辺りから芯の強さを見せるようになった。もし、これが夏希の本当の心なら、夏希は洸以上に正義感の強い人間なのだろう。
洸は夏希ほど高潔な性格ではない。浅ましく、自分の利がある方へ物事を進めるか流れに乗るタイプだ。
夏希のように、我を持って進んでいく人間が眩しくて羨ましく思える。
夏希との差に、歯を噛み締めていると、目的に着いたようだ。
群青色の着物に瑠璃色の袴を履いたタガタと、白い着物に青い袴を履いた司の姿があった。
「洸」
「……父さん」
司の剣幕に、洸は言葉を詰まらせた。
「何故、こんな愚かな真似をしたんだ。脱獄補助なんて、これほどの大罪は他にない」
「父さん、これには理由があるんだ」
「理由があっても無くても、罪は許されるものではないんだ」
司の瞳が揺れ、今にも泣きそうな顔に洸は何も言えなくなった。
人の群れを掻き分けて、1人の男性が近付いてくる。
洸は目を見開き驚いた。
「タガラおじさん・・・」
タガラは司の横を通り過ぎ、洸と夏希の手首を乱暴に掴み引っ張った。
「「わっ!?」」
ぐんぐんと進むタガラに、司は慌てて追い掛けて彼の肩を掴んだ。
「タガラさん、待ってください!」
タガラは司を一瞥すると、司の手を振り払い吐き捨てた。
「お前の育て方が悪かったんだな。こんなガキを育て上げる神職か。先代は何を考えていたんだか」
言葉に詰まり、司は蒼白のまま何も言えず拳を胸に押し当てた。
「子の罪は親の大罪、お前に神職の座は務まらん。罪人は私が処する」
洸と夏希は、最初に夏希が閉じ込められていた物置とは正反対の位置にある物置に連れてこられた。
こちらも埃っぽいが、物置と言うより空き部屋の方が近い。段ボールが数個置いてある程度で後はがらんどうだ。
「さあ、入るんだ」
「ちょっと、待ってくれ! 一度、父さんと話を・・・」
「罪人に譲歩する権利はない」
洸と夏希は部屋の中央に追い立てられ、部屋の支柱に肩をぶつけた。
「本来ならば、祭事前に罪人を処することは許されないが、これ以上、お前たちを野放しにしておくことこそが罪! よって、お前たちをここに留置する」
言うが速く、タガラの手が夏希の左手首に伸びる。
「夏希っ!」
洸は夏希と手が離れないように固く握ると、タガラの手は洸の手ごと夏希の手を支柱に押し付けた。
「うわっ!?」
「やっ!?」
ぶつかった衝撃で、夏希と洸はバランスを崩し膝立ちになる。
何をされるのか。
洸が顔を上げた瞬間、タガラの表情のない顔を見て背筋を凍らせた。
その瞳に何を映しているのか、何を考えているのか分からない。
タガラの右手が何かを持ち、構えて、ハンマーを振るい、手の平に激痛が響いた。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ……」」
二人の悲鳴が部屋中に響き、部屋の外で成り行きを見守っていた村人が顔を歪める。
釘は1本、2本…………合計6本、手の平の中心目掛けて打たれた。
ただ1人、タガラだけは嘲笑めいた笑みを浮かべて、洸と夏希を見下ろしていた。
「罪を犯すから、こうなるんだ」
「…………っ、大切、な、弟に、会うことの何が罪だっ!!」
「……愚かな」
タガラは五寸釘の面を足の裏で踏みつける。
「ああああぁぁぁぁ」
「な、夏希ぃ……、くそっ」
睨み付ける洸を、タガラは鼻で笑った。
「神の御子のおわす社に土足で足を踏み入れただけでなく、未来の妻をも蔑ろにし、違う女にうつつを抜かす。正気の沙汰とは思えぬな」
タガラは村人を促し、小屋から出ていく。
このまま置き去りにするつもりか。
「ま、待て! タガラッ」
「そこで己が罪を悔やむのだな」
手を伸ばし、必死に訴える洸の前で扉は無情にも締められた。
カチャカチャと鍵で掛けられ、完全に閉じ込められてしまった。
せめて手に刺さった五寸釘をどうにかできないか、左手を伸ばすが利き腕じゃない上、上手く力が入らない。
一層のこと、無理矢理にでも手を引っ張り抜こうかとも思ったが、洸の手の下にある夏希の手のことを考えると最善とは言えないだろう。
これ以上、夏希に辛い思いはさせたくなかった。流れる血が床を赤く染めていく。
痛くて痛くて涙が止まらないが、洸は必死に口角を上げて笑みを作った。
「夏、希、これで、オレたちは血を交わらせた仲だな」
「洸・・・」
夏希は泣きながら頷いた。
「時間が、ない。夏希、これを口に含んでろ」
「これ、は?」
「気付け薬だ、きっと役に立つ」
帯下げに薬袋を付けていて助かった。
傷薬と気付け薬は洸の常備品だ。
山遊びをするときに絶対に必要になる。
「夏希、これを奥歯辺りに挟んでおくんだ。使いたくなったら、少しずつ囓れ、効果はすぐに出る」
夏希は頷き、洸から気付け薬を受け取ると口の中に含む。洸も含んだ。
「洸・・・」
「ん?」
「ごめんね」
何に対しての謝罪か分からず首を傾げる。
「謝るのは、オレの方だ。危険な目に合わせて、ごめん」
瞼が重くなってきた。
右手の痛みが、どんどん強くなっている。
洸と夏希は手の痛みから逃れるように、目を閉じて意識を飛ばした。




