第5章 ― 1
洸sideです。
肌に感じる肌寒さで、洸は目を覚ました。隣には俯せで眠る夏希の姿もある。
(あれは夢だったのか?)
ソッと額に手を当ててみると、パチッと静電気のような痛みが指先に走り眉を潜める。
「現実だったか」
洸は怨霊に呪いを受けた。“天災”というものが、どのようなものかは分からないが、物語に出てくる呪いの類が、呪いを受けた人を最終的には死に至らせる事を知っているだけあり客観視はできない。
「天災っていうだけあって自然現象の類なら、他のヤツを巻き込む危険性もあるしな」
りゅうこは、洸の役割を話す前に消えてしまった。りゅうこの本体のいる本殿へ行けとしか言われていないが、そこで何をするのだろうか。少なくとも、ビー玉で怨霊を貫き、怨念を封じるように言われた夏希とは別行動となる。
(夏希1人に行動させるのは危険だ。一度、取り憑かれたことがあるし、どうするかな)
洸は夏希に手を伸ばそうとしたが、その前に夏希の瞼が震えて目を覚ました。
「起きたか?」
「・・・うん、あれは夢?」
自分と全く同じ事を考えた夏希に、洸は「くっ」と笑い声を立てた。
「夢じゃない、現実だ」
洸は夏希の手の平を指差し、夏希が手の平を開くと、そこにはビー玉が転がっていた。
「これを、あの悪霊に向けて投げるのか」
「しかも、貫くほどの威力がないとダメらしいしな。パチンコを使うか?」
「パチンコ?」
「あぁ、子供の頃、的当ての時によく使っていた道具のことだ。子供だから弓の弦は引けないからさ、パチンコで練習をするだろ?」
夏希は眉を寄せて首を傾げる。
「・・・もしかして、パチンコを知らないのか?」
「知らない訳じゃない。大人がやる、カジノ的な博打でしょ?」
「いやいや、全然違うし。・・・そう言えば、お前60年後から来たんだっけ?」
洸の言葉に、夏希は身体を強ばらせた。彼女は自分がこの時代の人間ではないことに後ろめたさを感じているようだが、何故感じているのか洸には理解ができなかった。
(オレの常識が夏希にとっての非常識だとしても、オレの常識だって夏希にとっての非常識になるんだ。言葉にしてくれなきゃ分かんねえよ)
洸は長く息を吐き、立ち上がった。
「取りあえず、家に帰ろう。日が昇ってるし、もしかしたらおまえが抜け出したことがバレてるかもしれない。行動は慎重にな」
夏希は洸の瞳を見て、コクリと深く頷いた。
手を差し出すと、夏希は握り返してくれる。
暖かい。
生きる時代が違っても、こうして触れ合えるのだから良いではないか。後ろめたく感じなくて良い。夏希は被害者だ。元の時代へ戻してやることが、自分にできる唯一のことだと洸は思った。




