パパ
困ったことに、ママは近ごろ、もっとすっごく綺麗になった。
そのせいかな。なんだかパパも、もっともっと、ものすごく機嫌が悪い。
もちろんママは前からキレイなんだけど、崖の上のレストランに行く日は、とっても丁寧にお化粧して、まつ毛もくるっとくっつけて、鏡の前で何度も何度も、お洋服を着たり脱いだり。
「これはどう?こっちはどう?」って訊いてくるから、ボクなんかもう、早く行こうよ、ってあくびが出ちゃいそう。
そうして、パパがお仕事から帰って来る頃までには、お化粧を洗って、まつ毛も取って、いつものお洋服にエプロン付けてるんだけど、なんだか変だなって、きっとパパには分かっちゃうんだ。
だって、夜ゴハンの最中も、電話をチラチラ見てため息ついたり。パパが「お茶」って言ってるのに、全然聞こえてなかったり。
だからやっぱり、ケンカが始まる。
パパが机を叩くのが始まりの合図。
ボクはそうなるとどうしようもなくって、パパが怖くて怖くてどうしょうもなくって、急いで二階のお部屋に走って戻って、ベッドの上で丸くなる。
それでもパパの怒鳴り声は聞こえてくる。
それに言い返すママの顔は、きっとすごいことになってる。
聞きたくない!見たくない!
そうして両手で耳を抑えて、目をぎゅっとつむると
カラカラカラカラ
音が聞こえて来る
カラカラカラカラ
すると他には何も聞こえなくなる
カラカラカラカラ……
ボクは箱の中の小さなキャラメル
誰もボクの箱には入って来れない
カラカラカラカラ……




