階段
だんだん寒い春があったかい春になってって、その人は、レストランの横の階段を下りて、ママとボクを、海のそばまで連れてってくれた。
長い長い階段。
ボクとママは手をつないで、その人は白い板っきれを抱えて、その急な階段を降りてった。
その人は、その頃には黒いショッカーじゃなくって、ゴレンジャーの青みたいになった。
悔しいけどちょっとカッコいい。
それでボク達を岩場に残して、板っきれに乗って、ずっと遠くの、他のいろんな色の、レンジャー隊員のとこまで行っちゃった。
残されたボクとママは、大きな岩の上によじ登って、その人が波の上を走って遊ぶのを眺めてた。
それからだんだん退屈してくると、ママと、岩と岩の間を覗いて赤いカニをつかまえたり、水たまりの中を泳いでる小ちゃい魚を探したりして遊んだ。
ママはボクよりもスカートを砂で汚して、水たまりに落っこちて、靴をびしょびしょにしちゃって、もうそのうち、ボクもママも靴を脱いで、濡れるのなんてどうでも良くなって、一緒に滑ったり転んだりして、大きな口を開けて笑った。
あったかい風と、冷たい水が気持ち良くって、ママが、ボクと遊んでくれるのが嬉しくって、ボクはずっとずっと笑ってた。
そのうち、青レンジャーがニコニコとご機嫌な顔して海の中から戻って来たから、またレストランまで戻ることになって、でもいっぱい笑って遊んだ後は、階段を昇るのが大変だった。
「よいしょ、よいしょ」って、声出しながら一生懸命昇るんだけど、それでも途中でボクがへこたれそうになると、ママがボクの手を取って「頑張れ、頑張れ」って言ってくれた。
それで今度は、ママが段々へこたれてくると、その人がママに向かって手をのばした。
ママはその人のこと、しばらくじっと見つめてた。
それからそっと、その大っきな黒い手に、キレイに爪の染まったほっそりした指を乗せた。
その時、その人は……何ていったらいいのかな……。
とっても、とっても、大切なものを貰った、みたいな顔したんだ。
ボクが知ってる言葉では、まだ上手く言えないんだけど……。
ボクはまだ何かを貰って、そんな顔になった事は多分ない。
キャラメル貰ったってそんな顔にならない。
だってキャラメルは、当たり前にママから貰えるモノだから。
それからその人は、ママの手を優しく握って「ゆっくり、ゆっくり」って笑って言った。
三人で一列に手をつないで、本当にゆっくりと、一つずつ、一つずつ階段を昇ってると、ボクはだんだんその人が、悪い人ではなく思えて来る。
ショッカーが、青レンジャーに変身したみたいにさ。




