夜空
「ルルーシュ」
「わっ!!」
ベッドに乗っかって窓の外を見ていたルルーシュは驚きのあまりひっくり返った。
思わず噴き出したら、ルルーシュは恨めしそうに僕を見た。
「なんかっ、怪我、だ、大丈夫そうだねっ」
ふてくされて言いながらも、気にしているのだろう。ちらちらと腹部を見ていた。
「僕はそんなにか弱くないですから。それに魔獣の血も通ってますしね」
ふっと笑ってルルーシュの隣に座る。
視線に気付くと、ルルーシュは僕を見上げていた。首をかしげて言葉を促す。
「仲直りした?大丈夫?」
「えぇ、もうしました」
「ロア、ぜんぶ話せた?」
びっくりした。
ルルーシュは、意外と聡い子なのかもしれない。
「……話しました」
「じゃあ、よかった」
あまりにも可愛らしく微笑むから、僕はルルーシュを引き寄せた。
「……ロア?」
「なんか、こうしたくなって……」
少しの間そうしてから離れ、ふと思いついたことを言った。
「外に出てみますか?」
「え?」
「もう遅いから遠くへは行けないけど、ここの辺りならうろつける」
「い、いいの?」
僕は笑顔で答えた。
「もちろん」
肌寒い中、手を繋いで表に出た。
星がたくさん散らばって、明日は晴れだと知らされる。
「すごいねロア! 空がキラキラして、とても綺麗!」
ルルーシュは興奮してか、僕の手を離して先へ先へ行った。
「ルーカスと外へ出た時は明るかったんですか?」
「うん、でも空は曇ってたから、なんだかもったいないなって思って、もう一度見てみたかったの!」
ルルーシュの黒い髪が、闇に溶け込む。
月明かりがそれを照らして時折輝いた。
「君の髪の方が、綺麗ですよ」
「ロ、ロア……」
照れてうつむくルルーシュは、過去を呼び戻した。
その色もまぶしく輝いた。
純粋で率直な言葉をくれた。
その子は花よりも美しくて。
ティラナと、重なるルルーシュ。
そっくりのその顔は、ティラナとよく重なった。
けれど最近は違うかもしれないと思いはじめた。
「ルルーシュは黒髪だから、月とよく似合う」
「私はロアの髪色も好き! ロアの髪、銀色でキラキラしてるの。そらにあるのと同じ」
「それは星と言うんですよ」
「じゃあ、私は月で、ロアが星っ! 夜にロアといることが多いから、私たちみたいだね?」
本当に可愛らしく笑うんだ。
「……これからも、そばにいてくれますか?」
「ロアのそばにしか私はいないよ」
だから、また抱きしめてしまう。
夜の沈黙は気持ちがいい。
夜に駆けることに慣れたからか、僕はいつのまにか夜を好いていた。
「ロア、いい匂いする」
「ほんとですか?」
「ロアの匂い、落ち着くんだ」
すりっとルルーシュは腕の中で動いた。
「あのね、ロアは汚くないよ」
僕は驚いてルルーシュから離れた。
なぜそんなことを?
「魔獣の血を引いてるからかな。私少し人のことわかるの。でも強い思いじゃないと気付けない。ロア、私を触る時よく思うでしょ?つたわるの」
「ルルーシュ……」
「でもそんなことない。ロアは綺麗。ロアの心もとても綺麗。私そんなロアが大好き。ロアは綺麗だから私にかまってくれる。ほんとに汚れてるなら、私のことなんて目的のことでしか使わないし、ほっとくもん」
「……僕といて、楽しいですか?」
「とても楽しいよ!」
「いやじゃない?こんな僕を、いやにならない?」
「ならない。ぜんぶ知ってる。ロアの強い感情は、ぜんぶ伝わった。けれどロアは苦しんでる。戦ってるロアをどうして嫌いになるの?私、いい人であろうとするロアが嫌い。ロアはいい人なのに、悪いって決めつけていい人になろうとしてるのがいや。だってロアは綺麗……っ」
腹の傷が痛むけれど、無視した。
最近涙腺がゆるいのかな。
そんなことには気付かれたくなくて、ルルーシュをまた抱き寄せた。
「ロア、私ね、ロアが好き」
「……」
「ロアが夜の仕事で帰ってきて私に触らないの、寂しいよ。私はなんのためにいるの?」
「ルルーシュ、僕が夜帰ってきたあとの血の臭い、分かるでしょう」
「うん……」
「洗ってもとれないほど、僕は自分を汚して帰るんだ。君にはせめてそのときぐらい綺麗であってほしい」
「私はロアの将来のお嫁さんでしょ?そんな時こそ、不安だって思ってる時こそ、一緒にいたいの。大変だったねって、大丈夫だよって、私がいるよって、言いたい。少しでも一人じゃないって思ってくれたら、嬉しい」
「……っ」
「ロアが、大好きだから」
いいのだろうか。
また、人を、好きになることは。
ぼくに許される?
ルルーシュはティラナとは違う。
それは初めこそ比べたものの、今ではそう思えた。
姿は重ねてしまうかもしれない。
けれど、ルルーシュを一人の子として、きちんと見ていた。
気付かない、フリをしていた。
今まで避けていたことが多かったのは、認めたくなかったんだ。
「最近、僕は怯えてばかりです。また、誰かを失うかもしれない。はなれていくかもしれない。……自分の手で、傷つけてしまうかもしれない。けれど、そうでないことも分かった」
「そうだね……」
そう、ルルーシュに少しずつ、惹かれているのだ。
「僕は君を、守ります。誓うよ」
「うん……」
いつか、伝えれるといい。
まだ恐れている。
失うことの辛さ、
裏切られることの悲しさ、
傷つけることの恐怖。
本当に強くなった時こそ、伝えればいい。
それまではまだ言わない。
「そばにいるよ、ずっと」
ルルーシュの言葉は
僕を癒した。




