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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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同じ空間での距離感

ルルーシュの荷物はかなり少なかった。衣服が数着だけで、小さな袋でじゅうぶんの量。その袋をルルーシュから取り、ルルーシュと逆側の手に持ち帰る。

「ありがとう……」

お礼を言ったルルーシュににこりと笑顔でこたえ、自室に歩みを進める。誰かに会うと面倒なので人を避けつつ動いた。

「君は、外へ出た事はありますか?」

「……ルーカス様にここへ連れて来てもらった時に……一度」

やっぱり。

「外へ出てみたいですか?」

「出てみたいと思った事はあるけれど、私にはそんなの、駄目だから」

「それは違うんじゃないかな」

僕が立ち止まるとルルーシュも立ち止まり、戸惑いながら見上げてくる。

「僕と婚約をさせられた訳は、知っていますか?」

「はい……。私と同じ魔獣の血を引いているから、と……」

「けれど僕は外へ沢山出ます。出ては行けないなんて、ここの人達に一度も言われた事はないです。君もまた同じ。外へ、出たいですか?」

「……出て、空を眺めたい」

「……え?」

「空を飽きるまで眺めたい……」

どこまで僕を堕とすのだろう。ティラナを断ち切ったはずの心を、どこまで堕とすのだろう。

『私はこの世界にあるものの中で一番空が好き』

ティラナの言葉が頭を巡る。

黙りこくった僕に不安になったのか、ルルーシュが腕に触れた。

「……そうだね。空は綺麗だ。今度外へ連れて行ってあげよう」

「ありがとう……」

ほわりと微笑んだルルーシュを見ていられなくて。ぎこちなく地面に目を落としてしまう。

「さぁ、行こうか」




なんで、よりによって一番会いたくない人に出会うんだろう。

「……な、な、な……」

「あぁ、もういいから。ほらはやくどいて」

きょどきょどしてルルーシュを指差すグラルダーにため息をつく。

「だだだだ、だけどよ……。その子、だれだ?な、なんでそんな……」

「後だ。今は黙っていてくれ」

そう言って目を見開いたグラルダーの隣を通り過ぎる。

「後で部屋行くからな!!!」

後ろから叫び声が聞こえたが、それを無視して自室に行く。

部屋について扉を開け、ルルーシュを先に中へ通す。ルルーシュは中へ入ると不安気にあたりを見渡した。

「そこのクローゼットに君の荷物を入れますね。服も外へ出た時に少し買いましょう。それと……」

僕はルルーシュと同じ目線になるよう腰をかがめた。

「僕はきっと夜にいない事が多い。一人の時間が沢山あると思います。だから寂しくならない様に僕の仲間をこれから紹介しましょう。怖がらなくても気さくな人達ばかりだ。大丈夫ですよ」


ドンドンドンドン!!!!


「そう言っているうちに一人やってきましたね」

「おい! ロア!! 開けろ! 詳しく教え、ろっ!?」

ドンドンと鳴り響く扉を思いきり開くと、グラルダーが倒れこんできた。派手にこけたグラルダーは短い悲鳴を漏らした。

「そんなに暴れられたらルルーシュが怯えるだろう。もっと静かにしてくれ」

「で、この子はなんだ!?どうしてここにいる!」

起き上がるなりなんなりまくし立てたグラルダーを手で制し黙らせ、ルルーシュの肩に手を置いた。

「ルルーシュ・フォンデュ。僕の婚約者だよ」

「………………え!?」

危ない危ない。あごが落ちそうだ。パクパクと口を開け閉めさせるグラルダーは滑稽で。思わずにやついてしまう。

「こ?こん?婚約者っ!?」

しばらくの間、僕の部屋には叫び声が響き渡った。多分廊下まで筒抜けだな、これ。

「何?婚約者って何!?お前に恋人がいたなんて聞いてないっ!!」

「ルーカスがさっき言ったんだ」

声色の変わった僕にグラルダーは顔を曇らせた。

「……何があった」

「ルルーシュの前でこんな話ししていいのか分からないけど……仕方ないね」

ため息をついた後、僕はルーカスとの会話を話した。ただしデスノアの一員となったことは伏せる。グラルダーの事だ、ルーカスに殴り込みに行ってもおかしくはない。それに心配しすぎて毎日毎日うっとおしそうだ。


「……あいつ、どんだけなめた真似しやがる……」

全てを聞き終わったグラルダーは怒りのあまり拳を震えさせていた。

「人間として見損なうぜ。俺らを何だと思ってるんだ!」

「人としては見てないだろうね。使えるものを可愛がるのがルーカスだ」

「ふざけんな……! 勝手にもほどがある!」

「もうどうにもできない。現実と向き合うのが一番だ。だから僕はこれからルルーシュを連れ歩くことにする。もちろん婚約を隠したりもしないつもりだ」

「こんな馬鹿げた事……従う義理はないだろ」

「従うしかないんだよ。それに、ルーカスは多分恐ろしい奴だ。反抗したら僕もこの子もどうなるか分からない」

そう、ルーカスはミスター・スカイウォーナよりも上の地位。知的なだけでなく腕前も確かだろう。

「この事は婚約しという事しか皆には言わないでくれ。それこそ皆がルーカスに何かしかねない」

「俺は何でもできるぞ」

「やめろ。殺されてもおかしくないんだぞ」

「かまわねぇよ!」

「やめろと言った」

僕は半ば声を張って言った。

「仲間が何かされては僕がルーカスに何かしかねない」

「……分かったよ」

ふとルルーシュを見ると、不安のせいか眉にシワが寄っている。胸の前で手を組んで地面を見つめていた。今のやり取りを喧嘩とでも思っているのかもしれない。

「ルルーシュ、こいつはグラルダーと言って僕の下部です」

「だれが下部だ! そんな事ねぇよ、ルルーシュちゃん。俺はこいつの良き親友だ」

「僕は親友なんて認めてないけどね」

言い合う僕らに少しだけルルーシュが頬を緩めた。そんなルルーシュをグラルダーが見つめた。

「……そっくりだな……」

ほぼ無意識に言ったのだろう。僕に気づかう様子もなくぽけっとルルーシュを見ている。気を散らそうと話を持ちかけてみると、グラルダーは何もなかった様にしゃべった。

その後何回か会話した後、仲間達にルルーシュを紹介する事になった。行こうかと言った時のルルーシュはとても緊張した顔をしていて、なにを言ってもそれが解ける事はなかった。少しでも緊張が解けやしないかと、手を差し出す。

「大丈夫ですよ。ほら、手を」

おずおずと差し出してきたルルーシュの手を優しく握る。その手は小さく、そしてとても冷たかった。





「ルルーシュちゃん、本当可愛いわよねぇぇぇぇ」

「おいリジュア。女に色目使ってんじゃねぇよ」

「だぁって可愛いんだものー!」

リジュアが僕の背に隠れるルルーシュを見てとろけそうな顔をしていた。

「なんでロアなの?ロアってば誰にも優しい紳士みたいな奴だから辛いわよ?やめときなさい。そのかわりあたしがもらってあげるー」

「ルルーシュ、無視していいですからね」

「まぁ、ひどいわね! というか思ったんだけど、なんであんた敬語なわけ?結婚するくせに敬語使ってるとか変じゃない」

痛いところを突かれた僕はしばし返答に迷った。

「僕の性格上仕方ないですよ」

苦し紛れの言い訳だったがリジュアは頷いてくれた。

「そうよね。ロアは言葉まで紳士だったわね」

今僕らはかなりの人数のデトランに囲まれている。食堂は人が多くていいだろうと思ったがここまで集まるとは予想外だ。ルルーシュがびくびくしてしまっている。

「まぁ、おしあわせにね」

「ありがとうございます。仲良くしてやって下さい」

「もちろん」

ルルーシュに興味を持って話しかけてきたのはリジュアで何人目だろうか。次から次へと降りかかってくる質問に僕もげんなりしていた。巻き込まれたグラルダーも辛そうだ。


「さて、もうそろそろ戻りましょうか」

「疲れたぜ〜」

隣でグラルダーが呻くのを苦笑して見ながら自室に歩みを進めた。

「俺ちょっと寝るわ。久々に任務全くねぇんだ」

「分かった。お疲れ様」

「おう、じゃあな」

グラルダーは別れを告げた後僕をじっと見た。首をかしげて様子を伺うが、首を降り行ってしまう。ルルーシュが居ると聞けない事だったのだろうか。






「眠くないですか?」

「少しだけ……」

「じゃあ僕も寝ようかな」

うーんと伸びをしてタンスに行き、予備用の毛布を引っ張り出す。

「ベッドで寝て下さいね。僕は床で寝ます」

「えっ?」

ルルーシュの驚いた声に振り返ると、決まり悪そうに視線をそらした。

「……い、いいのですか?」

「ん?」

「いや、だってその……」

赤面するルルーシュを見てあぁ、と気付く。ルーカスの子作りの話の事か。

「僕はそんなつもりありませんよ。ルーカスの言った事は気にしなくていい。だから安心してください」

「……」

ほっとした様な顔をするルルーシュに僕は微笑んだ。そして少し離れたところに寝転がる。


僕はルルーシュに一定の距離感を保っていた。ルルーシュから近づいて来るのに遠ざけたりはしないが、決して僕からは近寄らない。

それが僕なりの気づかいだった。

ルルーシュの浅い寝息が聞こえ、僕もまぶたが重くなってきた。気付けば僕は意識を手放していた。

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