第19話:文化祭はポイントが足りない?①
【未来生存率:4%】
【現在残高:10ポイント】
「はい、静かに。ホームルームを始めます」
学級委員長の高瀬ミナトの声が教室に響く。
黒板の中央には、大きく『星降祭の出し物について』と書かれていた。
「もうすぐ秋の星降祭(文化祭)です。我がクラスの出し物ですが、公平を期して全員の事前アンケートと投票で決めたいと思います。候補は『お化け屋敷』『演劇』『メイド喫茶』の三つに絞られました。それでは開票します」
サキは頬肘をつきながら、生ごみを見るような目で黒板を見つめていた。
お願いだから……
お願いだからメイド喫茶だけは勘弁して。
人前でフリフリの服を着て萌え萌えキュンとか、死んでも嫌なんだけど……
「結果が出ました。……1位、メイド喫茶」
「……異議あり!!」
サキは椅子を激しくガタッと鳴らして立ち上がった。
「え、サキっち!?」
クラス中がサキに注目する。
隣の蛍子が、やめときな!という視線送ってくる。
「サキさん、発言を認めましょう」
「効率とコストパフォーマンスを考えたら、既製品のアイスを卸して教室でそのまま販売するのが一番利益が出ます。準備の手間もゼロです」
「却下ですね」
「早っ!!」
ミナトは眼鏡のブリッジをスッと押し上げた。
「文化祭とは、みんなで協力して何かを成すことに意味がある、と規約にも書いてあります。確かにサキさんの言う効率化やコスト面も大事ですが、私はこのクラスみんなで決めたメイド喫茶を、なんとか成功させる方向でやり切りたいと思います。サキさん、一緒に頑張りませんか?」
まっすぐ瞳をサキへと向けた。
「……はい。頑張ります……」
正論の壁に押し潰され、サキは力尽きて席に沈んだ。
「え、えっと……みんな仲良く準備してくださいねー。問題だけは起こさないように……問題さえなければ……」
担任のはるこ先生が、教室の隅で頼りなさそうにモジモジしている。
「じゃあ、私はそろそろ(保健室に)──」
そっとリアドアから脱走しようとした瞬間、
「はるこ先生、まだホームルーム終わっていません」
ミナトの冷徹な声が刺さった。
「……あ。じゃあ……しゅ、出席でもとろうかな」
脱走に失敗した担任をスルーし、クラスの準備が本格的に始まった。
*
──数日後、帰り道。
文化祭の買い出しや準備で遅くなり、すっかり夜になっていた。
「ハァ……文化祭もいいんだけど、ポい活する時間が取れないのが本気で困るわ」
サキは端末の悲惨な残高『150ポイント』を見つめて溜息をつく。
「星降祭楽しみですね〜! あと3週間ですね!」
ヨルが楽しそうにカバンを揺らす。
「文化祭ってさ、どう転んだって神イベ確定だからな〜」
蛍子も腕を組んで頷いた。
「私はメイド服マジ勘弁なんだけど……」
「ええ〜!? サキちゃん可愛いから似合いますよ絶対!」
「なっ、嫌なものは嫌なの!」
「あ、また恥ずかしいのか。かわいいとこあるじゃん〜」
「うるさい!」
キャッキャと歩いていると、校門の掲示板に巨大なポスターが貼られているのが目に入った。
【星降祭!後夜祭ライブ出演バンド募集!】
星降祭のグランドフィナーレライブに君たちも参戦せよ!!
「おおお!! サキっち!! これやろ!! これ!」
蛍子がポスターをバンバン叩く。
「は? バンド!?」
「楽しそうです! サキちゃん、いつもヘッドホンで音楽聴いてますもんね!」
「我々の青い炎をぶつけようぜ!!」
「うーん……」
サキは足を止め、空を見上げた。
ライブハウス。
狭い室内。
私が未来の部屋に置いてきた、黒いギター……
音楽、バンド。
それは紛れもなくサキのルーツだった。
このポい活地獄を生き延び、報酬のポイントを貯めて向かう予定の『1992年のシアトル』。
その目的だって、そこにある。
「……やってみようか」
「よし!! ぶちかまそうぜ!!」
【バンド編成】
サキ:ギター&ボーカル
蛍子:ギター
ヨル:キーボード
ドラム・ベースは当日、ギター部の部員が即興で合わせてくれる手はずになった。
さっそくサキの部屋で練習開始。
「で、何の曲やる?? とりあえずドラクエのテーマとか?」
「もしよければ……私が昔、未来で作った曲を元に作り直したのがあるんだけど」
サキは引き出しの奥から、古びたカセットテープを取り出した。
ラベルには乱暴な字で『BLUE』と書き殴られている。
「JIMI、再生して」
スピーカーから、重厚で歪んだギターリフと、腹に響くベースの重低音が溢れ出した。
ーーー♪
「かっこいい!! これで行きましょう!」
「サキっち、ギター弾きながら歌って! 合わせるよ!」
「よし! じゃあ──」
──ジャジャジャーン!!!
それっぽく一曲弾き終えた。
「一発で完璧じゃね!?」
「いや……どうだろ……」
ピロン♪
『JIMI採点★
・音程:0点
・リズム:5点
・うるささ:100点
【総合点:15点】だよ♪』
「は!? まじ!?」
「低(笑)! 逆に味があるんじゃない?」
「き、気持ちは100点ですよ! ただ……出場資格は確か65点以上ですね……」
「聞き忘れてたけど、二人は楽器の経験は?」
サキが、ギターを置きながら言った。
「え? 当たり前にないけど?」
「私はピアノを幼少期に少しだけ……」
「はぁ、、私もギターは趣味程度……」
「ん〜解散!! 諦めて寝よう!!」
蛍子が即座にその場に寝転がると、どこからかアイマスクと布団を取り出して眠り始めた。
「諦めるの早っ!! 楽器もレンタルしたんだから、もう少し頑張ろうよ!」
えーといいながら、アイマスクを外しノソノソと起きてきた。
「んーあと文化祭まで何日あるっけ?」
「15日ですね〜!」
「本気で練習すればまだ間に合う…はず!!」
「しゃあない、やるかぁ。あ、何か良い未来道具ないかな〜ギターで人々を洗脳して戦争やめさせるような奴とかならあるかも」
「やめろ。」
「え〜マジロックなんだけどな〜」
「はあ、JIMI、なんかいい練習方法ない?」
『サキちゃん朗報★ 【精神と時の部屋】を解放したよぉ! 1時間で1年分の練習ができるよ! 1回の利用料、20000ポイント★』
「高すぎ!! それになんか怖いよ!」
『じゃあ……【ちょっとした気まぐれと暇な時にでも頑張る部屋】にする? これなら1時間で2.5時間分の練習ができるよ! 1回100ポイント★』
「気まぐれと暇な時…」
「蛍子、ヨル。私、3人分のポイントをできる限り稼いでくるから……このちょっとアレな部屋で頑張ってくれる?」
「オラ! ワックワクしてきたぞ!」
「頑張りますね!!」
「私もポい活の合間で頑張るよ」
『では、サキちゃんには【善行フルコース】をエントリーしておいたよ★ 今日から1週間、毎日朝5時までポい活、そこから登校まで3時間のバンド練をみっちり頑張ってネ♪ きっとみんながカリキュラムをクリアすれば曲にはなるよ★』
「よっしゃー! 弾きまくるぜ! 」
蛍子はギターを肩に担ぎ、小さく拳を握った。
「サキちゃんハードワークですが大丈夫ですか?文化祭の前に過労で死ぬんじゃ…」
「学校で寝れば何とかなる…たぶん。その代わりやるなら絶対に成功させるよ」
その一言に、蛍子はニヤリと笑う。
「よっしゃー!やっとバンドマンらしくなってきたーー!!」
「バンドマンって学校で寝るんですか??」
「え?違うの?」
「……地獄かよ」
*
学校の誰もいない廊下。
文化祭の装飾が揺れる。
その影で、
黒い靄がゆっくりと蠢いた。
誰にも気づかれることなく。
【文化祭まで、あと15日】
(第19話・完)




