第1話 後編:世界を救ってもポイントが足りない
蛍子は全速力で
校舎の中を、渡り廊下を、走り抜けた。
「 プール!プールで培養!世界一!大きいプリン作ろう♪ ね! ね! 作ろう♪ ね!ね! 」
謎の歌を歌いながら、放課後のプールへと、その全速力のまま、プリンをバケツごと投げ入れた。
「やめろ!!!」
私が手を伸ばすが届くはずもなく。
「とりゃ!」
──!!
一瞬だった。
二十五メートルプールが、またたく間に不透明な黄色いカスタードの海へと完全汚染。
「うおお!!!巨大プリン!!キターーーー!!!」
「なにこれ…」
「ひええええええええ!! プールの水が! 水が全部プリンになっちゃっいましたあぁ!!」
隣で鼓膜を引き裂く絶叫をあげたのはヨル。
普段は人間を装っているが、中身はメンタル豆腐の超ビビリ半妖なのだった。
ピコピコピピーン♪
『サキちゃんサキちゃん! 公共物汚染のアラートを検知〜。このエリアの管理AIが激おこで、サキちゃんのダミー市民口座から150ポイント引かれちゃった! 時空制御のハッキングエネルギーが足りなくなるよぉ!』
私が未来から持ち込んだ、首元のヘッドホン型のクソ軽快なサポートAI「JIMI」が鳴り響く。
「は?マイナス150!?」
なんで私の口座なのよ!
私の残高あと3ポイントだったのに、謎のプリン買わされた上に破産したんだけど!?
だが、事態は容赦なくさらに最悪へ加速する。
プリンの汚染浸食により、カラメルとイエローのコントラストに染められた校舎の地面がメキメキと崩壊しはじめたのだ。
「なんか、様子おかしくない?」
プール一面のプリンの表面ががボコボコと脈打ち、
黄色い腕が一本、
また一本と生え、
やがて校舎より巨大な人型へと変貌しつつあった。
全身がぷるぷる震え、ドロドロと融け出している。
ーープリンの巨神兵の、爆誕である。
プールから伸びる巨大な片手が、校舎をなぎ倒し、咆哮する。
ヴォォォオオオオオオォォオ!!!!
「うはは!なにこのプリン!!数日で大地を焼き払っちゃうやつじゃん(笑)!!かっこよ!!」
「あっ…あ……」
「ヨル!?」
「あ……私の、私の『飲むカツサンド』自販機が……」
その崩壊により、ヨルが毎日命をかけて購買で並んでいた、校内唯一のオアシス──
『飲むカツサンド(いちごオレ味)』専用自販機が、がれきに埋もれ、地割れに巻き込まれてバキバキ真っ二つにへし折れた。
「ヨル! 待て! ダメだ!」
「嘘……嘘……嘘……嘘……嘘……嘘でしょおぉぉぉぉぉ!!(ガチ絶望)」
バチバチバチチチチチッッッ!!!
場の空気が一瞬にして彼女の妖気を纏いヒリヒリと震え始める。
ヨルの黒髪の隙間で、何やら文字が書き殴ってある「お札型ピアス」が過負荷で爆発寸前の黒い火花を散らす!
お気に入り『飲むカツサンド』の完全破壊により、精神メーターが限界突破。
頭頂部からモフモフの『ねこ耳』がピンっと直立し、スカートを消し飛ばす勢いで『六本の尻尾』がバサァッと花開いた!
「ダメだ!! ヨル!! 落ち着け!」
私の声が今の彼女に届くはずもなく、彼女は片手を突き出すと叫んだ。
「許さない……絶対に許しません!私の唯一の楽しみを壊すプリンなんか、空間ごと消え失せろぉぉぉぉぉ!!」
ヨルの限界突破のサイコキネシスが炸裂した。
出力調整をド忘れした半妖の力は、プリン巨神兵どころか「空間の重力概念」を丸ごと引きちぎった!
ゴゴゴゴゴ──。
プリン巨神兵のプルプルの胴体は簡単に一撃で引きちぎられ 、ドロドロと校舎を巻き込み崩れ去っていく。
地鳴りが響き、私たちの足元にある三階建ての校舎が、基礎ごとメキメキ浮上。
重力を完全に失って、ゆっくりとエリア0012の空へとラピュタし始めたのだ。
「うわああぁ助けてくれ!」
「ぎゃあああーーどうなってるの!」
窓の外では、重力消失で天井に頭をぶつけて浮遊している生徒たちの阿鼻叫喚。
「すごーい! 学校が浮いた! 私、空中浮遊部〜(ニコニコ)」
「そんな部活はない!」
「じゃあ一緒に作ろうよ。サキっち部長になっていいからさ」
「絶対嫌だ!!」
そんなカオスとしかいいようのない空間を楽しそうに犬かきで空中を泳ぐすべての元凶の宇宙人と、発狂して校舎を破壊する半妖…
はぁ…
「いい加減大人しくしてて……! ヨルはもう出力をゼロにして!!」
「ああ。もう滅茶苦茶だ。」
『危険レベル一定域を超えています。災害認定され強制執行が発動される可能性が上昇しています(即・あの世行き)』
「強制執行!?そんなんあり!?」
JIMIの画面が真っ赤な血の色で激しく点滅。
「JIMI待て! 今すぐ『空間重力リセット機能』に課金!!」
『残高不足でロック中〜。あと30ポイント足りないよぉ』
「ふざけるな!!借金は?」
『んー。もうすでにマイナスだから、信用取引はできないよ★』
「あーもう!!!」
私は無重力の廊下を爆速で壁キック移動!
フワフワ浮いてるゴミをマッハでポケットにねじ込み(分別美化)。
天井に激突しかけている後輩の足首を掴んで引きずり下ろし(緊急救助)。
浮遊するチョークを全弾キャッチ!(落とし物回収)。
だが、ツメが甘かった。無重力の空間では、物理的にポい活(善行)のスピードが追いつかない!
「ここまで、か……」
指先が次のゴミに届かない。
強制執行の黒い影が空間を浸食し始めた、その瞬間。
『サキちゃん? GAME OVER?』
………。
……!
「あれれ? サキちゃん泣いてる?」
「え……?」
「ねえ、それ手伝おっか?」
無重力を平然とクロールで泳いできた蛍子が、地面に蹲った私の前にピトッと着地した。
蛍子はいつもの気の抜けた笑顔のまま、私のヘッドホンの画面を「トントン」と指先で軽く叩いた。
まるで、バグった古いテレビを直すかのような雑さで。
『ピッ……ピピピピピピピピピピピピ。ポイントが反映されました』
【現在残高:9,999,999,999,999,999(九千九百九十九兆)ポイント】
「……は????? 兆?」
国家予算すら遥かに超越した狂ったデジタル数字を見た瞬間、私の脳細胞が超高速で弾けた。
これだけあれば、世界を何回か買い占めてもお釣りがくる! はず。
「蛍子!ナイス!!」
「JIMI! 残高から【500ポイント】緊急チャージ! 『空間重力リセット機能』および『エリア全域・事象復元』を即時起動!!」
『はーい、500ポイント消費でハッキング出力限界破ぁぁ!!』
「あーもう!なんでもいい!!いけえええええ!!!!!」
精度もバグも力技でねじ伏せた次の瞬間──。
──ドスン!!!
ものすごい質量と衝撃と共に、校舎が元の地面にミリ単位の狂いもなく着地。
プールも一瞬でただの水道水に完全リセット。
折れた自販機も新品に。
全ては何もなかったかのような静けさで元通りになった。
「ふぅ……ハァ……。
見たか、これが未来人の底力よ……」
私は床にへたり込みながら、額の汗を拭ってニヤリと笑った。
500ポイントなんて、今の私にとってはハナクソみたいな誤差だ。
手元にはまだ九千九百九十九兆ポイント近くが残っている。
「完全勝利だ。」
完全無欠の大富豪だ。
これでいつでも過去へ跳べる。
*
「やっぱり重労働の後は、マックのポテトが一番だよね〜」
放課後のマクドナルド。
蛍子はいつも通りポテトを口に運んでいる。
「もう絶対自販機でジュース買わない……」
「でもそれだと、自販機限定の飲むカツサンド(いちごオレ味)も買えなくなるよ?」
「はっ! それもダメです……うー」
ヨルは隣で涙目になり、必死に破れたスカートを押さえていた。
ふと、店内のテレビから流れる臨時ニュースが目に留まる。
『──続いてのニュースです。
本日夕方、エリア0012内において、謎の組織による「無差別プリン型特殊兵器」を用いたゲリラ散布計画が未然に防がれました。
専門家は「意味不明な処分方法だが世界は救われた」とコメントしており──』
テレビの音声を遮るように、私のヘッドホンからJIMIのさらに軽い声が響いた。
『サキちゃんおめでとう! プリン大暴走によるエリア崩壊の危機を未然に防ぎました! 見事に世界を救ったね〜!』
「ふふん、まあね。これで私のいた未来の生存率も、グンと上がったでしょ?」
私は勝ち誇った顔で、現在の「未来のステータス」を表示させた。
【未来生存率:3%】
「……って、1ミリも上がってないんだけど!!」
『今回のプリン程度の野良バグを処理しても未来の破滅確定ルートにはさほど影響ないよ♪ 残念』
「そんなのあんまりじゃん!!」
私は大声を出した。
だが、
そう。
私には莫大な残高があるのだ。
この九千九百九十九兆ポイントを全部使って、タイムリープの手続きに回して──。
(……ねえJIMI。このポイント全部使うから、今すぐ跳ばせて! 流石にいけるよね? 兆だよ兆)
『あ、兆あれば行けるっちゃいけるけど、サキちゃんに残念なお知らせだよ〜★さっき蛍子ちゃんが不正増殖させたポイントだけど、たった今、エリア管理AIの自動セキュリティに検知されて**「有効期限切れ(失効)」**になっちゃった。現在の残高は【0ポイント】でーす♪』
「……え?」
『明日もまた頑張ってポい活(善行)して、未来の生存率を上げてね♪』
ピロロン♪
【MISSION COMPLETE】
・プリン型特殊兵器の無害化:成功
・エリア0012崩壊回避:成功
【未来生存率:3%】
【現在残高:0ポイント】
【評価】
B+
【評価コメント】
プリンをプールで処理するという前代未聞の解決方法でした。
脳裏が真っ白になる。
九千九百九十九兆ポイントが、一瞬で消えた。
あれも、これも買えたし、もうこの極貧生活ともおさらばして自由になれたはずなのに。
私がガタガタと震えながら静かに机に突っ伏した、その時。
「ねえねえ! 聞いてる?!! ねえってば!!!!」
「な、なによ……」
「やっぱさ!! ポテトにはさ! キンッキンッに冷えたダイエットコーラ一択だよね?!! そうだよね!? さっきミラクルC決めたし、ご褒美にサキちゃんの奢りでプレミアムドリンクバー追加していい?! サキちゃんもヨルもいるよねダイエットコーラ!!!?」
「えっ、ダイエットコーラ嫌い。私いちごオレいい……」
目の前で勝手に盛り上がる宇宙人と半妖。
プレミアムドリンクバー、三人分で60ポイント。今の私の残高は、完全なるゼロ。
「……地獄かよ」
エリア0012の空では、今日も巨大な監視の目が、私たちのバグった日常を呑気に見下ろしていた。
【未来生存率:3%】
【現在残高:-60ポイント】
(第1話・完)
第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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