第1話 前編:世界を救ってもポイントが足りない
はじめまして、N沢です。
数ある作品の中から見つけていただきありがとうございます。クスッと笑えるSFコメディを目指して書いています。楽しんでいただけたら幸いです。
【未来生存率:3%】
「マックポテトを発明した人はきっと天国に行けたよね。だってこんなに人々を幸せにしてるんだから。間違いない」
それは、聞き慣れた声だった。
振り返る。
そこにはクラスメイトであり、いつの間にか私の極貧生活に居座っている宇宙人──蛍子がいつものように目をキラキラさせながら立っていた。
ーーマックポテトを食べながら。
「何よ……」
「何って聞いちゃう? 聞いちゃう? サキちゃん」
「いや、大丈夫。今のナシ」
「いや、大丈夫じゃないよ! マックのポテトのすごいところ10000個くらい話せるよ? 興味わいてきたでしょ?」
「いや、マジ大丈夫」
「その1、赤いパッケージなとこ──」
「いや、そこかよ!」
「ポテトの塩加減がとか! カリカリが! 柔らかなが〜いやつが当たりとか! あるでしょ?」
「あ! ノってきたね? 」
「今日もノって来ちゃったね? ユー」
「いや、! ユーとか言うな。それに、今、私は非常に疲れてるんだ」
「それは、いつもだよね★」
「……(言い返せない)」
そう。
なんで、私がこんな宇宙人とどうでもいいマックのフライドポテトの話をしているのかというと──。
話せば少し長くなる。
これは、
私の、
いや、
私たちの。
とても大切な物語。
多分ずっと忘れない。
そんな話。
*
私の名前はサキ。
未来から来た未来人だ。
私はSNSで見つけた【未経験歓迎! 時空リープテスター募集】とかいう激怪バイトに応募した。
結果、面接会場が大爆発四散。
気づけばこの2065年のここエリア0012にいた。
我ながら意味が分からない。
いや、本当に意味が分からない。
そして、未来の世界は滅亡する予定らしい。
しかも、
その世界が壊れる原因はこの時代にあるらしい。
未来の破滅を防ぐため、この街に滞在している。
……たぶん。
詳しいことは私も知らない。
下請けだから。
ただ一つだけ分かっていることがある。
この無茶苦茶な任務を完遂すれば、
『1日だけ自由に過去へタイムリープできる権利』
がもらえる契約になっている。
私にはどうしても過去でやらなければならないことがある。
というか、
それが目的だ。
世界救済は仕事。
そっちが私の人生だ。
なのに、
現実は非情である。
そして何より、この時代の人々は少し変だ。
毎日頭の上でピコピコ鳴っている『数値』にも、空に浮かぶ巨大な監視の目玉にも誰も疑問を持たない。
みんな当たり前のような顔をして暮らしている。
この世界の通貨でもあるその『ポイント』を学生である私が稼ぐ唯一の方法。
それは、システムに評価される【善行】を積むこと。
だから私は今日も、この時代のこの街で善行を積む。
お年寄りの荷物を運び、
ゴミを拾い、
道に迷ったと言うならば目的地までご案内。
元々サバサバした性格の私が、
本心をゴリゴリに押し殺して「街の親切な聖人君子」を演じ、血反吐を吐く思いで貯めた今日の残高は──
【現在残高:3ポイント】
「終わってる……」
…。
私は、学校の自動販売機でなけなしのポイントで炭酸水を買おうとしていたことを思い出した。
スマホをかざそうと振り返ると、蛍子が言った。
「ねえねえサキちゃん。プリンってさ、飲み物?」
「え? まあ……飲み物ではないかな」
「でもさ、この自販機のジュース、ボタンが全部『プリン味』って書いてあるじゃんね!」
「はい??」
先程炭酸水を買おうとしていた自販機のラインナップ全てがプリン味のジュースに置換されていた。
隣の自販機も、その隣の自販機も全てがプリン味のジュースになっている。
「ええ!?さっきまで炭酸水だったよね…」
「ウケる、押してみよ!」
蛍子は心から嬉しそうに、綺麗に並んだプリン味の自販機群を写真に撮りながら言った。
「プリン味!? ちょっと待て──!!」
私の絶叫など、あの飽きっぽくてマイペースな蛍子の指先には届かない。
「ぽちっとな〜!!」
蛍子はボタンを全力で押した。
ピッ、ガコン
ーーーーベチョォッ!!!
「…ベチョ?」
『マイドアリ〜』
「え?なにこれ。」
なけなしの2ポイントを吸い取った取り出し口から、文字通り『這い出てきた』のは、缶ですらなかった。
ドロドロと自立して蠢く、推定質量5キロの黄色いプリンの怪物(生命体)。
「あ! サキちゃん、蛍子ちゃん!」
声の主は、もう一人の私の厄介事の生みの親であるヨルだった。
「今さ! サキちっちのおごりでジュース飲むんだ。ヨルちっちも飲むよね?」
「え? ジュース!?」
「そそ。プリン味のジュースって、レアじゃん?」
「いや、まて、これ何?」
「えっ!?なっなっなっなんです……これ?? 黄色くて気持ち悪いぃ」
ギィイギイィイイ──。
足元のプリン味のジュースとやらは奇声を発しながら、目をキラキラさせて、ぷるぷると蠢いている。
……気持ち悪い。
何なの、これ。
「うわ、プリン味のジュース!生きてる!? 超可愛い〜」
「かっ可愛いかな……?」
ヨルは後ずさりをしながら、この生命体にかなり警戒している。
「プリンって増えるのかな?」
金色の髪を揺らしながら、非常に嬉しそうに蛍子が言った。
「増えるの?」
「頼むからその発想を捨ててくれ」
「でもさ? サメって増えるじゃん?」
「うん」
「クラゲも増えるじゃん?」
「うん」
「ウミウシは?」
「ウツボは?」
「てか、なんで海洋生物なのラインナップ。」
「今日の生物で学んだからね!」
「つまり!プリンも増える!!」
「増えない」
「なんで?」
「プリンだから」
「でも、みんなと一緒で、生きてるよ?」
「……」
ちょっと反論に困った。
「ほら〜!やっぱ増えるじゃん!」
蛍子が勝ち誇る。
自信ありげな表情でガッツポーズをした。
いや、勝ってない。
絶対勝ってない。
「んじゃ、学校のプールで飼ってみよ」
「プール?! 絶対にやめろ……!! っていうか! すくうな! バケツにパッキングするな!」
「いいじゃんいいじゃん?減るもんじゃないしプールは」
「いや、まあ、プールはそうだけど」
いや、違う!
「よし! いざ! 巨大プリンを泳がせようぞ!」
「おい! 待って! 走るな──!!」
「そもそもプリン飼って、面倒見切れるの?」
「そんなの無問題!!無問題!!」
プリン?を持って爆走する蛍子。
「おい!待てぇぇぇ!!」
私は、今日も全速力で蛍子を追いかけた。




