表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

Part 6-3 Murphy's Law マーフィーの法則

Simon Bolivar International Airpor Caracas Venezuela, 07:48 Dec 23nd


12月23日07:48 ベネズエラ カラカス シモン・ボリバル国際空港







 国際空港の駐車場に乗り入れたM-8マレーナ・スコルディーアは盗んできたポンコツを駐車場奥のスペースに駐車し車から下りた。



 ワシントンに報復へ向かった麻薬カルテルのロレンツォ・ラミレスは一足先に飛び立っていたはずだった。



 マースは歩きながらローカルネットワークを通じ空港の出国審査のデータベースにハッキング仕掛け今日の出国者のリストを見始めた。



 当然のごとくロレンツォ・ラミレスのパスポートが使われた記録はなく合衆国のビザも日数的に申請収得されているはずがないとマースは仮想した。出国者の顔写真の記録を見ても顔認証にマッチングする写真はない。



 自動人形(オートマタ)は国際空港の建物に入るとまずテナントで入っている洋服店へと真っ直ぐ向かったが、早すぎてシャッターが下りていたので時間潰せるフードコートへと向かって、手ぶらで座ってるのも目立つのでハンバーガーショップでバーガーとポテト、コーラを買ってテーブルに着いた。



 先にテーブルに着いてる旅行客がじろじろと視線向けているのはわかっていた。



 デザート柄の迷彩服着た旅行者なんて怪しすぎる。しかも子供一人だ。みな好奇よりも警戒しているとマースは仮想した。



 食べ物には手をつけなかった。



 圧縮消化装置は腹部にあるが処理後の仮保管タンクからの排泄行為が必ず伴う。面倒くさいことこの上ない。飲食物からはエネルギーは取らずせいぜい冷たい飲み物をわずかな冷却に利用するだけだった。



 目立たぬよう安物の椅子にちょこんと腰掛けマースはテーブルに片肘かたひじ乗せてフードコート出入り口から見える旅客の流れ見ながら仮想した。



 ロレンツォ・ラミレスは単独で渡航しただろうか。



 麻薬カルテルの戦術指揮者だった男だ。捜査当局や情報機関からの手を逃れる策はこうじたはずだった。



 偽造パスポートやビザは当たり前。単独渡航者としてマークされることを嫌ったはず。なら組織に関わりのある女を同伴者に仕立て、できるだけ疑いの眼を避けるため夫婦を装っているやもしれぬ。



 自動人形(オートマタ)はカップルで通関したものをリスト化し21組みいることを突き止めた。



 女は素顔でも、ロレンツォ・ラミレスは変装している可能性がある。



 マースはネットワーク通し21組みの男らだけの写真を時間掛け精査し始めた。



 変装はカラーコンタクトで目の色を変える、髭を付けたり、眼鏡を掛けたり、髪形や色を変えるなどが初歩的なものだけど、中には口内に綿のかたまりを入れほおの膨らみを変える、整形で骨格やまぶた鼻の形に手を加えるなどにおよぶ。



 だがこの短時間でロレンツォ・ラミレスは整形する余裕はないと想定できた。



 なら顔骨格の顔認証をポイント構成の差違さいで点数化し比較した。虹彩や瞳孔の位置、鼻筋の長さと対称性、口の位置や口角の幅は変えようがない。



 17枚目の写真が87ポイントでマッチした。



 鼻下につけ髭付け、眼鏡掛け、虹彩の色を灰色にしている。



 パスポートの名前はカルロス・マルティネス・サンチェスを名乗っている。



 渡航に利用した便は一便早くわずかに出遅れてしまったのだとマースは仮想した。



 念のため同伴者の名前と写真を確認した。



 マリア・ペレス・サンチェスを名乗りごく普通の夫婦に見える。



 マースは国防総省(DOD)のサーヴァーを操作しその旅客機をミサイルで落とそうかと仮想した。



 ああ、まずい。そんなことをしたら後でマリア・ガーランドに分解されてしまうと却下した。



 マースはネットで予約した便の時刻まで余裕があるのでフードコートで時間潰し手をつけなかったバーガーなどをゴミ箱に廃棄し衣料品店へと向かった。



 マリアが命じた作戦中の経費は上限なしなので旅客機どころか航空会社すら買い取ることができるが、デブリーフィングでマリアのお小言が凄いことになるのでそれはしない。



 ロレンツォ・ラミレスの乗った旅客機の運航会社の株を買い占め指揮権使い旅客機を引き返させたかった。



 開店していたテナントはブティックとは程遠い安っぽい服ばかり下がる街の衣料品店ぽかった。



 マースが店に入ると店員が眼を丸くした。



 どうだ! 朝っぱらからデザート迷彩の戦闘服(BS)着てうろつきまわる金髪ツインテールのお嬢さんだぞ。



 マースはネイルシャツとサイケでカラフルなパーカー、それにフレアショートスカートにストッキングを手にレジへ行きカウンターに載せた。



"Bienvenida, señorita."

(:いらっしゃいませ、お嬢さん)



"Quisiera estos"

(:これ下さい)



 そうマースが言うと店員がたずねた。



"¿Desea probarse esto?"

(:御試着なさいますか?)



"No es necesario probarme esto."

(:試着しなくても大丈夫です)



"Me cambiaré aquí, así que no necesito bolsa. Quisiera usar el probador."

(:ここで着替えていくので袋は必要ないです。試着室をお借りします)



 そう告げマースは請求額を聞いてマリアから預かっているアメックスのブラックカードを差し出した。店員はアメックスのブラックカードを見るのが初めてだったがスキャナーに通すと認証され精算されたのでカードを少女に返し、衣類をたたんで手渡し試着室の場所を教えた。



 試着室に入りマースはまず戦闘服(BS)の上着脱いで袖を両方引き破りそれを丸めてスポーツブラのカップに押し込んで嵩上げしミニスカート穿いてシャツを着てパーカーを羽織った。そうしてストッキング穿くとカーテン引き開けサンド色のコンバットブーツを履いてひもを引き結んで立ち上がりツインテールを整えた。



 そろそろ搭乗手続きが始まる時刻だった。



 店員に礼を告げ店を出たマースは出国ロビーへ行く前にテナント街でゴミ箱に迷彩服を丸めて放り込み出国ロビーへと向かった。



 航空会社のカウンターへ行きネット購入のワシントン行きチケットがあると告げ購入番号と名前告げるとすぐに搭乗手続きされた。



 印刷されたチケットを手に出国審査へと行きパスポートとビザ、航空チケットを審査官に差し出した。



"¿Señorita, viaja sola?"

(:お嬢さん、一人で旅行なのかい?)



 そう問われマースは微笑んで応えた。



"Sí, así es. Vine a visitar a mi abuela. Ahora voy a regresar a mi país."

(:ええ、そうよ。お婆さんに会いにきたの。これから帰国するの)



 マースは審査官が身長に見合わぬFカップの胸ばかり見ていることに気づいていた。この男は余計なことを言い出さないと仮想した。



 パスポートとビザ、搭乗チケットを返されマースは出国ロビーに入る前に通関で手荷物ないと告げ金属探知ゲートを通過しようとしてブザーが鳴り足止めされた。



"Señorita, si tiene algún objeto metálico, por favor muéstremelo."

(:お嬢さん、何か金属の所持品があるなら見せて下さい)



 そう通関職員に言われマースは微笑んで応えた。



"Tengo prótesis en la rodilla derecha y en la articulación del fémur izquierdo debido a un accidente de tráfico."

(:私、交通事故で右膝みぎひざ左大腿骨ひだりだいたいこつ関節が人工関節なんです)



"Eso debió ser difícil para usted. Está bien, puede pasar por la puerta. Buen viaje"

(:それは大変でしたね。いいでしょうゲートを抜けていいですよ。良い旅を)



 通関職員にもう一度微笑んで見せてマースは電源切られたゲート抜け出国ロビーへと入った。



 まだ早い時刻なのでロビーはまばらだった。



 マースは見回し搭乗ゲートを探すと入口に二人の搭乗スタッフが受け付けに立っていたのでマースは歩きよりスタッフにチケットを手渡し確認してもらい通してもらいボーディング・ブリッジをエアバスA340へと歩いた。



 この時刻だと乗客なんて大しておらずガラガラだろうとマースは仮想した。



 その方がトラブルもなく好都合だった。



 機内に入り乗務員へ座席番号を告げると手のひらで指し示され中ほどの窓際の席へ腰下ろした。



 WiFiの帯域をスイープしたが繋がらず、かといって機内からNDCの通信衛星にもアクセスできずマースは仕方なく携帯電話の通信バンドからデータ通信でネットに繋いだ。



 合衆国国防総省(DOD)へと接続し、ログイン画面でどうするかと迷った。



 軍事産業の拡大に伴いNDCは国防総省(DOD)へのアクセス権を与えられIDとパスワードはあったが機能は限定され、マースは空軍中将(Lt.Gen.)のIDとパスワードを使った。



 繋がると防空システムにアクセスし、合衆国に向かう航空機の状況を全圏レーダー網で検索した。



 ロレンツォ・ラミレスの搭乗している旅客機の便名は分かっていたのでカリブ海からメキシコ湾上に入るその旅客機をすぐに見つけだせた。



 最寄りの空軍基地から戦闘機を派遣し撃ち落とすことはできる。だがパイロットは必ず管制とやり取りし撃墜命令が変だと気づくだろう。



 第4艦隊のアーレイバーグ級ミサイル駆逐艦のどれかから対空ミサイルで撃墜する方が途中で止められる危険性は低かったが艦長は民間機が標的だということで海軍基地へ必ず命令の確認を取るだろう。



 基地司令をでっち上げることは難しくないが、ほころびは必ず存在し邪魔なこととして足止めになるだろう。



 ロレンツォ・ラミレスをワシントン入りさせるぐらいなら今、撃ち落とすべきだとマースは仮想し続けた。



 男は合衆国への報復にD.C.へと向かっているなら標的はホワイトハウスか国防総省(DOD)のどちらかだった。



 手持ちの爆弾でどうにかできる標的ではない。



 なら戦術核爆弾の可能性が高く、マースは本社作戦指揮室代表代行のエレナ・ケイツへとことのあらましを書いたメール作成し警告を送信した。



 メール送付して一分もしない内にレノチカから電話が掛かってきてマースは体内のSIMでそれを受けたので無言で座席に座ったまま生成音声で会話を始めた。



『マース、どこにいるの!?』



「ビンクロ・デ・マルテ・カルテル(:死の結束)の戦略情報責任者ロレンツォ・ラミレスを追跡中。ベネズエラの国際空港」



『本当にホワイトハウスが核爆弾テロの可能性あるの!?』



「可能性だよ。単に当局の捜査逃れて合衆国に逃げただけかも」



『セキュリティが必要なら派遣する。追って連絡頂戴(ちょうだい)



了解です(コピー・ザッツ)



 通話終了し回線切ると乗員スタッフの一人が歩いてきて英語で声掛けてきた。



「お嬢さん大丈夫ですか?」



「あ、大丈夫。問題ないです」



「上空に上がりましたらお飲み物持って来ますね」



 そう告げて立ち去ったスタッフが組んだ足にデザートブーツ履いてることを何度もちら見していたのをマースは気づいていた。



 う────ん、目立たないようにしてるんだけど、何でだろう、とマースは困惑した。



 マースは引き続きロレンツォ・ラミレスの搭乗機を撃ち落とすかそうしないか演算し、落とさなくともボーイング777ー200をハッキングし迷走させて、後続のこの機を少しでも追いつかせようと仮想した。



 自動人形(オートマタ)は航空無線でくだんの旅客機を呼び出し高周波発信で操縦システムに干渉しブルートスアタックでハッキングし始めた。



 438秒でシステムに介入したマースはオートパイロットへアクセスし設定データを書き換えロレンツォ・ラミレスの搭乗機が大きく旋回するように細工した。



 管制から旋回理由問われるまでパイロットは気づかないと仮想し、これで少し追いつけると思った。



 追いつければあの男を捕まえることも抹殺することも確率が跳ね上がる。



「お嬢ちゃん、失礼するよ」



 突然、声掛けられてマースが振り向くと恰幅のいい高齢男性が手荷物の小型スーツケースを頭上のラックに苦労して押し込んでふたを閉じマースの横席に座り込んだ。



「一人で旅行かい?」



「ええ、お婆さまに会いにベネズエラに来たの。これから帰国するの」



 そう応えると高齢の男は微笑んで問うた。



「お婆さんはお元気だったかな?」



「もちろん。まだ若いもの。81歳よ」



 にこやかに会話続ける五十席ほど後方の席でまばらに座る三人の男らが落ち着かない様子で顔を見合わせていた。



 最後の乗客が乗り込み着席しドアが閉じられ、機がトーイングトラクターによってボーディング・ブリッジから切り離され誘導路へと移動し始めシートベルトの装着案内があり、非常時の説明や禁止行為の説明がされた。



 エアバスが誘導路に移りトラクターが切り離され去ると、しばらくしてエンジン音が高鳴り誘導路をゆっくりとA340は加速し移動し始めた。



「お嬢ちゃんは飛行機で飛ぶのは怖いかい?」



「いえ、ぜんぜん。おじ様は?」



「わしは苦手だよ。落ち着かないんだ」



 そう告げる高齢の男性にマースは励ました。



「大丈夫、わたしがなんともないんだから」







 滑走路に入り、離陸許可が出たエアバスが4基のエンジンを全開にして離陸に向けて滑走し始めた中、マースの後方の席にいる顔見合わせていた男らが次々にシートベルトを解除した。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ