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22/22

朝は甘ったるく


 こんなにも、嬉し恥ずかしな朝があるなんてしらなかった。

 それはともかく、私はディル様の顔をまっすぐ見られなくなっていた。


「――――ルシェ」


 朝から、ディル様の笑顔が甘い。

 そして、なにかが吹っ切れてしまったみたいに、いつも以上に距離が近い。


「ディル様……。あの、近いです」

「え? そうかな……。ところで、いつになったら毛布の中から出てくるの?」

「う、うう……」


 もちろん、すでに着替えは済んでいる。

 だから、毛布から出られない理由は、それじゃない。


(どうして、ディル様は何ともない顔しているの!?)


 私は、もう一度毛布を頭からしっかりとかぶった。


「はあ……。仕方ないな? ルシェにかかった呪いはもちろん解いてみせるけど、ちゃんと食事をしなくては、その前に体を壊してしまう」

「わ……きゃあ!」


 毛布のまま抱え上げられる。

 ディル様は、細身に見えるのに意外にも筋肉質だった。

 その事実に再び赤面して、いっそクローゼットに隠れてしまいたくなる。


「――――あの」

「……ルシェは、可愛いね」

「そういうこと……」

「そうだね。夜にしようか」


 何でもないように笑って、ディル様はスタスタとあるいていく。

 多分歩けない私に対して、こんなに元気だなんてずるいと思う。


「う……。皆さんの視線が」

「……どうして、もっと早くこうしなかったのか、理解に苦しむ」

「――――これで、ずっといっしょですか?」

「ああ。どんな結末になっても、片時も離れないから覚悟しておくといい」


 その言葉を聞いた私は、毛布の隙間から腕と顔を出して、ディル様に抱きついた。

 雨の音が遠ざかっていく。

 もちろん、呪いが私に戻ってきたと言うことは、あと四、五ヶ月しか残されていない。

 そのことはとても恐ろしいけれど、それでも、ディル様とあんな風に離れることはもうないのだ。


「どんな理由があっても、何も言わずに私から離れていきませんか?」

「あんな顔、もうさせない」

「そうですか」


 雨の中の私の顔なんて、ぐちゃぐちゃでひどいものだっただろう。

 その後なんて、さらにひどい状態だったから、絶対に見られたくない。


「――――俺のこと、許して欲しい」

「え……。何言っているんですか、ディル様はいつだって私のために」

「ああ、俺の命とルシェの命の重さなんて、今も比べるべくもない。でも、隠し事をするのはもうやめる」

「……ディル様」


 それは嬉しい。とても嬉しいけれど、私を抱き上げたまま、私の瞳をのぞき込んできたディル様のコバルトブルーの瞳には、なぜか光が感じられない。


「とりあえず、あの雨の日に起きたことを包み隠さず話してもらえるかな?」

「え……? あの日のことですか」

「そう、俺ももう隠し事をしない。全部話すから、ルシェも話すんだ、いいね?」

「は、はい! ところで、もう食堂に着きますので」

「うん、そうだね」


 そろそろ、降ろして貰えませんか?

 その言葉は、にっこり笑っているけれど、逆に腕の力を強くしてきたディル様の圧に、言い出すことが出来なかった。

 そのまま食堂に荷物みたいに運び込まれた私。


「はい。口を開けて」

「た、食べられますので!」

「え? 手が震えている」


 使用人たちが、一人、また一人と生温い視線を残して退室していく。

 あまりに甘いディル様の様子に、気を遣ってしまったに違いない。


(置いていかないでください!)


 そう思ったけれど、時すでに遅く、私たちは二人っきりになっていた。

 そのあとの時間は、今度こそクローゼットに籠もると決意したくなるほど甘ったるかった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] うれし恥ずかし朝チュンですね(≧∇≦) ディル様の溺愛攻撃で、心臓の蔦が枯れてしまうといいのになー
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