あの日が浮かんで消える
まばゆい光で、視界が奪われる。
早く、ディル様を止めなくてはいけないのに、と慌てて伸ばした手が温かい手に掴まれる。
「ルシェ……」
そっと、引き寄せられた触れたのは、ディル様の頬なのだろう。
そこは、涙に濡れていた。
「ごめん……」
「ディル様?」
「あんな風に泣かせたかったわけじゃないんだ」
「それはいったい」
光が消えても、まだ視界はハッキリ見えない。
だから、手の平に感じている温かい肌と、冷たい雫だけが、ハッキリと感じられる。
「――――あんな風に冷たい雨の中でいつまでも泣いていたら、風邪を引いてしまう」
「え……」
雨の日に泣いたなんて、たった一回しかない。
そして、その涙をディル様が見ることなんて出来るはずがない。
だって、あの時もうディル様は、どこにもいなかったのだから。
それなのに、あの瞬間を見てきたみたいに聞こえる。
(ううん、もしかしたら本当に……)
私たちに起きた不思議な出来事から考えれば、あの場面をディル様が見たとしても、なにひとつおかしくないように思えてくる。
「あんなに泣かせるなら、意地なんて張らないで、最期までそばにいてもらえばよかった」
「……ずっと、ディル様のそばにいたいです。これからも」
「うん。まっすぐに気持ちを伝えてくれるルシェに、あんなにも救われていたのに、きっと信じ切ることが出来なかったんだ。……君の気持ちを」
「好きです。ずっと大好きです」
「うん。俺こそ、ルシェのことを愛している。だからずっと……」
視界が戻ってくる。目の前にいるディル様の美しい森の影絵みたいなコバルトブルーの瞳からは、今も涙がこぼれ落ちている。
大好きなディル様は、その涙すら愛しい。
私の胸に戻ってきた呪いうごめいている。
ディル様の心臓には、もう何も絡みついていない。
そして、私には確かに光魔法が戻ってきている。
元通りになったのだ、とホッとすると同時に、辛そうなディル様に胸が締め付けられる。
図らずも思い通りになって、ディル様を巻き込まずに済んだはずなのに、どうしてこんなにも辛いのだろう。
ディル様が、本当に私のことを思ってくれているのだと、今さらながらに思い知らされるようだ。
「――――ごめんなさい。泣かないでください」
「……」
「ディル様、私から離れていかないで」
「もう離れられるはずなんて、ない。それに、君のことをあんな風に泣かせたくもない」
今まで、どんなに強く抱きしめてくれても遠慮があったんだって、今さらながらに思い知らされる。
それほどまでに、私たちの距離は近い。唇が何度も触れあっては離れていく。
「こんなにも、そばにいて欲しい人は、ルシェだけなんだ」
「私も、ディル様だけです」
「そう。じゃあ、俺に全部ちょうだい」
「……はい。私も、ディル様の全てが欲しいです」
その夜、どちらともなく寄り添った私たちは、本当の夫婦になったのだった。
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