神殿の図書室
「ルシェ様! お久しぶりね。待っていたわ」
「ローザリア様! お久しぶりです」
あいかわらず美しいローザリア様は、ピンクブロンドの髪を風になびかせている。
まるで、風の精霊が彼女の周りでだけ柔らかい風を吹かせているようだ。
「こちらの方は?」
「サーベラス侯爵家の騎士、ルエダと申します。聖女様にお会いできて光栄です」
「護衛についてきてくださって……」
「そう……。そうね、ルシェ様は、サーベラス様と結婚されたのだったわね」
微笑んだ蜂蜜色の瞳がほんの少し陰ったように見えたのは、日差しのせいなのだろうか。
Aクラスに途中から編入してきた彼女と私。
お互いに光魔法を使えたこともあって、何でも話し合える中だった。
途中から、なぜか光魔法が使えなくなった私を一番心配してくれたのも彼女だ。
「……少しお話もあるの。ルエダ様は、その間……」
「神殿までお送りしたのです。ここは安全でしょう」
なぜか、先ほどまで朗らかだったルエダ卿の言葉から、冷たい何かを感じる。
それは、私の気のせいなのかもしれない……。
「それでは、後ほどお迎えに上がります。奥様……」
「ええ、本当にありがとう」
「礼には及びません。奥様をお守りするのが職務です」
先ほどまでと違う距離感。
聖女様を前にしているからなのだろうか……。
「ところで、また光魔法を使えるようになったの?」
二人きりになった途端、開口一番ローザリア様に質問される。
「光魔法……? 残念ながら使えないわ」
「そう、それならいいけれど」
「え?」
「そうそう。図書室を見たいといっていたわね? 何を調べたいの?」
本当は、ディル様を蝕む呪いについて調べたいと伝えようと思っていた。
けれど、私の中の何かが伝えない方がいいと言っている気がした。
「……実は、実家の領内で百年ごとに行う祭事があるのだけれど……。来年がその年なの。資料が少なくて、もしかしたら中央神殿には残っているのではないかって」
「そうなのね! 残念だけど、この後、聖女としての役割があって離れなければいけないの。二時間くらいだけれど、調べられるかしら?」
「ありがとう」
「お安いご用よ。友だちでしょう?」
なぜか急に明るい声になったローザリア様を不思議に思いつつ、図書室に案内してもらう。
実は光魔法の力をなくす前は、私も聖女候補の一人だった。
お父様は、「聖女になんてなる必要ない」と言っていたけれど、光魔法は希少だから、いくら貴族でも最低限神殿とは関わる必要があった。
約一年ぶりに訪れた図書室は、以前と変わりがなかった。
怪しまれないように祭事に関する本を数冊抜き取って、さっと中を確認する。
百年ぶりに行われる祭事については、すでに一度図書館で調べていたから、内容は暗記できている。
「――――呪い」
呪いについては、あまりに広範囲だから二時間で調べるのは難しいと思っていた。
けれど、先ほどのルエダ卿の言葉、彼の言葉のなまりから言って隣国の北端だろう、彼の故郷は。
迷わず、隣国の北端にある都市、ルーベリアで発展したという古代魔術についての本に目を通していく。
心臓に絡みつく蔦。それがヒントだ。
「――――あった」
心臓に絡みつく蔦。それは、魔術を無理に改変しようとして失敗したときに……。
「うん? なんだか暑い……」
ふと、扉の向こうに目を向けると、扉についた曇りガラスが茜色に染まっていた。
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