ホルムズ海峡
ホルムズ海峡
さて、本稿では中東の火薬庫、ホルムズ海峡について幾つかのリスクを説明して行きます。
まずは、経済に絡むお話、要するに石油関連です。
一般的には、石油が輸入出来なくなると言って真っ先に頭に浮かぶのはガソリンなどの燃料でしょう。
実際、地域差はありますが、ガソリン価格はこの所大きく値上がりしています。家計などに直撃するので、嫌な意味で分かり易いですね。
そして、まだ影響が実感はされていないかと思いますが、石油製品のナフサやエチレンは既に減産体制に入っています。これも、ペットボトルやプラスチック容器、包装フィルムなどなどなどなどなどなどなどなど、、、日常生活に欠かす事が不可能に近いほど入り込んでいるので、中期的に家計への影響は避けられません。化繊などの衣類も然り。
ただ、需給関係の悪化から価格への影響はあっても、製品が市中から消え去る、といった事態には、、、ならないと断言出来ないのが、なんともはや、、、
まぁ、1973年のオイルショックでは石油にほぼ無関係なトイレットペーパーが市中から消え去るという事態が起きたんですが、そういうパニックにも注意が必要です。
仮に、アメリカがイランと電撃的に停戦に至ったとしても、影響は短期的に収束することはありません。
今、ホルムズ海峡を船舶が航行する事は極めて大きなリスクを抱える状態。
幅33kmほどの狭い海域をイランに捕捉されず通過する事は事実上不可能で、無断通航しようものなら小艦艇、ミサイル、ドローンなど攻撃手段は幾らでもあります。
また、機雷の問題も厄介です。アメリカの艦艇は機雷を探知・回避するシステムを搭載しているので海域を通航可能ですが、民間船の場合は、そういったシステムを搭載した艦艇に先導してもらわなければ通航できません。既に敷設されている機雷を掃海するのには少なくとも数ヶ月は必要です。
これは、基本的に軍用艦艇を狙ったものではありません。謂わば民間船舶をターゲットとしたA2/AD。イランはアメリカ軍ではなく、俺様キングの泣き所を締め上げる戦略に注力しています。
俺様キングは、アメリカは産油国だからイランがホルムズ海峡を封鎖したら大儲け、とか言ってますが、負け惜しみ、、、というかアメリカ国民に向けたハッタリでしかありません。
アメリカが産出するシェールオイルは軽質油です。単体の価値は重質油より高いのですが、アメリカの石油精製プラントは大半が中東やベネズエラ産の重質油を精製するためにセットアップされているので、シェールオイルを直接精製するのには向いていません。
なので、アメリカはシェールオイルを輸出して重質油を輸入するといった事をやっていて、ホルムズ海峡を封鎖されると、ダイレクトとは言いませんがガソリン価格に跳ね返ります。
日本や他国が石油不足で困ろうと俺様キングは気にもしませんが、アメリカでホルムズ海峡封鎖に伴うインフレが起きることは、特に11月の中間選挙で致命傷となり得る。
繰り返しになりますが、機雷を掃海し、清浄海域にするには「完全な停戦後」数ヶ月を要します。
停戦が成らないうちに日本などが掃海作業をしてもドローンなどで機雷を敷設されたら一からやり直し。
この様な海域で石油タンカーを運航するとコストが跳ね上がる、と想像がつくでしょう。
現在、ホルムズ海峡はウォーライク、即ち、Warlike Operations Area=WOAに指定されています。ぶっちゃけ、ウォーライク(戦争に準じる危険度)と言うよりウォー(戦争)で良いんじゃね?と思われるかも知れませんが、ウォーって言っちゃうと物流が終わっちゃうので、そこは大人の事情というやつです。
しかし、事実上最上位危険度のウォーライクだと、乗組員に最低でも通常の2倍の給与を支払わなくてはならないし、ボーナスも必要です。それ以前に、乗組員はノンペナルティで乗船を拒否できる上に、乗船拒否した乗組員を居住国まで送ったうえに補償として2ヶ月分の基本給まで払う義務まであって、運航するための乗組員を確保することすら覚束ない。
また、運航するには事実上保険が必須だが、保険料は現在12倍に高騰し、12倍の保険料でもアンダーライターが引き受けを拒否している実例まであって、ホルムズ海峡の航行コストは跳ね上がっている。
この、跳ね上がったコストは、仮に俺様キングが「ホルムズ海峡は安全だ!」などと安全宣言を出したとしても、アンダーライターなどシビアな実務家の目が安全を確認できなければ下がる事はない。
それが何時になるかは全く想像もつかない。
このコスト増は世界経済に直結している。当然日本もダメージは避けられない。笑っていられるのはロシアくらいのものだ。
そして、、、最大のリスクは、この戦火がどこまで拡大するか、だ。
俺様キングは、ベネズエラの様にイランも一撃で仕留めるつもりだったのだろうが、あてが外れ困惑している。
さっさと手を退きたいだろうが、戦争を始めた以上、勝利以外俺様キングには有り得ない。
しかし、イスラエルや福音派が求める体制転換には地上部隊による長期的な作戦が必要だと、おそらくようやく理解出来たハズ。
さすがの俺様キングもそれが泥沼化の入り口だとは分かっている。
なので、今、焦点となっているのがハールク島だ。
この島はイランの石油輸出に係る最重要拠点で、ここを制圧する事でイランの首根っこを抑える、、、という考えらしいのだか、、、正直に言って正気を疑うレベル。
まず、アメリカの精兵を投入するなら制圧は充分可能だ。
しかし、ここは孤島でイランのホームグラウンド、制圧した部隊の補給は?イラン本土からミサイル攻撃などを受けた場合どうやって防ぐ?何時まで部隊を置いておくつもりだ?
純軍事的にも疑問は尽きないが、懸念されるのはこれだけではない。
ハールク島は、最大2,500万バレルの原油が備蓄可能とされている。
これ、世界最大級のタンカー12隻に満載しても余る、、、え?分かりにくい?まぁ、世界最大のタンカーっても、まずそこからピンとこないよね。
えーと、、、、、、東京ドームの容積が大体124万立米で、ざっと780万バレルなんで東京ドームの大体3.2杯分?くらい?
今は戦時でイランも輸出が滞ってるから、2,500万バレル満杯でもおかしくはない。
こいつが、戦闘の余波で、或いは、、、イランが故意に流出させる事態となったら、、、
実際、1991年の湾岸戦争でイラク軍は焦土作戦の一環として推定400万バレルの原油を流出させた。
1991年当時、この原油流出は史上最悪の人為的環境汚染と呼ばれた。
私自身、当時のニュースでリアルタイムに見たけど、長さ160km、幅数十kmにわたって原油が数cmから10cmの厚さで海を覆い、環境や生態系に凄まじい被害をもたらした。
海面の原油は数ヶ月で回収できたものの、潮の干満で海底部にこびりついた原油は除去が極めて困難で、数年かけて様々な除去作業をやっていたようだが、ペルシャ湾には未だ、その汚染が残っている。
ハールク島で原油流出が起きれば、1991年を遥かに上回る被害をもたらす可能性は極めて高い。
懸念される事態として、湾岸諸国、特に西岸の国は海水を取水し、淡水化して飲料水を得ている。
この淡水化プラントは西岸の国で沿岸部人口増加に極めて大きな影響を及ぼしている。というか淡水化プラントが無ければ生活が出来ない。ペルシャ湾の沿岸部で1億人の生活を支えているんだ。
原油が流出すると淡水化プラントにも影響が出るだろう。
地域によっては飲料水の不足で居住困難となったりする可能性もある。
完全な停戦に至らなければリスクは拡大する一方だ。
本稿で挙げたリスクなど一部に過ぎない。
しかし、停戦を望まないマグロ男や福音派の俺様キングへの影響力が強すぎる。
溜め息も出ない。




