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Bパート 豊田ねり大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!

 オロチが吠えた。

 低く重たい咆哮は、それだけで私たちを仰け反らせるほどに強力で、かつ広範囲にまで轟いた。

 同時に広がった邪気が、さらに遠くの地域の人々からも生気を奪う。

 私も一瞬気が遠のいたが、あらかじめロリティングスーツに巡らせている魔力量を通常より増やしていたので、生気の奪取から免れることができた。

 魔力が身を守ってくれているのだ。


 私に同じ手が二度通用すると思ったら大間違いである。


「ねり様。ただいま観測したところ、関東全域に邪気が拡散しました」


「それってつまり」


「はい。関東圏内のすべて人間の生気が、吸われたことになります」


 こんな呆気なく、日本の主要都市が壊滅するなんて……。

 こいつ、殆どの核を失ったってのにどんだけ元気なのよ。


 晴子姉さんが怪訝な表情を浮かべた。


「ねり、亜夢二亜ちゃん、気をつけて。おそらく、次の攻撃が彼の全力よ」


 と、オロチの口の先に邪気が溜まりだした。

 これまで撃っていた弾とは比べ物にならないエネルギーを感じる。しかも、邪気の塊はどんどん大きくなっていって、一向に増大化が止まる気配がない。


「もうよい! じっくり世界を破壊するのは終わりだ!」


 その言葉の意味を、エラリーが告げる。


「非常に危険です。あれほどのエネルギー量、爆発すれば日本はーー」


「完全に消滅するってわけね」


 スケールが大きすぎて失笑してしまう。


「晴子ねーさん、亜夢二亜、なんとかして阻止しないと!」


 私はインパクトハンドガンを、晴子姉さんはビームを発射したが、なぜかオロチに直撃する直前で消滅してしまった。

 ステッキから魔力の剣を発生させた亜夢二亜が突っ込むも、見えない壁に弾かれてしまう。

 しかも単に弾かれただけではない。ドレスが焼け焦げ、肉体にも火傷の痕が残っていた。


「亜夢二亜、大丈夫?」


「うん。怪我ならすぐ治るから。でも、オロチの邪気が強すぎて近づけないよ!」


「くそっ、あいつ、これまで溜め込んだ力を一気にかいほーする気ね」


 おそらくビームが消滅したのも、蓄積されていく邪気のパワーにかき消されたから。

 そのパワーが見えないバリアとなり、接近すら許されなくなっている。


 せっかく勝機が見えてきたのに、また危機的状況に立たされてしまった。

 エネルギーの充填が完了するまで、オロチは弾を発射しない。制限時間はあとどれほどか。ゆったり作戦など練っている時間はない。

 こうなったら、最後の賭けにでるしか、残された道はない!


「2人とも、前に話した3000通りに変化する作戦、覚えてる?」


 晴子姉さんと亜夢二亜は互いに顔を合わせ、申し訳無さそうに視線を落とした。


「やっぱり。でも、最後に説明した作戦は覚えてるでしょ? 作戦No.3000。絶体絶命の状況でのみ発動する、さいしゅーへーきを」


 晴子姉さんはハッとすると、その瞳に決意を宿らせた。


「それしか、方法はないのね」


 亜夢二亜が反対する。


「だけど失敗したら、それこそ打つ手なしだよ?」


「大丈夫よ亜夢二亜ちゃん。だって」


 晴子姉さんの柔らかな手が、私の頭をヘルメット越しに撫でた。


「ねりなら絶対に成功させる。だって宇宙で一番の天才だもん」


 そこまで言われてしまうと、逆に緊張してしまう。

 だが、やるしかない。まだ実験すらしていないが、使うしかない。


 すると亜夢二亜も、「わかった」と頷いた。


「よし。じゃあエラリー、プロテクト解除コードを入力して」


「かしこまりました。1031。ねり様の誕生日ですね。前々から忠告していますが、暗証番号が4桁のみではセキュリティーに問題が」


「改善は戦いが終わったあと!」


 私はオロチの遥か頭上に飛び、右腕を星空へ掲げた。


「はじめていいわ、エラリー!」


「デストロイパーツ、着装させます」


 お手伝いアームロボットたちが空を飛び、大きな筒状のパーツを私の右腕に取り付けた。


「続いて晴子様、亜夢二亜様の全魔力を吸収します」


 スーツの色が赤色に染まっていく。

 と同時、受け取った魔力の塊が、筒の先に出現した。

 それはオロチの弾のように巨大化し、ぐんぐんと大きくなっていく。


 ふと2人を見やれば、魔法少女姿が解除され、地面から私を見上げていた。

 変身が維持できないほど、というより、存在が消滅する寸前まで私に魔力を捧げたのだ。


 魔力の塊にアームロボが取り付くと、塊は長方形へと形を変える。


「ルミポニウム合金、注入します」


 筒の内部から、特殊な砂状の金属が放出され、魔力へと溶けていった。

 直後、魔力の塊は太陽のように眩い光を放ち、私の心臓がドクンと高鳴った。

 あまりの高エネルギー反応を間近で受けてスーツのバッテリーが故障し、高圧電流が肉体に流れたのであろう。


 だが、まだ動く!


「デストロイハンマー、起動完了です」


 私が生み出した人類の切り札、デストロイハンマーは、

 晴子姉さんと亜夢二亜の全魔力を吸収し、ロリティングスーツの力で極限まで圧縮させ、


 魔力と親和性の高く、スーツにも使用されているルミポニウム合金を砂粒状にして混ぜることによってさらにエネルギーを活性化させた、私たちの「すべて」を集約した最後の希望であり、


「見せてやるわ、私たちのパワーを!」


 その眩い鈍器のような形状の兵器は、悪霊の完全粉砕を目的とした、


「成仏しなさああああい!!!!」


 大天才様の鉄槌である!!


「うおおおおお!!」


 振り下ろされたハンマーが、オロチの邪気弾と衝突する。

 ぶつかりあった際に生じた衝撃波は光となり、夜空を白く染め上げた。


「な、なんだこのパワーは!」


「エラリー!」


「かしこまりました」


 HLスカートの出力を最大にし、さらに家から飛んできた追加スラスターが背中に取り付けられる。

 エラリーの暴走を止める際にも使用した、プラズマ弾の発射が可能な小型戦闘ロボである。


 徐々に、ハンマーがオロチを押し始めた。


「こ、こんなもの! こんな子供のおもちゃなんぞにぃ!」


「遊びで幼女やってんじゃないんだよおおおお!!!!」


 ハンマーはついに邪気弾を飲み込み、そして、


「よくも、よくもお!」


 オロチを完全に押し潰した。


 ハンマーの魔力も消えると、そこには塵一つ残されていなかった。


「お、終わった?」


 ゆっくりと降下して着地した途端、私はついその場に座り込んでしまった。

 頑張りすぎて、力が入らない。


「「ねり!」」


 晴子姉さんと亜夢二亜が笑顔を浮かべて駆け寄り、抱きついてくる。


「やった! やったわね! ねり!」


「やっぱり天才だよ、ねりは!」


「は、ははは、でしょ?」


 私も熱い抱擁を交わしたいのに、腕がピクリとも動かない。

 空を見上げると、地平線の先から少し明るくなってきていた。

 もうすぐ夜明けだ。


「終わった……」


 などと安堵した途端、晴子姉さんがバッと振り向いた。

 その視線の先には、オロチの首が落ちていた。


「嘘でしょ……」


 8つ、いや9つとも完全に消したと思ったのに、1個だけ残ってたってわけ?

 最悪だ。戦う力なんてもうない。晴子姉さんや亜夢二亜だってそうだ。


 どうする? 少しだけでいい、攻撃に使える魔力さえ手に入れば。


 疲れた脳で必死に思考していると、首はぐにゃぐにゃと形を変えはじめた。

 段々と人の形になっていき、やがて、見覚えのある悪霊へと形成されていく。


「紅蓮菜!」


 気づいた亜夢二亜が走り出した。

 核が、紅蓮菜の姿になったのだ。というより、紅蓮菜に戻った、と表現するのが正しいのか?

 おそらく紅蓮菜はオロチの首、核の1つにされていて、奇跡的に消滅を逃れ元の姿に戻ったのだろう。


 紅蓮菜は瞼を開けると、私たちを見やった。


「私は……いったい……」


 ガバっと、亜夢二亜が勢いよく抱きつく。


「オロチの一部になってたんだよ。でももう、倒したから大丈夫!」


「亜夢二亜……」


「よかった、紅蓮菜」


 紅蓮菜は強引に亜夢二亜を突き放した。


「私はお前たちの敵だ。安堵される筋合いはない」


「うん。でも、また会えて嬉しい」


「……」


 咄嗟に紅蓮菜は亜夢二亜に背を向けた。

 はは〜ん、さては照れてるな、こいつ。


「かんどーの再会のとこ悪いけど、これからどうすんのよあんた」


「さあな。オロチとやらも倒されて、いよいよ世界を絶望に染める手段が無くなった。これ以上お前たちと戦っても疲れるだけだし、とうぶんは大人しくしてやるよ」


「亜夢二亜とは戦いたくないもんね」


「黙れ殺すぞ。せっかく悪霊として現世に留まったのだから、気楽に暮らそうと思っただけだ」


 そう言って、紅蓮菜は去っていった。

 なんだよあいつ、ツンデレだったのかよ。


「さてと、また街を復興しないとね。エラリー、動けないからスーツ脱がして」


 お手伝いロボットたちが集まって、スーツのパーツを取り外していく。

 滞りなく全部のパーツが取れたというのに、何か違和感がある。

 なんだろ。


「ね、ねり」


「なに、晴子ねーさん」


「いつまで子供のままなの?」


「へ?」


 自分の体を見た瞬間、ゾッと悪寒が走った。

 スーツを脱いだのに、ロリ化が解除されていないのだ。


「エラリー、どうなってんの!?」


「ねり様の計算ミスのようです」


「ミス? この私が?」


「デストロイハンマーの副作用の計算に誤りがあったようです。スーツへの負担が予想よりだいぶ上回り、身体凝縮機能が暴走しました」


「つまり……」


「しばらくロリです」


「嘘だああああああああああああああ!!!!!!」


 その後、ウーがオロチと共に消滅したことによって、悪霊を悪用する者がいなくなり、悪霊の出現頻度は劇的に下がった。

 街の、というかここら一帯の地域の復興は、私の絶大な影響力と財産をつぎ込んでも当分掛かりそうで、完全な平和には、まだ程遠い。


 それから、晴子姉さんは本格的に婚活に力を入れ始めた。

 魔法少女としての活動が減ったので、次回は上手くいくのかもしれない。


 亜夢二亜は定期的に紅蓮菜の下へ会いに行き、なんか、イチャイチャしているらしい。


 シャノワも自称恋人の明美ちゃんと、なんかイチャイチャしているんだとか。


 凛はオロチに学校が破壊されたので、この機会に家族と世界一周旅行に出かけた。帰国したら絶対にお土産にケチつけようと思う。


 エラリーはAIとして毎日大忙しだし、まぐろのぶつはさらに太って毎日寝たい時に寝ている。


 鉄一郎先生は……書類送検されました。


 そして私はといえば、あれからずっとロリのまま。最強天才小学生として、シャノワのクラスのガキ大将たちとドッジボールチームを結成。全国制覇を狙っている。


 めでたしめでたーーーーって全然めでたくなあああああいい!!


                                  おしまい

もしかしたら続くかもわかりません。

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