おまけの特典
「サフィーちゃん! 遅くなったけど、アカデミーの入学祝いをサフィーちゃんのお部屋に用意しておいたわ。気に入ってくれると嬉しいわ」
「本当ですか! ありがとうございます」
今日はアカデミーが休みの日。オルティス侯爵家本邸でランチを食べているときに、ようやく私の部屋の模様替えが終わったことも知らされた。
ランチを終え、わくわくしながら部屋に入ろうとドアを開けた瞬間、私の目に飛び込んできたのは目を覆いたくなるような光景だった。
「なに……これ……」
お気に入りのベッドはそのままで、思い出の詰まった調度品もそのままだ。
けれど、雰囲気がまるっきり違う。一目瞭然で変わっている。
何が変わったのかというと、壁紙だ。攻略対象者の“壁紙”に変わっているのだ。
「……購入特典?」
ふとそんな言葉が頭を過り口から溢れる。いや、まさか、意味がわからない。そんな私にお母様がにこにこと近づいてくる。
「ふふ、気に入ってくれた?」
「な、何なんですかっ、これは!?」
ぶっちゃけ直視できない。この部屋にいること自体が恥ずかしい。
目を覆った指の隙間から見えるのは、壁中に描かれたルーカス王子の姿絵だ。ベッドに寝転がれば天井には私を見つめるルーカス王子がいる。安眠なんて無理に決まってる。
「あら、自分でも言ってたじゃない。購入特典だって。マジアカ購入=マジアカ入学、でしょ? 遅くなったけど入学おめでとう」
「ありがとうございます? ……いや、そうじゃなくて」
「もしかしてコンプリートしたかった? それなら今から直すわね」
マジアカの物語を全て知ってるわけではない。攻略対象者についてもだ。ゆえに、コンプリート=知らない人の姿絵がベッド上の天井に描かれていたかもしれないということ。
「ルーカス王子だけで、このままでお願いします!」
「あら、他の子たちもイケメンなのに残念ね」
「それより! よくここまでそっくりに描けましたね?」
「そんなの目の前にモデルさえいればプロは描けるわよ」
「モデル? はっ!? まさか、罰ゲームって……」
この世界にカメラはないので写真もない。この壁紙のように、本物と見間違うほどの絵に仕上げるためには、モデルが何時間も同じポーズで居続ける必要がある。
まさに罰ゲーム。
「だって、私はサフィーちゃんにこの屋敷にいて欲しいと思ってるけど、それだと遠距離恋愛で淋しいでしょ? だから一生懸命考えたのよ。これなら本物に会えなくても淋しくないでしょ?」
「いや、淋しいとかそういうんじゃなくて、めっちゃくちゃ恥ずかしくて、逆にこの部屋にいられませんよ!!」
終始ルーカス王子が私を見つめてくる。落ち着かないことこのうえない。
「ノルンちゃんは、ラズの画面をスクショして、拡大して部屋中に貼ってたみたいよ?」
「えっ、ノルンちゃん、そんなことしてたの!?」
いや、確かにやりそうだわ……それこそ壁一面余す所なく。
「ふふ、見せたかったわ、ルーカス王子の羞恥プレイ、じゃなくて、モデル姿」
「羞恥プレイって言ってるじゃないですか!! もう! ルーカス王子で遊ばないでくださいよ」
「ふふふ、今度はサフィーちゃんとルーカス王子の婚約祝いの姿絵を描いてもらいましょうね」
「はい!!」
この時私が迂闊に返事をしたせいで、商売上手なお母様の手によって、その姿絵が複製され販売されるという羞恥プレイを味わうことになってしまったのはもう少し先のお話。
ご愛読ありがとうございました!