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お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。  作者: とーわ/朱月十話
第二部 第九話 女騎士先生の水泳指導
79/110

第九話・7

「……何か想像していないか? 私が姉の言うことを聞かされるというのは、意外に思っているとか……」

「俺はきょうだいがいないので、素直に羨ましいです。それに、先生はやっぱり家でも優しいんだなって……」

「やっぱりというのは……日頃からそんなふうに想像しているのか? その、私について考えることがあるのか」


 美味しいものを食べさせてもらうと、思わず口が滑ってしまう。岸川先生の知らないところで俺が彼女のことを考えているなんて、よくよく考えなくてもいい気分がしないことだろう。


 しかし、先生のことを考えることがあるのは事実で、それを誤魔化す気にはなれなかった。先生にはできるだけ嘘をつきたくない。


「時々ですが……考えることはあります。先生がくれた……」

「……ん? 私が、海原に何かあげただろうか」


 言いかけて気がつく――俺がクッキーをもらったのは、岸川先生ではなくて「石川先輩」ということになっている。だから、クッキーを食べるたびに先生のことを思い出しますなんて言ってはいけない。


「い、いえ、その……先生に食べさせてもらったお弁当のことを、家で思い出したりすることがあって。それで先生のことを考えることはあります」


 嘘はつきたくないが、先生の秘密を守ることは俺の信念より優先される。

先生が学生時代の制服を来て、俺と一緒に勉強していたなんて、俺自身も知っていてはいけないことなのだ――先生にとっては。


「……何かぎこちない気もしなくはないが。そ、そうだな……私も海原と出会って一年以上になるから、私のことを考えてくれることはあるか」


 先生はそう言って、もう一つ持ってきていたランチボックスを開ける。中に入っていたのは、生春巻き――透き通る皮ごしの野菜の緑と、エビの赤色が鮮やかだ。しっかり保冷されていて、ひんやりと冷気が立ち上る。


 そしてもう一つ、先生はバゲットを取り出す。これはボルシチと一緒に食べる、本日の主食のようだ。


「サラダを用意しようと思ったのだが、ボルシチとバゲットだけでもお腹はいっぱいになると思ったのでな。追加でつまめるように、春巻きにしておいた。料理のジャンルは統一した方が良いかもしれないが……」

「いえ、俺はあまり気にしないです。カレーうどんとかも好きですが、あれは二つの国の料理が混じってるじゃないですか」

「ふふっ……カレーうどんか。つゆが跳ねるといけないからなかなか食べられないが……海原が好きなら、一度作ってあげたいものだ」


 先生は春巻きをタレにつけて口に運びながら言う。あまりマジマジと見てはいけないが、先生が食事をする様子は何と言えばいいのか、例えようのない艶やかさがある。


「……んっ。海原、ボルシチを貰ってもいいだろうか」

「はい、どうぞ」


 先生は俺が使ったスプーンを、そのまま口に運ぶ。全然頓着していないように見えるが、心なしか頬が赤らんでいる。


「うん……今日はいい出来だな。海原にも喜んでもらえたし、何よりだ。次はバゲットにつけて食べるといい。本場なら黒パンなのだが、バゲットも悪くはないはずだ」

「はい、いただきます……先生?」


 俺も気にしすぎてはいけないと思ったのだが、再びスプーンを受け取ったところで先生が少し困ったような様子で見つめてくる。


「……そうやって海原は、いつも落ち着いていて……私の方が、学生のような気分にさせられてしまう。大人に切ない思いをさせるな」

「え……あっ、いえ、全然気にならないとかじゃないんです、その……間接的なことはかなり気にしてますが、先生に失礼かと思いまして」

「……全く気にしないというのも、それはそれで寂しい……い、いや。私たちは教師と生徒なのだから、過剰に気にするべきではないか。で、では……」


 先生は何を思ったのか、春巻きと一緒に保冷されていた野菜スティックを手に取ると――ディップをつけ、端を咥えて、こちらに差し出してきた。


「ふむ……ふむむ、ふむ」


 栄養を考えて野菜も食べた方がいいとか、きっとそういうことを言っているのだと思うが、全く言葉になっていない。


 間接キスを気にしないというのが、なぜ口移しで食べさせてもらうことになるのか。


 ここで動揺して「これはやりすぎです」と先生を説得するべきか、先生に恥をかかせないのが教え子としての第一選択か。


 もはや一秒の猶予もない。先生が差し出してくれた野菜スティックを食べない、つまりそれは先生の厚意を拒否することだ。恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない……!


「……っ……」


 先生の用意してきた野菜スティック――人参のスティックなのだが、噛んでみるととても甘い。クリーム状のディップの味がよく合っていて、生の人参の渋みとか、そういうものは一切なかった。


 この状況が、味覚にも影響を与えているのかもしれない。先生と見つめ合いながら、少しずつ人参を食べ進んでいく――二匹のウサギでも、こんな仲睦まじそうな姿を見せることがあるだろうか。仲睦まじいなんて、俺は何てことを考えて――


「…………」


 ――先生が、人参を折らない。ゆっくり、そのまま進んでいく。


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