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第八話・1

 岸川先生と杜山先生に看病してもらった甲斐があり、俺の体調は試験当日には完全に回復していた。


 試験を終えて、翌週の月曜日に結果が出た――俺は学年2位になっていた。前回から点数が上がったかは答案が返ってこないと分からないが、相応の手応えはあった。


 教室に行くと、純が俺の席に座っていた。俺が来るなり席を立ち、おどけて椅子を勧めてくれる。


「さすが海原大明神だな。拝んだら点数増えたりしねえ?」

「まあ、それなりにな。純は赤点回避できそうか?」

「おうよ、海原が教えてくれたヤマがドンピシャだったからな。それが無かったら即死だったぜ」


 いいのか悪いのかと思いはするが、純も少しだけ俺と一緒に勉強した成果が出たようだった。


 同じクラスの吹奏楽部女子二人も、あれから少し勉強を見る機会があったのだが、無事にそれなりの成績を修められたようだ。


「海原くん、おはよ。やっぱりすごいじゃん、2位とかどうやったら取れるの?」

「もっと勉強を教えてもらえば、あたしたちももうちょっと……じゅるり」

「海原大明神の力にまた二人も気づいてしまったか……もう少し、俺だけのものにしておきたかったんだがな」

「そこまで恩恵を与えた覚えはないがな……」


 純だけでなく、女子とも話すようになったからか、こちらの様子をうかがう人々の態度も変わりつつある。


「海原ってやっぱすげえな……インテリヤクザって言われるだけあって、ガラ悪くても頭いいな」

「でもイラついてそうな時とかあんじゃん、こえーじゃん」

「海原くんの目が怖いのって、勉強のしすぎて目が疲れたとかだったり?」

「ねえ、私らも勉強教えてもらった方がよくない?」


 まだ劇的に変化してはいない、クラスの大半からは怖がられているままだ。しかしほんの少しだけ、変わりつつあるのかとも思う――勉強を教えた女子二人が、俺のことを前ほど怖がらなくなったからだ。


「これで海原くんがうちの部に入ってくれたら……」

「これだけ頑張って勉強してるんだもん、部活してるより大変でしょ。それで練習なんてしてたら海原くんでも身体もたないよ」

「でも、土曜日に水泳部の応援演奏やるんでしょ? 早めに練習来てくれないと、合わせられなくない?」

「なにっ……海原、また吹奏楽やるのか? なんか去年の文化祭でもやってたよな、あれ? 吹奏楽なんてやってたっけ? ってビックリしたぜ」


 部活に入るつもりはないとずっと言ってきた。バイトのシフトも、試験明けは多く入れられるだろう。


 今までやってきたことを半端にするわけにはいかない――しかし、部活とバイトを両立させることは不可能というわけでもない。


 岸川先生と杜山先生の顔が頭をよぎる。そして、空野先輩の顔も――。


「楽器は昔やってただけだよ。吹奏楽をやりたいなら、一年からやってる」

「はー、そうだよね……ごめんね、ちせちゃんが凄く期待してるから、うちらもそうなったらいいなって思ってきちゃって」

「海原くん、忙しいもんね。二年生から部活っていうのは、絶対ないわけじゃないけど」

「こら、そういう言い方したら全然引き下がってないでしょ」


 二年から部活を始める生徒が、全くいないわけじゃない。


 その言葉を聞いて心を動かしてしまう俺は、迷ってしまっているんだろう。


 吹奏楽のコンクールで、俺たちは県大会より先に進むことができなかった。そのときに、俺は吹奏楽部でできることはやり尽くしたと思ったし、これ以上やっても何も手に入らないと思った。


 報われない努力を続けても虚しさが残る。勉強はやった分だけ結果が出やすくなる。そうやって理由をつけて、吹奏楽をやらないことを自分に納得させていた。


 去年の文化祭で演奏に参加したとき、俺はどう思っていたか。


 演奏が終わったあと、俺は杜山先生に声をかけられて、上手く答えられなかった。


 思ったままを答えてしまったら、もう一度火が点いてしまう。


 報われるかどうか分からない努力を、仲間と一緒にがむしゃらに追いかけた日々を思い出してしまう。


 今の俺はそれを否定している。あの頃の俺は今よりも、熱があった。


 努力をしても報われないのなら、熱くなっても意味がない。


 そうやって冷めきったはずの心に、まだ捨てられないものが残っていると思うのは――岸川先生と杜山先生が、影響されずにいられないほど前向きだからだ。


 ◆◇◆


 試験の答案が返ってきたあと、すぐに通常の授業が始まる。


 中休みに、岸川先生からメールが届いた。休み時間には連絡をしていいというのは、俺たちの間のルールだ。そこには、こう書かれていた。


岸川先生:試験の結果を見たが、さすがだな 凄い順位だ

自分:お陰様で、体調も万全で試験を受けられました

自分:ありがとうございます


 礼を言ったあと、しばらく岸川先生からは反応がなかった。移動教室のために純が呼びに来るが、俺がチャットをしていると分かると、空気を読んで先に行っていてくれる。


 それでも、俺もずっと返事を待っているわけにはいかない。準備して席を立とうとしたとき、ようやくスマホが震えた。


※お読みいただきありがとうございます!

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 次回の更新は6月23日(日曜日)になります。

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