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第七話・9

 寝相は良くも悪くないほうだと思う。ベッドから落ちることなど無いし、だいたい朝起きるとベッドの真ん中にいるはずなのだが。


 寝入ったときより、何か少し窮屈な感じがして、温かいような気がする。とても心地よい。石鹸の匂いがして、背中と身体の前面が温かい。


 このまま、この心地よさに身を任せてもう一度寝るか。


 それとも、一度目を開けてみるか。あまり深く考えず、目を開ける。


 だが、それがいけなかった。


「……すー……」


 思わず叫びそうになる。目を開けたところに、静かに寝息を立てている岸川先生の顔があったからだ。


 一度目を開けると、もう閉じられない。俺は瞬きもできずに、少し顔を動かせば触れてしまいそうな位置にある、岸川先生の唇に意識を奪われる。


 夢を見ているようで、岸川先生は何か言おうとしている。このままではまずいと分かっているのに、心臓の鼓動が早まりすぎて全く動けない。


「……お姉ちゃんと寝れば……温かいからな……」


 先生は、どれほど俺にとって優しい夢を見ているのか――岸川先生は俺を抱きまくらにでもするかのように、腕を伸ばして寄り添ってくる。初めから泊まりを考えて持ってきていたらしいパジャマを着ている先生は、胸元が少しルーズになってしまっている。


 俺を幾度となく悩ませ――いや、ここは正直に言わなくてはならないだろう――喜ばせてきた女騎士先生の胸部装甲を解除した部分が、シャツがもう少し開いたらこぼれてしまいそうな状態にある。


「……んん……」


 そして前に意識を持っていかれていた俺は、背中側も温かいということを失念していた――後ろから伸びてきた腕が、今度は俺の胸板に回され、同時に背中に柔らかいものが押しつけられる。


「……きしかわせんせいだけずるいですよ……私だって……むにゃ……」


 後ろにいるのは見るまでもなく、杜山先生――親が買ってくれたベッドがセミダブルだったことが、こんな形で良かったと思う日が来るとは思わなかった。


 ――いや、全く良くない。違う部屋で寝ていたはずなのに、いつの間にかこんな状況に置かれているのは、俺が先生二人に夜這いを受けたという事実を示唆している。夜這いというか、俺の容態が心配で添い寝をしてくれているだけなのは分かるのだが、そういうのを寝ているうちにやるのはドキドキするし、先生たちのおかげでかなり元気になったとはいえ俺の意志を尊重していただきたいし、無防備な寝姿を見せてくれてありがとうございますと言いたくなる。なんだ、俺は感謝しているのか。


「……すー……すー……」

「……んっ……んん……」


 支離滅裂になっていた思考が、一気に現実に引き戻される。二人が同時に身じろぎをして、俺に寄り添ってきて――三人では狭いので仕方がないことだが、隙間なく密着した状態になる。


 耳に響く杜山先生の吐息――そして目の前の岸川先生の、無防備な唇と胸元。


 悪魔の誘惑に魂を売りそうになる。少しくらい見ても、あまつさえ触ったりしても、先生たちが自分からベッドに入って来たのなら文句は言えない。


 しかしその考えをかき消すように、冷たい目で俺を見ている空野先輩の姿が脳裏に浮かぶ。


 ――海原は、おっぱいなの?


 胸をガードしながら言う空野先輩の姿。俺をおっぱいに魂を売ったかとでも思っているかのようなあの視線が、まざまざと思い出される。


 岸川先生のバストは彼女が息をするたびにその弾力を主張し、杜山先生が回してきた手は、微妙に下に移動している。これ以上行くと危ないというところで、俺はそっと先生の手を握ってガードする。すると先生の手はようやく止まったが、ベッドが狭いのか、さらに後ろから密着されてしまう。


「……海原くん……んん……ちょっとだけなら……いいよ……?」


 ちょっとだけでもいけないんです、先生――と、俺は杜山先生の手を握りながら思った。細い手首を強く握るわけにもいかず、かといって力を入れなさすぎれば止められないので、物凄く葛藤しながら握り続ける。すると今度は汗ばんできているのが気になって、如何ともしがたい。


 そうこうしているうちに、眼前にある岸川先生の襟元がさらに危うくなる。俺は白目を剥いてでも視線をそらさなければならなかった――いや、そんな怖いことをしなくても目を閉じれば済むのだが、それもできない。なぜかと言われても答えられない。


 俺はおっぱいなのかと空野先輩が聞いたが、結論から言うとたぶんその通りであった。この世に先生二人のおっぱいより尊いものなどあんまりないと言い切れる。おっぱいおっぱいとこんな密度で思考する機会など、今後あってはいけないと思うが、先生たちがいる限り逃げることはできないような気がする。


 脱出を諦め、俺はせめて二人の先生が風邪をひかないように、毛布を背中までかぶれるようにという気遣いをした。二人の身体に触れず、一枚の毛布でカバーしようとするのは至難の業だったが、それくらいの努力はするべきだと、控えめに言って天国のような状況下で考えていた。


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