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お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。  作者: とーわ/朱月十話
第一話 女騎士先生とインテリヤクザ
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第一話・5

「いつもの先生らしくいてくれた方が、俺も、その……落ち着きます」

「そうか……お姉ちゃんと言うと落ち着かないか……」


 先生は不満そうにするが、なかなか言っていることが理不尽だ。俺は先生の弟ではないので、つまりは他人なので、姉さんらしく振る舞われてもひたすら戸惑うだけだ。


そういうことにしなければ、甘えてしまったらどこまでも堕落してしまう。


「まあいい、それは慣れの問題だろう。今年になってから授業を受け持つようになったし、顔を合わせる機会が多ければ、慣れるのも早いだろう」

「せ、先生。前に決めたルールは一体どこに……」

「忘れてはいないぞ、学校の中では先生と生徒だというのだろう。だからちゃんと、山崎に一言言いたい気持ちを抑えていたし、B組の生徒たちに注意をしたりもしなかった。あのガラの悪さは本来、教師としては看過できないのだがな」


 やはり見られていた。そして下手をしたら、俺は先生に助けてもらっていたかもしれない。そうなったら逆に先生の立場が心配になってしまうので、結果的には良かったと言えなくもない。


「……海原のことを何も知らずに挑発をするなど……やはり一言くらいは言っておくべきだったか。しかし君は一人で頑張ろうとしていたし……」

「……やっぱり俺は、先生に心配をかけてましたか」

「うん……い、いや、そうではない。君がそんなに申し訳ない顔をすることはない……私が勝手に心配して、勝手に我慢していただけだ」


 こんな話をしているだけで、十分普通の先生と生徒ではないと思う。


 自分でルールがどうと言っておいて、それを守らなければいけないとも思っていながら、素直に嬉しいと思っている自分がいる。


 だが、そこまで先生に言われてもなお、「先生に甘える」という選択肢はない。俺は山崎の挑発に乗って、敵チームにひと泡吹かせたいと思っただけだ――それで足を挫いたのは自己責任で、先生の手は借りられない。


「……私の助けは受けないと、そう思っているのか?」

「っ……」

「これは先生と生徒であっても、自然なことのはずだ。怪我をしている相手を案じることは、当たり前のことだ」

「そ、それは……先生、次の授業は……」


 苦し紛れにそんなことを言っても、先生には通用しないと分かっていた。


 先生は笑って、俺に肩を貸してくれる。その瞬間に俺の全神経は、肋骨のあたりに集中する――ジャージのファスナーを自動的に下げるほどの弾力を持つ胸が、思い切り当たっている。


「保健室まで君を送り届けるくらいはさせてほしい。そうでなければ、私は君をいつでも支えられるように、背後から見守ることになるぞ?」

「え、ええと……そっちの方が目立ちますし、かなり照れることになりますね」

「ふふっ……そうだ、素直に腹をくくったほうがいい。君を説得するのはいつも大変だが、お姉ちゃん冥利に尽きるというものだ」


 そんなふうに満足そうに言われると、何も言えなくなる。そしてこれからも、俺は先生に体育の授業中に見守られてしまうのだろう――周囲の誤解を受けないように気をつけなくてはいけない。


 ――と、考え事をしていたせいでふらつき、先生の背中に手を回して捕まってしまう。


「っ……す、すみません、先生」

「う、海原……いくらお姉ちゃんといえど、それは少し……」

「え……」


 俺の手がどうなっているか――バランスを崩した拍子に、先生の背中に回した手が前まで行ってしまい、身体のどこかを掴んでしまった。


「(うぉぁっ……!?)」


 これまでは先生が意識せず当てていただけのその部分を、俺は鷲掴みにしてしまっていた。


「こ、こら……歩きにくくなるから、そろそろ手を……」

「は、はいっ……すみません、本当に悪気はなかったんです」


 鋼鉄の意志で手を離す。それでバランスを崩しかけると、先生がしっかり支えてくれた――また胸が当たるが、かといって離れるわけにもいかない。


「……君は思っていたより、手が大きいんだな。バスケットボールを片手で持てたりするのではないか?」


 バスケットボールと比較していいものでもないが、先生のバストは片手では全く足りていない大きさだった。まだ柔らかな感触が残っている手を、先生はここなら問題ないということか、腰の辺りに回してくれる。


 細い腰の曲線――くびれの辺りに、俺の手が滑る。先生はぴたっと止まって、困ったような顔で俺を見た。


「せ、先生、どうしました……?」

「す、すまない……少し、何というか……君はいちいち遠慮をしすぎる、もっとガシッと掴んでもらったほうが落ち着くのだが」

「は、はい……これなら大丈夫ですか?」


 ちょうど先生の腰のくびれに手を置いてジャージを掴む。まだ一歩も歩き出していないのに、ポジションを決めるだけでこんなに時間がかかるのも先生に申し訳ない――今度からは遠慮をしすぎないというのは念頭に置きたい。怪我をしないというのが一番だが。


「そのあたりなら大丈夫だが……か、考えてみたら、こんなに近づくと……」

「あ……す、すみません。汗臭いですよね、俺」

「そんなことはない。私の方がどうなのかと思うのだが……まだ二限なので、大丈夫だろうか」

「全然気にならないです、むしろすごくいい匂いで……」

「そ、そうか。それならいい……し、しかし、いい匂いとかそういうことは、あまりはっきり言うものではないぞ」


 話してばかりでもいつまでも保健室に辿り着かない。俺は覚悟を決め、岸川先生にしっかりと支えてもらって、ふらつかないように慎重に歩いた。


 歩く途中で、先生が自分の胸に手を添える。やはり俺が掴んでしまったところが気になるようだ――痛くさせてしまったのかもしれないので、本当に気をつけなくては。

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