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お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。  作者: とーわ/朱月十話
第一話 女騎士先生とインテリヤクザ
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12/110

第一話・4

 授業で行うバレーボールは、1セットで勝敗を決める。俺たちのチームは序盤に相手を突き放し、最後に追い上げられたが逃げ切りで勝ちとなった。


「15対10で、Aチームの勝ちとする」


 先生が笛を吹き、俺たちは整列して礼をする。他のメンバーが次の試合に備えて休憩に向かう中で、委員長が声をかけてきた。


「お疲れ様、海原。終始頼ってしまったな」

「……俺も、自分にボールを集めてくれとか、我がままを言ってすまなかった」

「いや、これからも海原を中心にやっていけば勝てそうだ。体育で熱くなるなんて、というやつも多いが、俺は必死になるほうなんでな。次もよろしく頼むぞ」


 委員長は掛け値なしにいいやつなのだろうと、その顔を見ていればわかる。少年漫画にそのまま委員長として登場できそうな真面目ぶりだ。


 俺が行くと空気が微妙に硬くなるのだが、岸川先生に心配をかけないよう、クラスに溶け込んでいるふうに振る舞わなくてはならない。


 まずいな、やっぱり痛めてしまったようだ。


 歩き出そうとして、右足の違和感が痛みに変わっていることに気づく。足を挫いたというほどではないが、普通に歩くだけでも痛みがある。


 あと一試合は、あまり無理はできなさそうだ。授業が終わったら保健室に行き、湿布でも貼ってもらえばいいだろう。


 ◆◇◆


 最後の試合は踏み切る足を変えた影響で少し厳しかったが、何とか最後までコートの中にいられた。


「それでは本日の授業はここまでとする」


 授業終わりの挨拶を終え、皆が体育館を出て更衣室に向かう。

 俺も保健室に行くまでは何とか隠し通せそうだと思っていたのだが、


「海原、待ちなさい」

「っ……せ、先生」


 肩に手を置かれ、引き止められる。クラスの皆は俺だけが止められたことを、やはり注意を受けるものだと思っているようだ――みんな足早に立ち去ってしまう。


「……なぜ、何も言わなかった?」

「何のことですか……うわっ……!」


 全部言う前に、先生が正面に回り込んできて、ずいっと覗き込んでくる。その視線が、だんだんと下がっていく――。


「せ、先生っ、みんなもう行ったとはいえ、こんなところでそれは……っ」

「こんなところも何もない。右足をひねっているな……やはり、声をかけるべきだった」


 先生はしゃがみこんで俺の足を見たあと、顔を上げる。自然に上目遣いになっているが、先生はその破壊力におそらく自覚がない。


「こういうとき、頼ってもらえるのが先生だとも思うのだが。まだ君の中では、私は教師として信用に足らないのか?」

「そ、そんなことは……ただ……」

「ただ……?」


 そんなふうに、捨てられた子犬のような目で見上げられるては困ってしまう。子犬というにはあまりにも発育が良すぎるが、あくまでたとえの話だ。


「そんなに言いにくいことなのか……?」


 この目で見つめられたら、俺の意地とかそういうものは全部吹き飛んでしまう。


「……先生には、格好悪いところは見せたくないなと……すみません、子供っぽい意地を張ってました」

「っ……」


 先生の反応を、俺はどう受け取ればいいのだろう。分かっていても、認めることが恥ずかしい。

 それだけでなく、もう一つ、危惧しなくてはいけないことがある。


「子供っぽくなどあるものか……っ!」


 先生が立ち上がり、俺の肩に手を置く。他の生徒がいるときはジャージのファスナーをしっかりと閉じていたが、立ち上がった勢いで勝手にファスナーが降りてきてしまう――やはり胸が苦しかったのか、ファスナーを緩めていたのが災いしたようだ。


 先生は、自分の状態に自覚がない。この間合いは俺にとっては中に入り込まれすぎているのだ。


 そしてダメ押しとして、先生はスイッチが入ってしまっている。他の生徒がいないところでないと見せない、先生のもう一つの顔――それは。


「君の意地っ張りを許すのは、お姉ちゃんのつとめだ。謝る必要など何もない、気がついても声をかけなかった私がいけなかったのだから……」


 そう――先生は俺に対して「お姉ちゃん」のスイッチが入ることがある。


 生徒たちから厳しい先生として恐れられ、同時に慕われている女騎士先生が、感情が高ぶると俺の姉(になったような気持ち)になってしまうのだ。


「せ、先生、先生は俺の姉さんじゃないですから、お姉ちゃんはちょっと……」

「むっ……や、やはりそうなのか。私のことを信用していないから、お姉ちゃんと言ったくらいで目くじらを立てるのだな。どうすれば信用してもらえる? 私はどうやって誠意を見せればいい?」

「い、いえ。見せなくていいです、俺はいつもの先生の方が、先生らしくて……」

「……らしくて……?」


 つい口を滑らせてしまいそうになり、踏みとどまる。


 先生らしくて好――と言うのは違う、普通は先生に好きとか言ったりはしない。前後の文脈によって「人として好き」という解釈はできるが、これはラブコメにおける定番の罠なのだ。それくらいは俺でも理解している。


※お読みいただきありがとうございます!

 ブックマーク・評価・ご感想などありがとうございます、大変励みになっております。

 本日はもう一度更新する予定です。

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