93話 説明的三分間
さて、剣も買った事だし、後はダンジョンに入るための装備だな。
「ダンジョンの装備を揃えるにはどこがいいんだ?」
ラビラントでの滞在が長いノーラに聞いてみた。
「最近出来た“グレートハンターズ”という店が人気だニャ」
何だか聞いたことがある名だが、気のせいか?
「でもCランク以上の冒険者が一緒じゃないと入れないのニャ」
それも聞いたことがあるな。
「王都にもあるチェーン店なのニャ!」
……ああ、そうか。
アントーニオ大商人様の店の名前だったな。
ラビラントにも店を出していたとは、なかなかのやり手だな。
「ところでサクヤ。ダンジョンの装備って何が必要なんだ?」
「そうですねぇ……小さなダンジョンなら、普通の魔物討伐と変わりませんよ」
「では、大きいダンジョンならどうなのだ?」
「はっきり言って、期間の問題ですね」
「期間?」
「ええ、大きいダンジョンほど中にいる時間が長くなりますから、その間の補充が問題ですね」
「つまり?」
「回復薬に魔素水、あとは単純に、ダンジョン滞在中の食料が必要になります」
それは不味いな。
幸い、回復薬と魔素水はヴィオから大量に餞別としてもらってある。
しかし……
ルーナの満足する分の食い物を用意するとなると、かなりの量だぞ。
装備の準備じゃなくて、食料の準備の方が重要だな。
「あっ! 一つだけ普通の魔物討伐と違うところがあります」
「何だ?」
「ダンジョン内の魔物は、死んでも魔素は放出しないので、魔素水は多めに必要です」
「魔素を放出しない、だと? どういう事だ!?」
「そういえば、ダンジョン内の魔物の説明をしてませんでしたね」
魔物も何もダンジョンの説明自体、まともに聞いてないぞ。
「ダンジョン内の魔物というのはですね――」
サクヤの超長い説明を簡単にすると、こうだ。
ダンジョン内の魔物は、ダンジョンの中でのみ活動していて、外に出ることはない。
そして、倒されると消滅してしまう。
つまり、魔素を放出することもなければ、素材を取ることも出来ない。
冒険者が得ることが出来る物は、魔物が消滅した後に残される、落し物と呼ばれるアイテムだけ。
それが冒険者の収入となるのだ。
「しかし……なぜ消滅してしまうのだ?」
「正確には分かりませんが、ダンジョンの魔物は、ダンジョンの一部ではないかと言われています」
「ダンジョンの一部だとっ?」
いや……考えられなくもないか。
ダンジョンの外に出ないのも、そう考えれば辻褄が合うしな。
「ダンジョン自体がひとつの魔物だ、と言う研究者もいますね」
それも考えられなくはないが……
どれにせよ、俺が考えても仕方ない。
それよりも魔素を得られない方が問題だ。
ヴィオに貰った分のほかにも、買っておくべきだろう。
しかし……
携帯食だけではルーナに何を言われるか分かったものではない。
あちこちの屋台で買い込むのか?
いや……セモリナ亭で大量に作ってもらうのもいいかも知れんな。
とにかく、回復薬や魔素水なら後でどうとでもなる。
予定は変更だな。
せっかくだ、今から小手調べと行くか!
「買い物は後回しだ。どこか小さなダンジョンに行ってみるぞ!」
「小さなダンジョンですか?」
「ああ。お前たちの実力と、買った斧と剣が本物か見てみたい。ノーラ、どこかおすすめのダンジョンはないか?」
「ニャ? うーん……それなら、あそこがいいのニャ!」
「よしノーラ、そこに案内しろ」
どこかは分からんが。
「分かったのニャ! でも……」
でも、何だ?
何か問題でもあるのか?
「ルーナが寝てるのニャ」
静かだと思ったら、またか……
よく立ったまま寝れるな。
ダンジョン内で寝泊まりするにしても、ルーナにはテントも寝袋も必要無さそうだな。
「おい、ルーナ。行くぞ、起きろ!」
またここで、いつもの寝言が来るのか?
「ん? ああ、クロム……お腹空いたのです。お昼ご飯はまだなのです?」
そう来たか……
「サクヤ、ノーラ……すまん。昼飯が先だそうだ」
しかし、本気で食料はかなり確保しておかんとヤバそうだな。
「美味しかったのです♪ お腹いっぱいなのです♪」
そりゃあそうだろう。
人の倍以上も食べればな……
「ルーナのお腹はどうなってるのニャ?」
「よく入りますよね」
全くだ。
いったい食べたものはどこに消えてるんだろうな。
「ここなのニャ」
屋台で買ったハムとチーズ入りのピアディーナを食いながら、ノーラに案内されて進んだ先にあったのは、少し大きめの一軒の館だった。
「これがダンジョン?」
どこから見てもただの建物だ。
大きさも、推理小説にありがちな、どこかの別荘程度しかない。
が……
その横にはギルドの案内所が併設してあり、冒険者パーティーも数組いる。
それを見る限りでは、ダンジョンに間違いなさそうだ
「そうなのニャ。ここは、パーティーのお試しダンジョンとして人気なのニャ!」
「お試しダンジョン? 何だそりゃ」
「新しく組んだパーティーなんかで、メンバー同士の実力を確認するのにぴったりなのニャよ」
何がどうぴったりなのかは知らんが、今の俺たちにはまさにぴったりだな。
「しかし、こんな小さいダンジョンに、これだけパーティーがいては、今日は無理なのではないか?」
「大丈夫なのニャ。ここのダンジョンは、そういう心配はいらないのニャ!」
だから……
何で心配いらないのか説明しろよ!
そもそも、何でお試しに向いてるかの説明もしてないだろ。
これでよく案内嬢のバイトが務まったな。
「ノーラ……どういうダンジョンなのか詳しく説明しろよな」
「どうしました? 何かお困りですかー?」
隣の案内所からギルドの案内嬢がやって来た。
ノーラよりこいつから聞いた方が早そうだな。
「ここのダンジョンに入ろうと思うのだが、どういうダンジョンなのか説明してくれ」
「うわっ! 子猫が話したっ! ……いえ、失礼しました。ここのダンジョンの説明ですね」
一応は、それなりに驚かれるのだな。
やはり俺は、ラビラントでも珍しい部類な様だな。
「最初にお聞きしますが、パスポートはお持ちですか?」
ん? パスポート??
そう言えばまだ買ってなかったな……
タイトルは、東京事変「能動的三分間」より拝借




