56話 君は非常に食べたい
「どうでしょう? みなさんお似合いだと思いますよ」
やっと三人が選んだ服を着て戻ってきた。
みんな少し恥ずかしそうだ。。
「いいんじゃないかな」
どうでも……
似合っていると思うが、はっきり言って待ちくたびれて、もはやどうでもよくなってきた。
なに? 服を教えろ、だと?
グラシアはゴシック調の白いシンプルなドレス、ルーナは何やら僧侶風の水色のワンピース。
ラエルのは、ゲームにありがちな魔法使いの服だな。
こんな説明でいいよな。
正直服なんて分からんから、説明しろと言われても……無理だ!
「で、全部で幾らなのだ?」
「え? 何故、召喚魔が……?」
なんだ? 召喚魔が金を払うのがそんなに珍しいのか?
それとも“子猫の姿の召喚魔が金を払う”のが珍しいのか?
ここは商都だろ? そんなことで驚いてどうする!
まあ、商都と言うだけあって、話せる召喚魔には驚いてはいないようだがな。
「幾らか聞いているんだが?」
「あ……すいません。すべて合わせて2100レオネです」
「ああ、そうか……安いな」
いや、高いよ。全然高いよ!
三着で2100レオネってことは一着700レオネ、およそ7万円くらいだ。
服一着7万だと? コンビニのバイト代かよ!
なんの魔法効果もない、ただの服だぞ?
今ルーナが着ている耐水、耐熱、耐寒仕様のチェニックのセットで、300レオネなんだが?
おっと……我を忘れかけたようだ。
よく考えたら2000レオネくらい大した額じゃないな。
拾ったジュエルドラゴンの鱗で、おつりがくる程度だ。
さらっと払って、さっさと帰ろう。
「ありがとうございました。またのお越しを♪」
ほくほく顔のリラに見送られ、店を後にする。
「この服似合ってます?」
「何だか変な気分ですよね」
「そんなことはないぞ、グラシアもラエルも似合ってるぞ!」
二人とも美人だから、何を着ても似合うのだろうな。
「お腹すいたのです」
「……そうだな」
それでこそルーナだ。
やはり“花より団子”だな!
「着きましたぜ。ここがローズガーデンの入り口です」
ジャコモの言葉に外を見ると、馬車は大きな門を潜り抜け、薔薇の庭園の中を走っている。
「素敵な庭園ですね」
「薔薇が沢山で綺麗ですよね」
「お腹が減ったのです」
「前に見えるのが本館です」
ジャコモの言う通り、馬車の行く先には、大きくはないが豪華な建物が立っている。
すでに日は暮れているが光の魔石か何かでライトアップされていて、闇の中でもその豪華な姿が確認できる。
「凄く豪華ですね」
「お洒落なところですよね」
「……お腹が空いたのです」
さっきから約一名、全く違う事を言ってないか?
誰とは言わないが……
なあ、ルーナ!
馬車が本館の前に着くと、ちょうど一台の馬車から降りる貴婦人がいた。
「……派手だな」
あれだ、あの……
マリーアントワネットとかそういう奴が着てそうな、ロココ調とか言うドレスだ。
「ここの客は、あんな感じが多いのか?」
「そうですね……半分はあんな感じでしょうか」
半分もいれば充分だ。
あんなドレスが半分もいるなら、さっきまでの服じゃ浮きまくりだぞ。
やっぱり買ってよかったかもしれんな。
「俺はここには泊まりませんので、ここまでです。明日またアントーニオ様の店でお待ちしております」
「なんだ? ジャコモはここに泊まらんのか?」
「アントーニオ様が俺のような者の分まで手配すると思いますか?」
「……思わんな」
「では、また明日」
俺の返事に苦笑いを浮かべ、ジャコモは俺たちを降ろし、去って行った。
「ようこそ、ローズガーデンへ!」
とりあえず、服を替えたおかげかどうかは分からんが、即つまみ出されることはなさそうだな。
と言うよりも……
「ほう……! これは美しい」
近くにいた客が、感嘆の声を漏らしている。
改めて見ると、ルーナもラエルも充分すぎるほどの美少女だ。
一人は腹ペコ残念美少女だがな。
シンプルなドレスだが、派手なドレスよりよほど美しさが引き立って見える。
グラシアに至っては、白のゴシック調のドレスと白い髪が相まって、さながら雪の女王だな。
ルーナとラエルは、グラシアに使える侍女と魔法使いの少女のようにも思えなくない。
「お宿泊でしょうか? ご予約は御座いますか?」
受付のカウンターへ行くと、給仕風の制服を着た女性が声を掛けてくる。
ここはちょっと台詞を一工夫してみるか。
「我が主は、アントーニオ殿の手配で参ったのだが、聞いてはおらぬか?」
俺はルーナに抱かれたまま、形式ばった言い方で答えてみた。
ルーナが抱いている俺を、グラシアの召喚魔だと思うのも、“我が主”がグラシアだと思うのも相手の勝手だ。
俺は嘘はついていない。
「えっ? あっ……失礼しました。しばらくお待ちください」
俺が受け答えたことに対してか、アントーニオの手配と言う言葉に対してかは分からんが、受付の女性は少し驚いた顔で答えた後、奥の方へと戻って行った。
「お待たせしました。確かに“話す子猫の召喚魔を連れた三人の美しい女性”の手配をオーナーから受け賜っております」
おいおい、どんな手配の仕方だよ。
なんだその“美しい女性”っていうのは。
って……オーナー?
アントーニオがここのオーナーなのかよ。
手広くやってるな!
さすが大商人様だな。
「VIPルームをご用意しておりますので、只今係の者がご案内致します」
VIP……だと?!
この宿泊代は大商人様の払いなんだろうな!
勝手にVIPルームを手配しておいて、払いはこちらとか言うなよ。
タイトルは、君の膵臓をたべたい/住野よる より拝借




