14話 買い物しに、と彼女は言う
「おい! ルーナ、起きろ!」
「ムニャムニャ……えいっ!“トコロテン・デ・コロンダノ”」
えーっと、もしかして“氷柱の嵐”の事かな?
ところてんで転ぶのはお前だけだよ。
偶然でも「ところてん」とか突っ込みどころ満載だが、寝言に突っ込んだら負けな気がするから放っておこう。
「“コロンダノ”とかいいから、起きろ!」
「ふぇ? ココハドコ? ……あ、クロム……夢じゃなかったんだ」
昨日はルーナにとって人生が180度変わった、まさに夢のような一日だったろうな。
だが“夢のような”であって夢ではない。だから早く起きて、顔を洗って髪をとかせ。
ルーナはやっともっそりと起き出し、身支度を整えはじめた。
「ねえクロム、今日は何するのですか?」
「とりあえずルーナの装備を整えないとな。仮にも冒険者なんだから」
「買い物?! ねえ、買い物に行くのですか?」
「まあ、そういうことだな」
「やったー♪ じゃあ早く朝ごはんにしよう!」
だからなんなんだその切り替えの早さは!
しかしまあ、犬や猫なら耳をピクピク尻尾フリフリ状態だな。よほど買い物が楽しみなようだ。
そういやまだ見てないが、この世界には獣人もいるんだよな。
猫耳娘とかもいるのかね?
などと、まだ見ぬ獣人に思いを馳せながら食堂に行くと、レネットがカウンターを拭いていた。
「おっはよー! 朝食準備するからチョイ待ってて」
ハイテンションな挨拶だな。レネットは元気が良いのが取り柄のようだ。
朝食はソーセージに目玉焼き、パンとミネストローネ、俺には皿に入ったミルクと、例の魔素入り特製キャトフードの上にソーセージが乗って出てきた。
「みんなもう出かけたけど、ルーナ達は今日はどうするの?」
朝食を食べる俺たちの横に座っていたレネットが話しかけてきた。
「今日は買い物なのです〜♪」
「そうなんだ。で、何を買うの?」
「え? えーっと……何買うんだっけ、クロム」
「冒険者の装備だよ、忘れんなって」
ルーナはすでに買い物するという事しか頭に残ってないらしい。
「さてクロム君! 昨夜のお願いは覚えているかな?」
俺が食べ終わるのを見計らって、レネットが怪しい笑みを浮かべ変な口調で言ってきた。
お願い? はて……何のことだ?
「モフらせるのだ!!」
そう言うや否や、俺は腕の中レネットの腕の中に拉致された。
モフモフモフモフ――
なかなかどうして、レネットは案外胸が大き……おっと、我を忘れるところだった。
レネットの胸の大きさを味わうのもいいが、聞くことがあった。
「ところで冒険者の装備だが、どこかいい店はないか?」
「ああ、それならここから冒険者ギルドに行く途中に“ワルフラン武装店”ってのがあるから行ってみな」
「ワルフラン武装店だな。わかった」
冒険者ギルドで貰った地図もあるので迷うことはないだろう。
ルーナ一人でなければの話だがな。
「遅いよクロム、早くそのなんとかブソー店に買い物しに行こうよ!」
な、なんでもうドアの前にいるんだ? さっきまで俺とレネットの隣にいたじゃないか。
だからなんでそんなに切り替えが――(以下略)
大鍋亭から冒険者ギルドに行く方向へ、数分歩いたところにワルフラン武装店はあった。
そこそこの店構えで、思っていたよりは品ぞろえも多そうだ。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい? ここは武器もあるから気を付けておくれ」
がっしりした体格をした店主らしき壮年の男性が、心配そうに店の奥から出てきてルーナに声をかけてきた。
『だから気を付けろと言っただろ』
「うぇい」
あれ? 既視感かな? まったく同じやり取りをしたよう気がする。
冗談はさておき、ルーナは初めての店に“転がり込む”流儀でもあるのだろうか。
そういえば大鍋亭では転ばなかったが、何か法則があるのか? 後で考察してみるか。
「で、お嬢ちゃん。ウチに何か用かい?」
「あ……えーっと……」
さて、どうしたものかな。
驚かれるのも面倒だが、いちいち念話も面倒だ。
「この娘の冒険者の装備が欲しいのだがな」
「え! しゃべっ…………」
うーむ、固まってるな。俺はバジリスクじゃないぞ。
驚かれるのはどうせ一回きりだと思って普通に話しかけたが、このままだと買い物も出来んな。
「おい! 驚き過ぎだ」
「ほ? ……え、あ、猫が喋ったんだよな?」
やれやれ、やっと戻ったか。
「そうだ、何か問題でもあるのか?」
「いや、そういう訳じゃねぇが、おまえさん召喚魔なのか?」
「そうだ、この娘の召喚魔だ。この娘はルーナ、俺はクロムだ」
「こりゃ凄ぇモン見ちまったな。話す子猫の召喚魔なんて王都でも見当たらねぇぞ」
「そうか、それはよかったな。それより大鍋亭のレネットから聞いて来たんだが、お前が店主なのか?」
驚かれるのは慣れたが、話が進まないのが難点だな。いろんな意味で……
「おお、レネットの紹介か。俺がここの店主ワルフランだ。自慢じゃないがズッカでは一番の品ぞろえだ、好きなものを選んでくれ!」
やっと商売っ気が出てきたな。「自慢じゃないが」と言いつつ、品ぞろえには自信があるのだろう。
「とりあえず服からだな。この娘が戦う訳じゃないが“見た目”は大事だと思わないか?」
「おおっ、旦那! 猫のくせにわかってるじゃねえか」
猫の“くせに”は余計だ。
しかしこいつ、見た目に反して結構お調子者だな。
大丈夫かこの店……
タイトルは、破壊しに、と彼女は言う/マルグリット・デュラス から拝借




