11話 彼女はギルドの帰り道
「あれ? ルーナさんですよね」
宿屋街へと向かっていると緑髪碧眼のエルフ、冒険者ギルドの受付嬢エフィルが声をかけてきた。
「あ、えーっと…ギルドの受付のエフィルさん?」
「そうよ、いまギルドから帰るところなの。ルーナさんはどちらへ?」
エフェルは帰宅途中のようだ。バッグを肩にかけ果物の入った袋を手に抱えている。
「泊まるところを探しに行くとこなのです」
「ああ、宿屋街に行くところなのね」
『どこかオススメはないのか?』
俺はエフィルに向かって念話で話した。
もはや大量のスライムを短時間で殲滅したことを知っている彼女に、、ハイスペックぶりを隠してところで意味はないのだが、人通りもあるので一応念話を使うことにした。
「クロム…さんでしたね。そうですね、ルーナさんは女性ですから…わかりました。私に付いてきて下さい」
何かわかったのか知らないが、どこかを紹介してくれそうだ。俺たちは彼女と一緒に宿屋街へ向かうことにした。
「ルーナさんはどちらの出身なの?」
歩きながらのエフィルの問いに、ルーナは全く違うことを返した。
「あの、ルーナは“さん”付けされるのはちょっと恥ずかしいのです」
「そうなのね。じゃあ“ルーナちゃん”がいいかしら? それとも“ルーナ”でもいいの?」
「ルーナでいいです」
『俺も“さん”はいらないぞ』
「わかったわ、ルーナとクロムでいいのね」
「はい」『うむ』
「で、ルーナはどこから来たの?」
「ルーナはコロロ村からきたのです」
「コロロ村って馬車でも半日くらいかかるよね。あの辺は冒険者ギルドもないし、冒険者になるならしばらくはここに滞在するの?」
「えーっと……」
『そうだな。しばらくはズッカにいることになりそうだ』
「…だそうです」
どうも全て俺が決めているような気がする。俺はルーナの召喚魔じゃなく保護者なのか?
「それならますますピッタリだわ」
エフィルが連れて行こうとしている宿は、何がピッタリなのかは知らないが俺たちにピッタリらしい。
数分ほど歩くと、その“俺たちにピッタリの宿”に着いたようだ。
「ここがそうよ」
エフィルの言葉に、俺とルーナはその建物の入口にある看板を見た。
《大鍋亭》
名前からして宿屋というより食堂風だな。看板にも鍋の絵が描いてある。
「ここは食堂兼宿屋なの。長期の割引もあるし、奥に女性専用の棟もあるからルーナにピッタリでしょ! あと食事も美味しいわよ。住んでる私が言うくらいだから間違いないわ!」
なるほどそういうことか。
まあ、女性専用棟があるなら安心だろうし、食事も美味しくて知り合いもいるならなおさらだな。
「じゃあ入りましょう」
エフィルに促され入り口の扉をくぐる。
中に入るとそこは食堂になっていて、十卓ほどのテーブルと5人分程度のカウンターがあり、数組の客がわいわいと食事や酒を楽しんでいた。
すると、厨房であろうカウンターの奥から一人のふくよかな年配の女性が現れた。
「エフィル、おかえり! あら、そちらのお嬢ちゃんは誰だい?」
「おかみさん、ただいま。お客さんを連れてきたわ。女性棟は空いてたはずよね」
「あら、泊まりの客かい? それはありがたいね。けど、こんな小さな子が大丈夫なのかい?」
おかみさんはルーナを見て心配そうに言った。15歳には見えなかったのだろう。
「大丈夫よ、ルーナは15歳だわ。この猫も召喚魔なのよ」
エフェルにそう言われ、慌ててルーナが女将さんに挨拶をする。
「ルーナって言います。この猫は私の召喚魔でクロムって言うです」
「あら、猫ちゃんは召喚魔なんだね。ルーナちゃんとクロムちゃんね。わかったわ!」
どうやらおかみさんは「あら」が口癖のようだ。それはともかく俺にまで“ちゃん”付けするのは止めて欲しいな。
「で、どれくらい泊まる予定なの?」
おかみさんのその言葉に、ルーナとエフィルは同時に俺を見た。
やれやれ、実際そうなのだから仕方ないが、エフィルはすでに俺に決定権があると思っているようだ。
「とりあえず1週間ほどだな」
ルーナは少し驚いた表情を向けたが、しばらくここに住むのだから俺が話せることを知っておいてもらった方が、今驚かれても後々便利だろうと思い、念話でなく声を出して会話をした。
「あら、話せるのかい。こりゃあたまげたね! 長い間冒険者向けの宿を営んでても、話せる獣型なんて初めて見たね」
おかみさんは「たまげた」とか「初めてだ」とか言っている割には、たいして驚いている様子でもなくそう言った。
「王都や大きな都市なら居るとは聞くけどね。ここら辺は強い魔物もいないから、そんな召喚魔を連れてる冒険者なんてさすがにお目にかかれないわよ」
長年宿屋を営んでるだけあってそういう話も詳しいのだろうが、あまり驚いた様子もないのは、見た目にも肝っ玉母さん風なおかみさんの性格的なものだろう。
「それはそうと、1週間なら朝夕の食事つきで200レオネでいいわ。クロムちゃんの食事代もサービスするわね!」
「それはありがたいが、俺に“ちゃん”付けは止めてくれ」
「あら、じゃあクロムでいいかい?」
「おお」
宿泊費を前払いでおかみさんに支払うと、部屋の鍵を渡された。
部屋はエフィルの隣なのだそうで、案内はエフィルがしてくれるようだ。
「部屋に荷物を置いて、落ち着いたら夕食を食べにいらっしゃい。今日の大鍋はシチューよ」
おかみさんの言葉を聞いたルーナは、急にお腹が空いていることを思い出したようだ。
「クロム! シチューだってよ♪」
「おかみさんの鍋料理は絶品なのよ」
エフィルの煽りで最早ルーナは完全に夕食のシチューしか頭にないようだ。顔がにやついて、今にも口からよだれが出そうになっている。
彼女曰く、おかみさんの召喚魔は“大鍋”らしく、その大鍋で作る料理はズッカ一と言っていい程の美味さだそうだ。だから店の名前も“大鍋亭”なのだろう。
ちなみに、おかみさんの名前はクレアというらしい。
クレアおばさんの――
うん、間違いなく今日のシチューは絶品だろうな。
タイトルはエレファントカシマシ「彼女は買い物の帰り道」より拝借




