【05-08】武闘大会『魔術部門』予選会
ツゥアイライド王国建国記念 第100回武闘大会魔術禁止部門は、サツマ君の勝利で幕が下りた。
アスカ君も、サツマ君に対してとても見ごたえのある闘いをしていたんだけど、やはり昔からその道にいる者には、圧倒的に技術が足りなかったみたいだ。なんせサツマ君は、流派は知らないけれど、日本に昔からある殺人剣術の師範代らしいからね。
僕らのパーティの中では、一番刃物に詳しい人物です。
今は、僕がでっち上げた日本刀擬きを使っているが、実は刀剣類ならば、なんでも使いこなせてしまうほどの腕前である。
それに対してアスカ君は、幼女体型で、イヌ(狼)耳と尻尾がある男の娘な僕が創った生体人形の体を手にしており、その身に有している(物理的な)力は、パーティメンバー最大値を誇っている。ある程度の武術は嗜んでいるとはいえ、その力任せに武器を振り回しているだけの戦術は、しっかりと武術を鍛えている者には到底及ばないわけで・・・・・。
結果、サツマ君に負けてしまった。しかし、元来の性格なのか、この世界に来て生体人形に転移したせいなのかは知らないが、アスカ君の性格は、『負けは負け、勝ちは勝ち』といったようにさっぱりとしている。そして、武器の扱い方を、サツマ君にご享受してほしいと懇願すらしている。
まあ、僕としてはだ。
1時間以上戦闘をしていたのにもかかわらず、二人ともかすり傷程度で、それ以外は無傷だという事だ。何処かの勇者様のように、満身創痍ではないのがまたいろいろな意味で恐怖を誘っている。
魔術禁止部門についてはこのくらいにしておいて、『魔術部門』が、午後から始まる。
この部門に参加しているのは、総勢で100人前後だった。魔術師自体の人口は、物理戦闘職に比べて圧倒的に少ないのは事実だ。
それは偏に、戦闘魔術を扱うには、『魔導』と呼ばれるスキルを持っていないといけないからだ。現に勇者君は、子のスキルを持っていないため、膨大に保有する魔力を魔法に変化させる事ができないのだ。
そしてこの『魔導』と呼ばれるスキル、先天的に取得する者なので、持っていないとどんなに頑張っても魔術の使用は不可能になる。また、たとえ両親がこのスキルを持っていても、その子供に引き継がれる確率は5%未満となっている。
だが反面、親戚や祖先に魔術師がいなかったとしても、このスキルをもって生まれてくる子供もいるあたり、スキルが保有できるのは、ほとんどうん任せに近い状況になっている。
そのため、たとえスラム出身でも、このスキルさえ持っていれば、将来安泰だともいわれているが、この世界には、自身のスキルを確認する手段がないのもまた事実。
この世界では、5歳の時に、転職神殿で魔力属性を調べる際に、このスキルがあるかどうかも一応判明するらしい。そのため、世界各国では、5歳を超えた子供には身分の貴賤を問わず、無料で調べる事ができるようになっている。お金をとったり、身分なんてくだらないもので、魔術師をみすみす逃すのは愚策といえるからね。
そして、このスキルを持っている者は、半強制的に、光属性持ちならば神殿へ、それ以外ならば国立の魔術学園(授業料は無料)へ行く事になっている。半強制的なのは、行くもいかないも本人の自由意思に任せているからだ。しかし実際は、自由意思とはいえ、持っている者は”自由意思”の名のもとに学園もしくは神殿へと足を向けていく。それは、身分の貴賤問わずに起こっている現象でもある。
光属性持ちは、当然さらに少ないわけで、治癒魔法が十全に使える修道女(修道士)になるには、さらに狭き門となる。また、初級の治癒魔術でさえ、発動させるための最低限の魔力量が、ほかの魔術の中級程度が発動できるほどの魔力が必要になる。
最低限、僕たちがいた地球程度の医療知識(最低限人体構造を理解していないといけない)があれば別だが、この世界ではそもそも医学的な知識の蓄積が、地球の中世以前くらいまでしかない。それは、外科的な医療技術以外の治療技術が発達しているからで、その分野に力を入れている国家・機関がないからだ。
そのため、医学知識は、個人レベルでのみしか蓄積されていない。また、そういった人種は、(金銭的理由から)本などによって広く知識を分散させる努力もしていないため、知識が広がっていく事すら皆無である。
回復魔術が使える僕が、大会のアルバイトをしているのも、ここら辺が起因しているわけだ。
長々と話したが、そんな理由で魔術師自体少ないわけだが、それでも100人も集まったのは快挙というべきだろうか。当初は20人程度を予定していたので、予選はない試合日程だったが、100人もいれば話は変わってくる。
そして、急遽始まった予選会。会場は、王立中央闘技場ではなく、王都の近郊を流れている大きな川の河川敷。そこに造られている処刑場だ。
予選の方法は、残酷と思われるが、死刑囚に対する魔術による公開処刑となった。処刑に使用する魔術は、予選会に参加する者に一任されている。
つまり、資材になった罪人を処刑するためのお手伝いというわけだが・・・・。
決勝トーナメントでは、対戦相手に対して致死級の魔術を使う事になるのだ。当然、対戦相手を死亡させる場合も存在する。現に魔術禁止部門の予選では、手加減ができずに死亡者すら出ているのだ。
そのため、遅かれ早かれ相手を殺す事が出来なければ、そもそも戦闘職は務まらないだろう。もちろん、この部門に出場する僕とトモエちゃんは、すでに盗賊相手に数回ほど魔術を行使して殺しているので、今更人殺しに忌避観はあんまり抱いていない。
この世界で暮らす以上、殺さなければ殺されるのだから。特に、犯罪者に対しては、容赦などしてはいけないと、すでに実践で学んでしまっている。
この予選会では、前衛のように相手の死を肌で感じ取れない後衛職の魔術師が、『生物を殺す』覚悟があるのかどうかを確認しているのだ。
まずは自己申告で、自身の魔術や体術によって人を殺した事が『ある者』と、『ない者』に別けられる。
まずは、人を殺した事が『ない者』から予選会はスタートする。100人中、90人くらいが人を殺した経験というか、前衛のように死を肌で感じた事がないと答えてきた。
人殺しを肯定するわけではないが、ちょっとばかり少ないような気がしないでもない。だって、その中には、騎士団所属と思われる者たちも交じっているのだから。
その中の半分くらいが、顔が青くなっている。たぶん、遠くからでも人もしくは、人型の魔物を殺した事がないのだろう。ゴブリンのような人型の魔物を相手にしていれば、人が殺した事がなくてもその覚悟はあるはずなので、震えはするだろうが青くはならないと思う。
処刑が始まる前に、試験官であり、処刑人である人から注意を受ける参加者たち。
「変な同情や感情は捨てろ。一思いに命を刈り取ってあげる事が、罪人どもに対する、唯一の温情だと知れ。むやみに死への時間を引き延ばすのは、あいつらのためにはならない。
では、手本を見てもらおうか。・・・・そうだな。闘技場での仕事もあるから、修道女のイズモ。お前が手本を見せてやれ。」
「わかりました。」
試験官から指名された僕は、試験官の隣に歩を進め、指定位置に立ち止まる。
20メートほど前、視線の先には、太い杭に体を固定させた罪人がいる。処刑人の1人が、罪人に対し処刑を許可する旨の書かれたモノを読み上げていく。
ちなみに、僕が殺す事になった罪人は、王都で暴れまわった有名な強盗団の頭らしい。そういえば、この街に来た数日後に受けた依頼の中に、そんなものがあったような気がしないでもない。あの時は確か、騎士団の許可をとってから、襲撃時の捕縛をせずにアジトを突き止めたんだったか。そして、強盗団全員を生け捕りにした記憶がある。
という事は、今回処刑される面々は、あの時生け捕りにした強盗団の皆さんが含まれているという事だ。
今回は、判決文の中に『晒し首』という文面がないので、別に消し炭にしても構わないのだが、『できる事なら、首から上は無傷で』と、先ほど試験官に頼まれている。首から下は、どんな風になっていても構わないらしい。
ならば、後腐れなくギロチンと行きましょう。
僕は、イメージを構築して魔法を放った。使用した魔法は、風の刃である『鎌鼬』だ。狙った場所は首。
狙い通りに首に鎌鼬を飛ばし、胴体と泣き別れさせて一瞬で命を刈り取る。その後、胴体からは血の噴水が出現したが。
実のところ、数ある処刑方法の中で、ギロチンが一番罪人には優しい処刑法でもある。なんせ、痛みも何も感じ取る事なく、一瞬で命が刈り取られるからだ。まあ、処刑人の腕が悪いと、その限りではないが。
僕は、一発で予選を突破して、決勝トーナメントへと駒を進める事ができた。今回、ほとんどの参加者が人も殺した事がないヒヨっ子たちばかりだ。さて、何人が決勝へと、駒を進める事ができるのかな?
そんなことを思いながら僕は、バイト先である闘技場へと戻るのであった。
その後、トモエちゃんから聞いた話では、ヒヨっ子たちが担当した罪人は、総じて死の恐怖を味わっていたみたいだ。僕のように、一瞬で命を刈り取ったわけではなく、中途半端に体を吹っ飛ばされたのが多いらしい。吹っ飛ばすなら、爆散させてあげればいいのにとその時思っていたらしい。
ちなみにトモエちゃんは、こんがりと焼いて消し炭・・・・を通り越して、灰にしたみたいだ。その後、風の魔術を使って、灰すらも霧散させるおまけ付きらしい。
そうそう、勇者君パーティの魔術師であるイナバ=アークネスト=クランダルという人物は、僕のようにギロチンを選んだらしい。彼女は生前、僕ではなく和泉ちゃんをイジメていた筆頭だからね。和泉ちゃんに聞いた話では、殺される一歩手前まで追いつめていたらしいから、殺しに関しての忌避観は、生前から薄かったと思われるわけだ。
思い出したら、会いたくなってきた。
今度暇を見つけて会いに行こうかな。何処にいるのか解っているしね。和泉ちゃん・・・・今は確か『イズミ=エステイル=ハーネスト』って名前になっていて、世界の中心にあるで世界神様を祀る神殿で、『第19代世界神眷属聖女姫』をやっているんだよね。この神殿がある国にも、なぜか行った事はないけど跳べるから、日帰りでも可能だし。
結果、決勝に駒を進めた人・・・つまり、一瞬で命を刈り取る事ができた人は、100人中30人。そのうち騎士団所属は20人で、3人を残して全員棄権したため、残りの14人で決勝戦を戦う事になった。
大会後に、いろいろと付き合いが始まった試験管・・・・実は、この国の騎士団団長だったらしいから聞いた話で、この部門に参加者が多かったのは、騎士団所属の魔術師たちの登龍門としての一面があったからだと知った。実は騎士団の中の『魔術師団』に所属している者たちは、直接死を感じた事がなかったらしい。もちろん後衛から魔術を放って殺す経験はあるが、肌で感じる事はほとんどないからね。
そのため、本当の意味でのヒヨっ子たちに、『生物を殺す』覚悟を試していたらしい。
今回予選に突破した後に棄権者があったのは、その覚悟ができていた者が棄権したからであり、残った3人は、たまたま運よく罪人を消し炭にしただけ(本人の申告で判明)だったかららしい。




