【05-06】勇者様の黄昏(その2)
「それでは治療を開始します。床に描かれている円の中にお入りください。」
金貨1枚を投げ入れた後、修道女の女の子は、その澄んだ声音で立ち位置を支持する。俺は、その指示通りに床に描かれている円の中に進んだ。
「【スキャン】」
修道女の発音した言葉で、床に書かれていた円の内側が、不可思議な文様を描く魔法陣へと変化、その後、床から天井に向けてその魔方陣がせり上がってくる。
こんな魔術、聞いたことも見た事もないが・・・・。それよりも、結構複雑な魔術を、無詠唱で発動させる修道女の実力に驚く俺。
実際は、魔術名も唱えなくても発動するんだろうが、あえて唱えているんだろうと推測する。
「体中に切り傷や擦り傷がたくさんついていますね。命にかかわるものではありませんが、一部は内臓にまで届いてしまっています。この影響で、ちょっとばい菌も入り込んでしまっていますね。
ついでに言いますと、右腕には古傷があって、そのせいで剣を振るう時に余分な力が入ってしまっている感じですね。その影響で、体の芯がずれてしまっています。
今後の事も考えて、これらもついでに治してしまいましょうか。今治しておかないと、変な癖がついてしまって余計な力を使う事になり、本来の実力を出せなくなります。」
たった数秒の事で、ここまで解ってしまうとは、早早恐れ入る実力だ。
それに、昔付いた古傷で、変な癖がついてしまっているのも分かってしまったみたいだし。
確かにこの傷がついたあの時、しっかりと治さずに来てしまった事を、しばらくしてから後悔したものだ。後悔した時は、すでに傷が固まってしまっており、その時にいた国の治療師たちでは、腕が足らずに治す事が出来なかった。
「この前見てもらった治療師では、この傷を治すのは無理だといわれたのだが、君は治せるのかい?治せるのならばついでにお願いしたいな。別途料金はかかるのかい?」
俺の質問に、「治療可能」との返事をもらい、この大会で付いた傷を治す過程で、これから使用する治癒魔術の性質上ついでに治療されてしまうため、追加料金もかからないとの説明を受ける。
「ではいきますね。【全能完治治癒】」
先ほどの【スキャン】の発動後、ただの円に戻っていた床の模様が、再び複雑怪奇な魔方陣へと変化し、天井へとせり上がっていく。
魔法陣が消えた後、古傷を含めたすべての傷がきれいになくなってた。
治療所をたたき出された俺は、急いで修道女の事を調べる。もちろん、事情を説明してパーティメンバーにも手伝ってもらう。
古傷すらもついでに直せるその実力。
俺たち勇者パーティに、是非とも必要な能力である。さらに言えば、無詠唱で治癒魔術の最上位である魔術を使える実力者だ。これから旅を進めていくにあたり、あの長ったらしい詠唱を唱えていたら、治せるものも治せなくなるだろう。
しかし一晩では、彼女の事を深く知ることはできなかった。
冒険者ギルドで調べれたのは、彼女に対する基本的な情報のみ。それも、ギルドカードの表面に表示されている情報のみだ。
それによると、彼女の名前は『イズモ』、どこかで聞いたような名前だが、あいつは男だったので同姓同名の別人だろうと判断すする。
彼女は、修道女として職業登録しており、冒険者ランクは『C+』である。魔法使いのトモエ、武闘家のアスカ、アスカの奴隷であるエルフ族で精霊術師のコレット、ダークエルフで魔法剣闘士のアズール、エルフ族と妖狐族のハーフで、精霊呪術師のシャルル。あとは、これまた聞いた事のある名前だが、今回の大会にも出場し本戦に駒を進めている、(本当の戦い方は知らないが)棍棒を使っていたイヨ、ショートソードのナガト、日本刀(日本刀もこの世界にあったんだと初めて知った)サツマ、白色の修道服姿でありながら、なぜか鉄扇なんて言うマニアックなものを使うフタバ。
この10人で、『ジャポニクス』というパーティを組んでいる。
イズモ本人も、今大会の出場選手であるゆえ、出場する『魔術部門』と『複合部門(パーティ戦)』では、公平性を維持するため、決勝終了までは医務室勤務は禁止されている。このため、この2つの部門に出場する選手は、回復手段を用意しておく必要がある。もちろん、試合中自身のパーティに対して行使される、治癒魔法等の使用は認められている。
翌日。
修道女の調査を継続しながら、大会日程を進めていく。
彼女の調査を継続して行っているのは、俺たちの中で一番権力のあるティリアだ。王族という肩書は強大なのだ。その気になれば、個人情報など簡単に閲覧可能である。ただし、自身の国家内では最強のカードとなるが、国家外だと、うまく立ち回らないと最凶のカードとなってしまうらしい。
さて、試合のほうだが・・・・・・。
第6試合、ジョンベロンVSナルミ=シンジョウの試合結果。
ナルミさんは、転生者である俺とイナバとは違い、元の体を持った転移者だ。魔術も少々嗜んでいるらしいが、この部門では、物理である楯と槍で出場している。というか、魔術は補助と豪語しており、あまり得意ではないらしい。
対するジョンベロンは、その手に持っている巨大なハンマーを操るドワーフで、A級冒険者でもある。
そんな二人の闘いは、その圧倒的な力でナルミ選手の防御を突破したジョンベロン氏の圧勝であった。
そして、午後に入って最初の試合、第11試合。
つまり、俺の出場した試合だが、前日にイズモさんに治療して完治した古傷がなくなり、変な力が入らなくなった体は、思った以上にキレのいい動きをしてくれた。その結果、試合時間約10分という瞬殺レベルで試合を終えてしまった。もちろん、相手からの攻撃は一切受けていない。そのため、怪我の治療を名目に、彼女に会う事ができなくなってしまった。
さて、ティリアによる調査結果だが、彼女については、ほとんど何も解らなかったというのが現状である。というか、どうもこの国の出身ではないらしく、記録が2ヶ月ほど前のモノしか存在していなかったのだ。それ以前の記録はなく、彼女の生い立ちを追う事が出来なかったらしい。
まあ、出身地がこの国ではない事だけは確定しているので、俺たちのパーティへの加入条件だけは満たしているのだが、彼女に関しては権力を使って、強引に移籍させる事ができないのがネックである。




