Am I ready?
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「おらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
煌めく斬撃一閃、凶悪な魔物が断末魔をあげながら消滅する。
ピピッ
レベルが上がりました。
「ふぅ……いっちょあがりっと」
俺は爽やかに汗を拭う。
「マスター、相手はレベル1のグリーンスライムよ。そんなに気合入れなくてもいいんじゃない?」
うちのナビは正直過ぎる。
「こうでもしなきゃ飽きちゃったんだよ。これで何体目だっけ?」
「38体よ」
思ったよりも多い。
それぐらい没頭してたんだろうか。
如月のこと、狼達のこと、この世界のこと。
考えていたら頭がパンクしそうになったので、レベル上げも兼ねてこうして単独でも簡単に狩れるモンスターを倒している。
「ヒィーーーッハァーーー!!」
奇声のした方を向くと、ヤマトが楽しそうにモンスターを狩っている。
どうやらヤマトも俺と同じ頭パンク組らしく、なら一狩り行こうぜ!ということになったのだ。
「おーい!ちょっと休憩しない?」
ヤマトは声に気付いてグーサインをすると、そのまま豪快にスライムにアッパーを見舞った。
「何体いったよ?」
軽く息を切らしながらも、目をキラキラさせてヤマトは尋ねた。
「38体かな」
「俺の勝ちー!さっきので記念すべき50体目だったんだぜ!」
何を記念するのか分からないが、ヤマトはこれ以上ないドヤ顔で誇らしそうだった。
「競争なら俺だってもっと本気出したよ」
意図せず生来の負けず嫌いが顔を出す。
「しょうがねぇなー、じゃぁ先に100体いった方が勝ちで負けたやつ後でジュースおごりな!」
そのルールだと既に若干ハンデがあるが、俺も男だ。
「よし分かった、じゃぁスタートな。あっUFO!」
まさかこんな古典的な手が効くとは思わないが、俺は再びスライムに向かって駆け出した。
後ろからふざけんなよ、嘘かよ!という声が追いかけてくる。
俺達2人はその後も鬼神の如くスライムを狩り続けた。
「はぁ……はぁ……これでラスト!」
もはやスライムの体液のせいで斬れ味もへったくれもなく、只の鈍器と化した剣を振りかぶる。
ドォォン!
横からヤマトが体重を込めた一撃を放つと、スライムは吹っ飛びながら消滅した。
「どうやら俺の勝ちみたいだな」
そう言ってヤマトはニヤリと笑った。
帰りにスライムを狩って得た諸々の戦利品を素材屋で売ると320Gになった。
新しい武器を買おうかと思ったが、これからの宿代などを考えるとそうもいかない。
近くの食材屋で20Gを払って自分とヤマトの分のジュースを買う。
「かぁぁぁぁっ!うっめぇな!」
確かにジュース自体も美味しかったが、なにより自分で稼いだお金で買ったからより美味しく感じるのかもしれない。
「もう日が暮れそうだな」
ヤマトの言葉につられて空を見上げると、空の底を濃紺の夜の始まりが侵食し、西日の残滓が道行く人々の影を細長く伸ばしている。
「そうだね、あっという間だった」
「トータはこの後どうすんだ?俺はジンと武器屋とか回るけど一緒に来るか?」
「んー行きたいけど今日は遠慮しとく。夜に備えて宿で休もうかな」
「あぁそっか!お前狼のとこ行くんだもんな。完全に忘れてたわ、ガハハハハ!」
俺にもこれくらいの図太さがあればなぁと少し羨ましくなる。
「うん。失敗は出来ないし、タケルさんの足を引っ張らないようにしなきゃね」
ヤマトがう〜んと唸る。
「もっと自信持ってやっていいんだぞ?もしダメでも俺達がなんとかする。だからお前は何も考えずに思いっきりやってこい」
ストレートな言葉が心に染み渡って、気持ちがスッと軽くなる。
「ありがとう。頑張るよ!後方は任せた」
「おう、ジンもユウもいるから大丈夫だ!」
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宿に戻った頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
今は……19時か。
待ち合わせが22時半だからまだ3時間半ある。
宿に入るとおばさんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり」
なんだか恥ずかしくなる。
「あ……た、ただいま」
「夕飯も今用意するから、先にお風呂に入ってきちゃいなさい」
「急ですいません、ありがとうごさいます。これ宿代です」
「あら後でいいのに。ちょっと待っててね」
おばさんは少したってから戻ってくるとタオルを貸してくれた。
風呂に入って夕食を食べ終わり、部屋に戻る。
結局レベルは1しか上がらなかったな。
ベッドに横になると、スライム討伐の疲れが心地よく、睡魔が襲ってきた。
「ナビさんいる?」
「なぁにマスター?」
風呂の中で考えていたことを伝える。
「さっきのレベルアップでもらったPPでファーストスキルの『基礎体術lv1』を取得しようかと思うんだけどどうかな?」
「いい考えね。中途半端に魔法を覚えるくらいなら、今は体術に絞ったほうがいいと思う。なによりマスターの防御力だと、やられる前にやれがいいんじゃない?」
情けないが、ナビさんの言う通りだ。
「そうだね、じゃぁそれでよろしく。俺はちょっと眠いから寝るよ、22時になったら起こし……て……」
ジリリリリリリリ!!!
けたたましい音が鳴り響く。
俺の優しいナビさんが音量を最大にしておいてくれたらしい。
お陰で一瞬で目が覚めた。
寝ぼけ眼でタケルさんにもらった革鎧を現出させ、試行錯誤しながらなんとか装備する。
腕から腰まで覆っているためそれなりの重量感があるが、間違いなく鉄製のものよりは軽いだろう。
裏側にはよく分からない落書きのようなものが描かれていて、様々な人の手を渡ったであろうこの防具の歴史を感じさせた。
ただ1つ残念なのは……
待ち合わせ場所に着くと、既にジンを除いた全員が揃っていた。
もちろん2人組もいる。
「お前その格好なんだよ!」
ヤマトが俺を指さして爆笑した。
他の面々は無関心そうな如月を除いて笑いを堪えている。
「いやなんだよって言われても」
確かに革鎧にジーパンはダサいけど下がこれしかないんだからしょうがないだろ。
「トータ君、いい心意気だ。でも普段からそれじゃ大変じゃないか?防具を装備するのは戦闘の時だけで大丈夫だよ」
戦闘の時だけ?
「アイテム欄から装備を選べば、一瞬で装備出来るはずだ。やってごらん?」
タケルさんに言われた通りにアイテム欄から『無地のパーカー』を選択して装備をタッチすると、一瞬で装着していたはずの革鎧が消えてパーカーになった。
マジか……
ナビさん言ってくれよ……
まぁどうせ問い詰めたら「装備の感触を確かめたいのかなって思ったのよ」とか言うんだろうが。
ようやく笑いが一段落ついたところでタケルさんが口を開く。
「ヤマト、ジン君は?」
「あいつなんか用があるっつってどっか行ったよ。『構わず遂行してくれ』って言ってた」
ヤマトがジンの物真似をしながら説明した。
その横でユウが何かを言いたげに口をもごもごさせている。
「そうか、彼なりに何か考えがあるのかもしれないな。よし、じゃぁ出発しよう!ヤマト、ユウ君頼んだ」
「おう!任せろ!」
いよいよだ。
なんとしてでも無事に終わらせる。
月明かりに照らされた街道を俺達は歩き始めた。
次回2章王狼編決着。




