邂逅
なんでログアウト出来ないんだよ……
そんなこと絶対あり得ないだろ。
二度と元の世界に戻れない
嘘だ
「システムになんらかの問題が生じている可能性もあるわ。だから諦めちゃダメよマスター」
諦めちゃダメ?
なに言ってんだよ、さっきからずっとログアウトの仕方を探して、それでも全然見つからなくて、挙句の果てにバカみたいにログアウトって叫んだじゃねぇか。
なんなんだよ……
俺はHSOが遊べるって、ただ普通に楽しみにしてただけなのに。
なんで俺だけが…………
俺だけが?
「他は?俺以外のプレイヤーはどうなってる?」
「まだそのような報告は聞いていないわ」
はは、他人事みたいに冷静に言ってくれるよな。
他人も同じ不幸に巻き込まれればいいなんて腐ったこと考えて……
最低だ俺。
二度と元の世界に戻れない。
認めたくない現実がひたひたと背後から迫ってくる。
「おかしいだろ!なんで俺だけがこんな意味分かんねぇことになってんだよ!!!
家族も友達もなにもかも皆捨ててこんな世界にずっといろっつうのかよ!!!!!
俺は……普通に生活してただけなのになんで……」
自分が過ごしてきた味気ない平凡な日常を嫌っていた。
どこかで変えたいと、特別な存在になりたいと思っていた。
叶ったじゃないか。
入手困難なHSOを路地裏で偶然見つけて、その世界で唯一のスキルを持って全プレイヤーを相手にするなんて望んだって出来ることじゃない。
これが特別じゃなくて何が特別なんだよ。
クソくらえだ。
絶対に戻ってやる。
なんとしてでも、どんな手を使ってでも戻る。
待てよ……
「確かLv10以上になって死んだ場合、この世界から追放じゃなかったか?」
なんで応答しないんだよ
「答えてくれよ!!!
あんたには関係ないかもしれないけど、俺にとっては本当に大事なことなんだ……頼む」
「関係ないなんて言わないで」
今まで聞いたことのない、悲しい声だった。
「ごめん」
「もし私がそうって言ったら、マスターはきっと自分から死のうとする。安全に戻れる保証なんてどこにもないのに、そんなこと……簡単に言えるはずないじゃない」
「それでも……
「最悪の場合、マスターの存在はこの仮想世界からも、向こうの現実世界からも消滅する」
突きつけられた現実は、鉛のように重く深くゆっくりと沈んでいく。
「それでもやるしかないんだよ、馬鹿な俺にはそれくらいしか方法が思いつかないんだ。
少しでも可能性があるなら、それに賭けるしか……もう……」
「なぁぁぁに悲劇のヒーロー気取っちゃってんのぉ?」
振り返ると、見たことのない男が立っていた。
暗紅色の瞳と生気の感じられない顔色、それに華奢な身体が、調和されていない、どこか不完全で人間離れした雰囲気を醸している。
「誰だよお前」
「はぁ?俺がお前の名前なんざ興味ねぇんだからお前も俺の名前に興味もつなよ虫けらちゃん」
「なんだと?」
咄嗟に歩み寄ろうと一歩目を踏み出す前に、胸に人差し指を突き立てられる。
コイツいつの間に近づいて……
「死にてぇらしいじゃんお前。
暇だから殺してやるよ」
いきなりなに……
「『零爆』」
醜悪な笑い声が、次第に遠のいていった。




