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WORLD BREAKER  作者: 香月 悠生
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エリスの願い



エリスは俯きがちに立っていた。


「あっ、あの……夜分遅くにすいません」


栗色の前髪を右手で撫でつけながら顔を赤らめるエリスは、もはや男心を射る天使にしか見えなかった。


「い、いや全然、全然大丈夫!全然大丈夫だから!」


動揺がそのまま口から漏れてしまった。


気まずい沈黙が流れる。



「あの……入ってもいいですか?」


「え、あぁ!気付かなくてごめん!どうぞ入ってください」


もはや言語として成り立っていない気がする。

後でナツさんからこっぴどく説教をくらうのは確実だろう。


「お身体のほうは大丈夫ですか?」


「うん、おかげさまですっげぇ元気になった。美味しい夕飯までご馳走になったからね、本当にありがとう」


「よかったぁ♪トータさんの口に合わなかったらどうしようって、ずっと心配だったんです」


エリスは安堵の表情を浮かべる。

俺の嫌いなトマトでさえ、エリスが調理すればいくらでも食べられるに違いない。


「わたしにはこれくらいしか出来ないから……」


やっと聞き取れるくらいの声でエリスが呟く。

心なしか表情が曇った気がした。


馬鹿な俺にはそれがなにを意味するのかは分からない。

でも、例え微力だとしても、力になってあげられるかもしれない。


「エリス、もしなにか悩んでることがあるなら俺に言ってくれないか?俺じゃ役に立てないかもしれないけど、お世話になったお礼がしたいんだ」


本当はギブアンドテイクのようにクールに割り切ってなんか考えられない。

正直エリスにいいところをみせたいという気持ちもある。

俺は正義の味方みたいに、困っている人を見かけたら無条件で全員助けるような聖人なんかじゃない。

煩悩にまみれた平凡な人間だ。


エリスはじっと俺の顔を見据えた後、話を切り出した。


「わたしと父は、半年ほど前に母を病気で亡くしました。

それからというものの、父は休み無く、寝る間も惜しんで働き始めたんです。

父と会話する時間もほとんどなくなり、必ず一緒に食べると家族で約束していた夕飯でさえも、別々に食べることが増えました。

でも……今日はトータさんのおかげですごく久しぶりに父の笑った顔を見れたんです。

わたし、すごく嬉しかった。

けれどこのままでは、父はいつか身体を壊してしまいます。

わたしには、それを黙って見ているなんて耐えられません。

もう……家族を失うのは嫌なんです」


気丈に話していたエリスの頬を、一筋の涙がつたった。

エリスは急いでそれを手で拭うと、俺に笑いかけた。


「ごめんなさい、絶対に泣かないって約束したのに。あ、トータさんこの写真を見て頂けますか?」


そう言ってエリスは一枚の写真を取り出した。


家族3人が満面の笑顔で、仲良く手を繋いで写っている。見ているこっちまで幸せになれそうな写真だ。


「わたしの宝物なんです。父は写真があまり好きではなくて、めったに一緒に撮れないから」


エリスは俺に身を寄せて写真を指差す。甘い匂いがふわっとして、一瞬どきっとしてしまう。


「実は相談というのはこの花のことなんです」


確かに、エリスとエリスのお母さんは綺麗な白い花を頭につけている。


「『フェリシュ』っていう花で、わたし達家族3人にとって思い出が詰まった大切なものなんです。この花を贈ると、相手も自分も幸せになれるって言い伝えがあって、わたし達は仲直りしたい時や、誕生日などには必ずフェリシュを摘みにいっていました」


「この花をお父さんに渡したいんだね?」


エリスは頷く。


「もしかしたらフェリシュなら、お父さんを変えられるかもしれない。本当は自分でなんとかしなきゃいけないんですけど、わたし役立たずだから」


「エリス、自分のことをそんな風に悪く言っちゃダメだ。俺もその考えはいいと思うよ。

ただ、花を摘みにいくのになにか問題があるんだね?」


「はい、フェリシュが咲いているアルムの森は、以前は平和だっただのですが、最近凶暴なモンスターが現れるようになって、わたし1人では……」


答えなんて決まっている。


「分かった、俺がフェリシュを摘んでくるよ」


エリスの表情がぱあっと明るくなる。


「本当ですか?トータさん、ありがとうございます!もちろんわたしも同行させて頂きますね」


「いや、エリスはのこっ……


「そんなこと出来るはずありません!トータさんの邪魔にならないようにしますので、連れていってください」


エリスは有無を言わさない表情だった。これは説得するだけ無駄だろう。


「分かったよ、じゃぁ明日の朝出発しよう」


「了解です、じゃぁ……トータさん、また明日」


「うん、また明日」


エリスはドアノブに手を掛けたあと、振り返って小走りでこっちに歩み寄る。



!!!!!!!!!!!!!!!

今頬にこの世のものとは思えない柔らかいものがあたった気が……



「おやすみなさい」


エリスは顔を真っ赤に染めて部屋を走るように出ていってしまった。


「マスターやるわね」


ナツさんの声が、いつもより数倍遠くから聞こえた。






ピピッ

シークレットクエスト受注完了


【エリスの願い】推奨Lv10〜


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